眉毛

佐野三葉

文字の大きさ
上 下
8 / 9

番外編 父と母の攻防戦 その5

しおりを挟む
今回は、海外出張のチームリーダーだったこともあり、2週間忙しかった。
家族の声を聞きたかったけど、そんな時間も取れなかった。
晶さんがみんなの様子をメールで送ってくれてたから、大丈夫だろうと思っていた。

まさか、こんなことになっていたとは・・・。

晶さんが作ってくれた夕飯は、いつも通り美味しかったけど、茉鈴が大人びて見えて、少し寂しくなった。

「航平から、茉鈴のことは晶さんから聞いてと言われたんだけど。」
子どもたちが、自分の部屋に行ったのを見計らって尋ねた。

「ああ、実はね。眉毛でちょっといろいろあってね・・・。」

晶さんにしては、珍しく言いにくそうに説明を始めた。
茉鈴がどうして激変したのかー。

茉鈴が眉毛をカットしていた時に航平がぶつかったこと、けがはなかったけど、茉鈴が眉毛が伸びるまで学校を休むと言って困ったこと、担任の先生に事情を説明して、病欠にしてもらったこと、不登校にならないように、晶さんが茉鈴と向き合ったことー。

「そんなことが。」
茉鈴が目をケガしなくて本当に良かった。航平は、昔から物や人によくぶつかる。きつく叱る必要があるな。


「航平も、ものすごく後悔して、ずいぶん茉鈴につくしたの。最近は、注意して歩くようになったから、物にもぶつからなくなったの。だから、できればあまり掘り返さないで欲しいのよ。」
晶さんが、僕の厳しい表情を見て、航平をかばった。

「どうして、教えてくれなかったの?」
いつもより口調が、厳しくなっている自分に気がつく。
僕は、君にとってそんなに頼りないのかな。

「渉さんが仕事が手につかなくなって、出張が伸びたら、心配だし・・・寂しいもの。」
晶さんが、うつむいてそう言った。甘える晶さんは、珍しい。
か、かわいい。

「晶さん・・・。1人で抱えさせてごめんね。
僕が、出張の間、仕事に集中できたのは、晶さんのおかげだよ。
航平には、1回話して注意するだけにしておくよ。罰はもう受けたみたいだから。」

晶さんが1人で2週間も家族の為に頑張ってくれたのだ。家にいなかった僕が、蒸し返すのは辞めよう。

「よかった。」
晶さんは、ほっとした顔をしてくれた。僕も晶さんのそんな表情が見れて、ほっとした。







だけど、このまま茉鈴に変な虫が付くのは放っておけない。

そうだ、転職しよう。

できるだけ家にいられる仕事がいい。早速、探そう!

晶さんに僕の転職を納得してもらうためには、それなりの成果が見込める仕事を見つけなければ。

渉は晶に気づかれないように、書斎でネット検索して情報を集め始めた。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

渉さんが、納得してくれたようでよかった。

でも、あの悩んでいる表情からして何か、次の策を練っているのだろう。

まだまだ気は抜けない。

晶は、渉が日記を書き加えるのを待った。

2日後ー

ああ、日記の内容が追加されている。
こまめに記録してくれるところは、相手の動きが分かりこちらとしては助かるわ。


【20△8年6月4日
 茉鈴が、晶さんの手で可愛さを取り戻した。
 もう眩しすぎるほど、うちの娘は可愛い。
 茉鈴の良さを120%引き出した晶さんは、すごい。
 娘のことをよく分かっているのだなあ。
 茉鈴も、とても嬉しそう。
 僕も家族を守るために、全力を尽くそう。


 茉鈴を虫から守るために

 ①仕事を早くおわらせて帰る
 ②転職を考える(自宅でできる仕事)】

①は、ぜひ実行してもらいたい。仕事に夢中になると、渉さんは、ご飯も睡眠も削るタイプなので、これはいい決意だ。思わぬ収穫だ。

②は、困るなあ。
家で、できる仕事・・・。
渉さんは、優秀だ。家でだって仕事は、できるだろう。

これは、まずい。

急いで次の手を打たなければ!
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

大好きな幼なじみが超イケメンの彼女になったので諦めたって話

家紋武範
青春
大好きな幼なじみの奈都(なつ)。 高校に入ったら告白してラブラブカップルになる予定だったのに、超イケメンのサッカー部の柊斗(シュート)の彼女になっちまった。 全く勝ち目がないこの恋。 潔く諦めることにした。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

the She

ハヤミ
青春
思い付きの鋏と女の子たちです。

秘密のキス

廣瀬純一
青春
キスで体が入れ替わる高校生の男女の話

1974年フランクフルトの別れ

多谷昇太
青春
1974年ヨーロッパ旅行中(放浪中?)に経験した、ある人との出会いと別れを記したものです。わずか20分ほどの邂逅でしたが今も心に残っています。人との出会いは神様にしかつくれません。甘酸っぱい、胸の痛みをともなう記憶とはなりましたが、この出会いを経験させてくれた神様に感謝しています。あの日あの時の、人と人との(男と女の?)出会いを、どうぞ皆様も味わってみてください。

鷹鷲高校執事科

三石成
青春
経済社会が崩壊した後に、貴族制度が生まれた近未来。 東京都内に広大な敷地を持つ全寮制の鷹鷲高校には、貴族の子息が所属する帝王科と、そんな貴族に仕える、優秀な執事を育成するための執事科が設立されている。 物語の中心となるのは、鷹鷲高校男子部の三年生。 各々に悩みや望みを抱えた彼らは、高校三年生という貴重な一年間で、学校の行事や事件を通して、生涯の主人と執事を見つけていく。 表紙イラスト:燈実 黙(@off_the_lamp)

処理中です...