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それぞれの1日 その4 ~匠&楓~
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~退社後~
課題に僕も取り掛からないとな。
そう思いとりあえず、本屋に行き、書写の練習手帳を買ってみた。思ったより、種類が豊富で選ぶのに時間がかかってしまった。最終的には、どれでもよくなってしまい「ど・れ・に・し・よ・う・か・な・・・。」で適当に決めた。
夕飯は、遅くなったので帰りにスーパーの半額弁当を買った。
2月の夜は、体の芯まで冷える。早く家に帰ろう。
マンションに着き、玄関のドアをガチャリと開ける。
シーンとした部屋が、匠を出迎える。
ああ、やっと家に着いた。
匠は、居間のファンヒーターのスイッチを入れ、寝室に行きスーツから着替えると、居間に戻った。
ファンヒーターの前に座り、しばらく体を温める。
ファンヒーターの中の青白い炎をぼうっと眺める内に、体が十分に温まった。
夕飯、食べるか。
味噌汁くらいは作ろうか。
唐揚げ弁当だから、唐揚げの個性に負けない味噌汁が食べたい気分だ。
豆腐とわかめとおふの赤だしの味噌汁にしよう。
冷蔵庫の中を見て、匠はそう決めた。
カットわかめを水で戻す。
その間に、鍋にお湯を沸かす。
出汁を入れ、包丁を使い掌の上で、さいの目に切った豆腐を入れる。
赤だしの味噌汁を目分量でお玉に取り、菜箸で解いていく。
赤だしのいい香りが広がる。
水気を切ったわかめとおふを入れて、弱火で少しの間火を通す。
煮立たせ過ぎないように注意して火を止めた。
「よし。出来たな。」
電子レンジで、お弁当を温める。
ブーン・・・チン!
弁当と味噌汁の入ったお椀を簡単にテーブルに並べた。
「いただきます。」
ごくり
味噌汁を1口飲む。
ああ体が温まる。赤だしの味が元気をくれる。
からあげを頬張る。
ご飯をそこで1口。
野菜も忘れずに1口食べる。
面倒で野菜もそのまま温めたが、やっぱり取り分けておいた方が美味しい。
次回は手間でも、皿に取っておこう。
ご飯を食べ終え少しの間ぼうっとしていた。
おもむろに時計を見上げると、20時12分を指している。
そろそろ書写の練習でもするか・・・。
片付けもそこそこに、ノートとお手本を広げる。
ボールペンを持つ指に力が入る。
1ページ練習して、お手本と書いた字を見比べた。
「やっぱり僕の字は、相変わらず人には見せられないな。はあ。」
お手本を真似て書いたはずなのに、似ても似つかない自分の字に、情けなさを感じる。
「これでも小学生の頃に習ったことがある」とは、誰にも言えない。
「もう2ページくらいは練習するか。」
情けない気分のまま再びボールペンを手に持った。
やりたくないと思っているせいか10分もせずに、眠気が襲ってくる。あくびも出てきて何度も手が止まる、視界がぼやけて、瞼が重くなる。
楓・・ちゃんは、朝から課題を・・・頑張っ・・たんだ。
ここで、やめるわけには・・・・。
だめだ・・・。
眠い・・・。
匠はテーブルに突っ伏して眠ってしまった。
ララララ ララン ラララララン♪
ララララ ララン ラララララン♪
「あ。ああ、21時か・・・。」
毎日設定している携帯のアラームで、目が覚める。
練習帳を見ると、字が枠から徐々にはみ出していた。最後の方は、漢字の「風」の字が、いびつに変形していて、
睡魔との葛藤の跡が伺える。
「また明日頑張ろう。」
匠は、諦めるとノートを片付けた。
残業で遅くなる日以外は、22時から楓と電話で話すのが、いつの間に楓との交際でできた習慣だ。
匠は、楓との電話が終わった後にすぐに眠れるように、食事の片づけをしたりアイロンをかけたり風呂に入ったりと翌日のための準備をし始めた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
~22:00~
「お疲れ様~。匠さん、今日はどうだった?」
楓のちょっとのんびりして明るい声が、電話の向こうから聞こえる。
「まあ。いつも通りだったよ。楓ちゃんは?」
ーああ、やっぱり楓ちゃんと話すと癒される。
「わたしは、出だしはよかったんだけどねえ。・・・。仕事行く前にうたた寝しちゃって、失敗しちゃった。へへ。」
楓が苦笑しながら話した。
「遅刻したの?」
「んーん。お父さんが車で送ってくれたからギリギリセーフだったよ。」
「そっかあ。間に合ってよかったね。」
「うん。本当に助かったよ~。今日ね、朝、お父さんの代わりに庭の掃除をしたの。その時に、桜と紅葉と柿の木を見てね、妖精がここにいるんだなあって思ったら、なんか温かくて特別な気持ちがしたよ。」
「うん。」
ー楓ちゃんの中では、もうしっかりと瀬戸家の歴史を受け止めたんだな。妖精と言えば・・・。
匠は、昨日睦月さんに会ったのを思い出した。
「そう言えば、睦月さんが昨日の夜、僕の家に会いに来てくれたんだ。」
「え!そうなの!?睦月さんなんて!?」
「僕が寝付けずに困ってたら眠れるように、魔法のかかったお茶をくれたよ。」
匠は、昨晩のことを思い出しながら答えた。
「いいなあ。わたしすぐに眠っちゃたからなあ。わたしも、起きてればよかったなー。」
睦月さんの読み通り、楓ちゃんには助けはいらなかったらしい。
「そうそう睦月さんから、楓ちゃんに伝言があるよ。」
「え!なになに!」
「楓ちゃんが【頑張ってたらその内会いに行く】って言ってたよ。」
「そっかあ~~!頑張ってたら会いにきてくれるんだあ。よーし。気合を入れて、真面目にやんなきゃだね。」
睦月の伝言を聞いて楓はますますやる気が出てきたようだ。
「睦月さんに会うのそんなに楽しみ?」
睦月さんは思いやりがあると思う。それにあのかっこいい容姿だ。楓が睦月に会う時のことを想像して、匠の胸のあたりがもやもやしてきた。
「うん!だって、匠さんのことも助けてくれたし、良い妖精さんだよね?」
「いい妖精だと思ったよ。・・・・・・。楓ちゃん、僕たちの結婚のためにも、課題を頑張ろうね。」
「もちろん!」
「・・・・・。」
「あ!睦月さんに会いたいって言ったから、心配になった?大丈夫だよ。わたしにとっての1番は匠さんだから」
「・・・・・・・・・。」
ーああ、僕が話せなくて困っている時に、楓ちゃんはいつも僕の気持ちをくんでくれる。
匠のモヤモヤした気持ちが和らいでいった。
「もしもーし。匠さん?おーい。」
「楓ちゃん、ありがとう。・・・。僕にとっても楓ちゃんは、1番だよ。」
そう言葉にすると匠は、顔が熱くなるのを感じた。
「・・・・。なんか照れるね。ふふふ。」
楓が、こそばゆいような嬉しいようなそんな感じの声でそう言った。
「そうだね。」
ーああ、僕はやっぱり楓ちゃんがすきだなあ。
「あ!そうだ。おにいちゃんにメールで聞いたら、最初の1週間は誰にも課題を言っちゃダメなんだって。
わたしは、話したくてたまらないのに。話したいよー。」
課題のことを思い出して楓がそう言った。
「今日で1日目だから、あと6日の我慢しよう。」
「そうだよね。あとたった6日だよね。話すの我慢しているの私だけじゃないと思うと、ちょっとストレス減るからいいな。」
「そうだね。」
ー僕は、1週間、課題の内容を楓ちゃんに言わなくていいから、ちょっとホッとしてるんだよ。ごめんね。
その後も、今日のお昼ご飯の話やテレビで見た番組の話など他愛のない会話が続いた。
楓が楽しそうに話すのを聞くと、匠は1日の疲れが取れる。なついてくる小型犬とじゃれあってる気分になるのだ。
「あ!もう12時だ。寝なきゃ。また明日ね。匠さん。
おやすみなさい。」
「うん。楓ちゃん、お休み。」
電話を切り携帯で時間を見ると、23時57分を指している。
いつもは、1時過ぎまで話すのに、今日は短い。
ちょっと寂しく感じる。明日は、職場でイベントがあるのだろうか?でも何も言わなかったのは、どうしてだろう。
匠は、沈んだ気持ちを落ち着かせる為に、睦月が持ってきてくれた黒豆茶を飲むことにした。
飲むとほっとしてきた。
ーああ。そうか。楓ちゃんのも夏休みの宿題みたいって言ってたから、きっと早寝早起きの課題が出たんだろう。
匠は、楓が内容は言わないけれど話してくれた情報はあったのに、気がつかないで寂しく感じた自分に苦笑いした。
楓ちゃんは、割と何でも話してくれる性格だから、こんな風に考えていることが分からないことがほとんどなかった。
そうか。こういうのも、試験の1つなのか。これから先、いつも何でも話してもらえるとは限らないのだから。
この気持ちは覚えておいた方がいいな。
匠は、ルーズリーフに日記を書いた。
【20△8年
理由があって、話せないこともある。楓ちゃんの気持ちを推測して勝手に落ち込まないこと。、まずは質問すること。自分も言えないことの1つや2つあるのだから、相手にばかりオープンでいることを求めないようにすること。
楓ちゃんと過ごした時間を信じること。】
ああそうか。無条件に君を信じることは、僕にはまだ難しいみたいだ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「うーん。言いたかったけど、我慢できた・・・。」
楓は膝の上に乗せていた大きいクッションにボスっと顔をうずめた。
匠さんからは睦月さんに会ったと教えてもらったのに、楓は自分が妖精に会ったとは言えなかった。
父にまだ人に言わないようにと止められているのだ。
「楓は、妖精を見えるかもしれない。それは、瀬戸家の家系だからたまにあるそうだ。でも、匠くんは試験合格するまで見えない可能性が高い。もし反対の立場だったら、どう思う?」
父に質問されて、楓は考えた。
「うーん。なんか焦るかな。置いてけぼりにあった気持ちがすると思う。・・・。課題がうまくいかない時に、匠さんは試験に合格できるけど、わたしは難しいって言われているように感じて落ち込んじゃうかも。」
ー妖精に会えたことに浮かれて匠さんの気持ちまでは考えていなかったな。
「そうだな。だから、匠くんが課題に集中できるように楓はしてあげなさい。」
「うん。そうだようね。それが1番今は大事だよね。」
匠さんは睦月さんにもう既に会っているのだから、匠さんが妖精を見える日も近いんじゃないかな。
そう思うと、匠に妖精のことを話すのを待てる気がした。
一緒にそのことについて話すの楽しみだなあ。
楓は、気持ちが整理がつくと、時計を見上げた。0時6分だ。
「寝よう。明日も早い。」
楓は、アラームを6時にセットするとベッドに潜り込んだ。
5分もすると夢の中へ落ちて行った。
課題に僕も取り掛からないとな。
そう思いとりあえず、本屋に行き、書写の練習手帳を買ってみた。思ったより、種類が豊富で選ぶのに時間がかかってしまった。最終的には、どれでもよくなってしまい「ど・れ・に・し・よ・う・か・な・・・。」で適当に決めた。
夕飯は、遅くなったので帰りにスーパーの半額弁当を買った。
2月の夜は、体の芯まで冷える。早く家に帰ろう。
マンションに着き、玄関のドアをガチャリと開ける。
シーンとした部屋が、匠を出迎える。
ああ、やっと家に着いた。
匠は、居間のファンヒーターのスイッチを入れ、寝室に行きスーツから着替えると、居間に戻った。
ファンヒーターの前に座り、しばらく体を温める。
ファンヒーターの中の青白い炎をぼうっと眺める内に、体が十分に温まった。
夕飯、食べるか。
味噌汁くらいは作ろうか。
唐揚げ弁当だから、唐揚げの個性に負けない味噌汁が食べたい気分だ。
豆腐とわかめとおふの赤だしの味噌汁にしよう。
冷蔵庫の中を見て、匠はそう決めた。
カットわかめを水で戻す。
その間に、鍋にお湯を沸かす。
出汁を入れ、包丁を使い掌の上で、さいの目に切った豆腐を入れる。
赤だしの味噌汁を目分量でお玉に取り、菜箸で解いていく。
赤だしのいい香りが広がる。
水気を切ったわかめとおふを入れて、弱火で少しの間火を通す。
煮立たせ過ぎないように注意して火を止めた。
「よし。出来たな。」
電子レンジで、お弁当を温める。
ブーン・・・チン!
弁当と味噌汁の入ったお椀を簡単にテーブルに並べた。
「いただきます。」
ごくり
味噌汁を1口飲む。
ああ体が温まる。赤だしの味が元気をくれる。
からあげを頬張る。
ご飯をそこで1口。
野菜も忘れずに1口食べる。
面倒で野菜もそのまま温めたが、やっぱり取り分けておいた方が美味しい。
次回は手間でも、皿に取っておこう。
ご飯を食べ終え少しの間ぼうっとしていた。
おもむろに時計を見上げると、20時12分を指している。
そろそろ書写の練習でもするか・・・。
片付けもそこそこに、ノートとお手本を広げる。
ボールペンを持つ指に力が入る。
1ページ練習して、お手本と書いた字を見比べた。
「やっぱり僕の字は、相変わらず人には見せられないな。はあ。」
お手本を真似て書いたはずなのに、似ても似つかない自分の字に、情けなさを感じる。
「これでも小学生の頃に習ったことがある」とは、誰にも言えない。
「もう2ページくらいは練習するか。」
情けない気分のまま再びボールペンを手に持った。
やりたくないと思っているせいか10分もせずに、眠気が襲ってくる。あくびも出てきて何度も手が止まる、視界がぼやけて、瞼が重くなる。
楓・・ちゃんは、朝から課題を・・・頑張っ・・たんだ。
ここで、やめるわけには・・・・。
だめだ・・・。
眠い・・・。
匠はテーブルに突っ伏して眠ってしまった。
ララララ ララン ラララララン♪
ララララ ララン ラララララン♪
「あ。ああ、21時か・・・。」
毎日設定している携帯のアラームで、目が覚める。
練習帳を見ると、字が枠から徐々にはみ出していた。最後の方は、漢字の「風」の字が、いびつに変形していて、
睡魔との葛藤の跡が伺える。
「また明日頑張ろう。」
匠は、諦めるとノートを片付けた。
残業で遅くなる日以外は、22時から楓と電話で話すのが、いつの間に楓との交際でできた習慣だ。
匠は、楓との電話が終わった後にすぐに眠れるように、食事の片づけをしたりアイロンをかけたり風呂に入ったりと翌日のための準備をし始めた。
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~22:00~
「お疲れ様~。匠さん、今日はどうだった?」
楓のちょっとのんびりして明るい声が、電話の向こうから聞こえる。
「まあ。いつも通りだったよ。楓ちゃんは?」
ーああ、やっぱり楓ちゃんと話すと癒される。
「わたしは、出だしはよかったんだけどねえ。・・・。仕事行く前にうたた寝しちゃって、失敗しちゃった。へへ。」
楓が苦笑しながら話した。
「遅刻したの?」
「んーん。お父さんが車で送ってくれたからギリギリセーフだったよ。」
「そっかあ。間に合ってよかったね。」
「うん。本当に助かったよ~。今日ね、朝、お父さんの代わりに庭の掃除をしたの。その時に、桜と紅葉と柿の木を見てね、妖精がここにいるんだなあって思ったら、なんか温かくて特別な気持ちがしたよ。」
「うん。」
ー楓ちゃんの中では、もうしっかりと瀬戸家の歴史を受け止めたんだな。妖精と言えば・・・。
匠は、昨日睦月さんに会ったのを思い出した。
「そう言えば、睦月さんが昨日の夜、僕の家に会いに来てくれたんだ。」
「え!そうなの!?睦月さんなんて!?」
「僕が寝付けずに困ってたら眠れるように、魔法のかかったお茶をくれたよ。」
匠は、昨晩のことを思い出しながら答えた。
「いいなあ。わたしすぐに眠っちゃたからなあ。わたしも、起きてればよかったなー。」
睦月さんの読み通り、楓ちゃんには助けはいらなかったらしい。
「そうそう睦月さんから、楓ちゃんに伝言があるよ。」
「え!なになに!」
「楓ちゃんが【頑張ってたらその内会いに行く】って言ってたよ。」
「そっかあ~~!頑張ってたら会いにきてくれるんだあ。よーし。気合を入れて、真面目にやんなきゃだね。」
睦月の伝言を聞いて楓はますますやる気が出てきたようだ。
「睦月さんに会うのそんなに楽しみ?」
睦月さんは思いやりがあると思う。それにあのかっこいい容姿だ。楓が睦月に会う時のことを想像して、匠の胸のあたりがもやもやしてきた。
「うん!だって、匠さんのことも助けてくれたし、良い妖精さんだよね?」
「いい妖精だと思ったよ。・・・・・・。楓ちゃん、僕たちの結婚のためにも、課題を頑張ろうね。」
「もちろん!」
「・・・・・。」
「あ!睦月さんに会いたいって言ったから、心配になった?大丈夫だよ。わたしにとっての1番は匠さんだから」
「・・・・・・・・・。」
ーああ、僕が話せなくて困っている時に、楓ちゃんはいつも僕の気持ちをくんでくれる。
匠のモヤモヤした気持ちが和らいでいった。
「もしもーし。匠さん?おーい。」
「楓ちゃん、ありがとう。・・・。僕にとっても楓ちゃんは、1番だよ。」
そう言葉にすると匠は、顔が熱くなるのを感じた。
「・・・・。なんか照れるね。ふふふ。」
楓が、こそばゆいような嬉しいようなそんな感じの声でそう言った。
「そうだね。」
ーああ、僕はやっぱり楓ちゃんがすきだなあ。
「あ!そうだ。おにいちゃんにメールで聞いたら、最初の1週間は誰にも課題を言っちゃダメなんだって。
わたしは、話したくてたまらないのに。話したいよー。」
課題のことを思い出して楓がそう言った。
「今日で1日目だから、あと6日の我慢しよう。」
「そうだよね。あとたった6日だよね。話すの我慢しているの私だけじゃないと思うと、ちょっとストレス減るからいいな。」
「そうだね。」
ー僕は、1週間、課題の内容を楓ちゃんに言わなくていいから、ちょっとホッとしてるんだよ。ごめんね。
その後も、今日のお昼ご飯の話やテレビで見た番組の話など他愛のない会話が続いた。
楓が楽しそうに話すのを聞くと、匠は1日の疲れが取れる。なついてくる小型犬とじゃれあってる気分になるのだ。
「あ!もう12時だ。寝なきゃ。また明日ね。匠さん。
おやすみなさい。」
「うん。楓ちゃん、お休み。」
電話を切り携帯で時間を見ると、23時57分を指している。
いつもは、1時過ぎまで話すのに、今日は短い。
ちょっと寂しく感じる。明日は、職場でイベントがあるのだろうか?でも何も言わなかったのは、どうしてだろう。
匠は、沈んだ気持ちを落ち着かせる為に、睦月が持ってきてくれた黒豆茶を飲むことにした。
飲むとほっとしてきた。
ーああ。そうか。楓ちゃんのも夏休みの宿題みたいって言ってたから、きっと早寝早起きの課題が出たんだろう。
匠は、楓が内容は言わないけれど話してくれた情報はあったのに、気がつかないで寂しく感じた自分に苦笑いした。
楓ちゃんは、割と何でも話してくれる性格だから、こんな風に考えていることが分からないことがほとんどなかった。
そうか。こういうのも、試験の1つなのか。これから先、いつも何でも話してもらえるとは限らないのだから。
この気持ちは覚えておいた方がいいな。
匠は、ルーズリーフに日記を書いた。
【20△8年
理由があって、話せないこともある。楓ちゃんの気持ちを推測して勝手に落ち込まないこと。、まずは質問すること。自分も言えないことの1つや2つあるのだから、相手にばかりオープンでいることを求めないようにすること。
楓ちゃんと過ごした時間を信じること。】
ああそうか。無条件に君を信じることは、僕にはまだ難しいみたいだ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「うーん。言いたかったけど、我慢できた・・・。」
楓は膝の上に乗せていた大きいクッションにボスっと顔をうずめた。
匠さんからは睦月さんに会ったと教えてもらったのに、楓は自分が妖精に会ったとは言えなかった。
父にまだ人に言わないようにと止められているのだ。
「楓は、妖精を見えるかもしれない。それは、瀬戸家の家系だからたまにあるそうだ。でも、匠くんは試験合格するまで見えない可能性が高い。もし反対の立場だったら、どう思う?」
父に質問されて、楓は考えた。
「うーん。なんか焦るかな。置いてけぼりにあった気持ちがすると思う。・・・。課題がうまくいかない時に、匠さんは試験に合格できるけど、わたしは難しいって言われているように感じて落ち込んじゃうかも。」
ー妖精に会えたことに浮かれて匠さんの気持ちまでは考えていなかったな。
「そうだな。だから、匠くんが課題に集中できるように楓はしてあげなさい。」
「うん。そうだようね。それが1番今は大事だよね。」
匠さんは睦月さんにもう既に会っているのだから、匠さんが妖精を見える日も近いんじゃないかな。
そう思うと、匠に妖精のことを話すのを待てる気がした。
一緒にそのことについて話すの楽しみだなあ。
楓は、気持ちが整理がつくと、時計を見上げた。0時6分だ。
「寝よう。明日も早い。」
楓は、アラームを6時にセットするとベッドに潜り込んだ。
5分もすると夢の中へ落ちて行った。
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