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仮婚約の儀 その2~瀬戸 総右衛門 side②
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「それで睦月、どういう契約だ。」
契約は、総右衛門の家の庭ですることになり、総右衛門は睦月の力を借りて空を飛んで移動した。睦月は案外いい奴で、総右衛門が話しながらでも飛べる速さに合わせてくれている。
「仮婚約の儀をしてもらう。結婚を決意した相手とそれぞれ6個の課題に取り組んでもらう。課題内容は、まあ結婚した時に夫婦の間にひびが入る可能性があるものを選ぶ。期限は1年だ。課題を合格できた相手と結婚できる。まあ、そんな感じの契約だ。」
結婚に向けて成長するための試験か。それはいいかもしれない。1年もあれば、調和も取れて、家族になりやすい。
「仮婚約の儀を通過した相手とだったら、必ず幸せになれるのか?」
「ああ。大丈夫だ。」
睦月は、きっぱりと答えた。
これを聞いて、総右衛門の表情が和らいだ。名前を呼ぶことを許した妖精は、許した相手に話を誇張したり、嘘をついたりしない。
子どもたちに、それぞれ合う幸せな家庭を準備することができると思うと、心が弾んだ。とりあえず、最初はナツにぴったりの相手を見つけてくればいい。やはり橋本雄三(はしもと ゆうぞう)のところの息子の雄一(ゆういち)だろうか。水野久兵衛(みずの きゅうべえ)の息子の久(ひさし)も、自分の考えを持っていて良さそうだ。総右衛門は、婿候補を他にも何人か思い浮かべた。
「それから言い忘れたが、相手は子供が自分で見つけた相手でなければ、この儀式は成立しない。」
睦月が、思いもかけないことを言った。
総右衛門は、目を大きく見開いた。自分で相手を見つけてくる!?ありえない!!
それは、その時代には聞いたことのない縁談方法だった。
「一生を左右する決断を任せるには、子どもたちはまだ若すぎる。」
総右衛門自身、今の妻のサヨとは、親の勧めで結婚したのだ。サヨは、総右衛門の話をきちんと聞いて従ってくれる気立ての優しい妻だ。総右衛門が家にいない時間も、サヨには安心して任せることができる。若い時に、サヨのようにいい娘を自分の妻に選ぶことができたかどうか自信がない。
「この条件は、譲れない。言っただろ。お前は俺の提案に振り回されるって。」
睦月は、にやりと笑った。
「分かった。」
総右衛門は、ため息まじりにそう答えた。反論したいが、自分では睦月のように幸せを確約できないし、他に方法もなかった。睦月も妖精の治療の改善の為に、仮婚約の儀を提案してきたのだから悪いようにはしないだろう。
総右衛門の家の上空に着いた。2人は庭に、ふわりと着地した。家族は、よく眠っているようだ。こちらに気づいた様子もない。もしかしたら、眠りが深くなるように睦月が働きかけているのかもしれない。
「じゃあ契約をするぞ。俺が先に、宣言する。お前は、風のささやきに従ってそのまま宣言すればいい。」
総右衛門は、真剣な眼差しで頷いた。緊張からか喉がごくりと鳴った。
睦月は、桜の木に手を添えた。
「我《われ》、睦月は、仮婚約の儀を瀬戸総右衛門と結ぶ。我、瀬戸総右衛門が目的を果たすこと、瀬戸総右衛門の子孫に、仮婚約の儀が受け継がれること、ここにある桜、紅葉、柿の3本の木が守られること、これらの約束が守られる限り、この者の子孫の家族の絆が大地のごとく堅固に結ばれるように見守ることを誓う。」
次に総右衛門が、風のささやきに従って、紅葉の木に手を置き宣言した。
「我、瀬戸総右衛門は、縁結び妖精の睦月と契約を結ぶ。我、仮婚約の儀を受け入れ、目的を果たすことを誓う。
我、子孫に、仮婚約の儀を伝えることを誓う。ここにある三本の木、桜、紅葉、柿の木が代々守られることを誓う。我、これらの契約を、許された者を除いて、他言無用にすることを子孫を代表して誓う。願わくば、子孫が我が思いを受け継ぎ、この契約が末永く続いていくように。」
総右衛門が宣言を終えると、3本の木が朱色の輝きを放った。光が広がるにつれて、周りに数多くの妖精がいるのが見えた。朱色の輝きが、妖精たち、睦月、総右衛門を包み込んだ。妖精たちの顔色や傷がどんどんよくなっていくのが分かった。癒され飛び立って行く妖精たちを見送りながら、総右衛門は、この契約が確かなことをはっきりと感じた。
その後は、総右衛門は、全力を尽くして、取り組んだ。そして、長女のナツを始め、下の6人の子供たちは、仮婚約の儀の試験を受けた。仲人なしの縁談を見つけるのは難しかったが、お互いに大事に思いあえる相手を見つけ、仮婚約の儀を無事に合格した。そして、総右衛門は、のびのびと成長する孫たちの成長を楽しみながら、生涯を終えた。
そして、それは200年経った今も、瀬戸家の伝統として守られている。
契約は、総右衛門の家の庭ですることになり、総右衛門は睦月の力を借りて空を飛んで移動した。睦月は案外いい奴で、総右衛門が話しながらでも飛べる速さに合わせてくれている。
「仮婚約の儀をしてもらう。結婚を決意した相手とそれぞれ6個の課題に取り組んでもらう。課題内容は、まあ結婚した時に夫婦の間にひびが入る可能性があるものを選ぶ。期限は1年だ。課題を合格できた相手と結婚できる。まあ、そんな感じの契約だ。」
結婚に向けて成長するための試験か。それはいいかもしれない。1年もあれば、調和も取れて、家族になりやすい。
「仮婚約の儀を通過した相手とだったら、必ず幸せになれるのか?」
「ああ。大丈夫だ。」
睦月は、きっぱりと答えた。
これを聞いて、総右衛門の表情が和らいだ。名前を呼ぶことを許した妖精は、許した相手に話を誇張したり、嘘をついたりしない。
子どもたちに、それぞれ合う幸せな家庭を準備することができると思うと、心が弾んだ。とりあえず、最初はナツにぴったりの相手を見つけてくればいい。やはり橋本雄三(はしもと ゆうぞう)のところの息子の雄一(ゆういち)だろうか。水野久兵衛(みずの きゅうべえ)の息子の久(ひさし)も、自分の考えを持っていて良さそうだ。総右衛門は、婿候補を他にも何人か思い浮かべた。
「それから言い忘れたが、相手は子供が自分で見つけた相手でなければ、この儀式は成立しない。」
睦月が、思いもかけないことを言った。
総右衛門は、目を大きく見開いた。自分で相手を見つけてくる!?ありえない!!
それは、その時代には聞いたことのない縁談方法だった。
「一生を左右する決断を任せるには、子どもたちはまだ若すぎる。」
総右衛門自身、今の妻のサヨとは、親の勧めで結婚したのだ。サヨは、総右衛門の話をきちんと聞いて従ってくれる気立ての優しい妻だ。総右衛門が家にいない時間も、サヨには安心して任せることができる。若い時に、サヨのようにいい娘を自分の妻に選ぶことができたかどうか自信がない。
「この条件は、譲れない。言っただろ。お前は俺の提案に振り回されるって。」
睦月は、にやりと笑った。
「分かった。」
総右衛門は、ため息まじりにそう答えた。反論したいが、自分では睦月のように幸せを確約できないし、他に方法もなかった。睦月も妖精の治療の改善の為に、仮婚約の儀を提案してきたのだから悪いようにはしないだろう。
総右衛門の家の上空に着いた。2人は庭に、ふわりと着地した。家族は、よく眠っているようだ。こちらに気づいた様子もない。もしかしたら、眠りが深くなるように睦月が働きかけているのかもしれない。
「じゃあ契約をするぞ。俺が先に、宣言する。お前は、風のささやきに従ってそのまま宣言すればいい。」
総右衛門は、真剣な眼差しで頷いた。緊張からか喉がごくりと鳴った。
睦月は、桜の木に手を添えた。
「我《われ》、睦月は、仮婚約の儀を瀬戸総右衛門と結ぶ。我、瀬戸総右衛門が目的を果たすこと、瀬戸総右衛門の子孫に、仮婚約の儀が受け継がれること、ここにある桜、紅葉、柿の3本の木が守られること、これらの約束が守られる限り、この者の子孫の家族の絆が大地のごとく堅固に結ばれるように見守ることを誓う。」
次に総右衛門が、風のささやきに従って、紅葉の木に手を置き宣言した。
「我、瀬戸総右衛門は、縁結び妖精の睦月と契約を結ぶ。我、仮婚約の儀を受け入れ、目的を果たすことを誓う。
我、子孫に、仮婚約の儀を伝えることを誓う。ここにある三本の木、桜、紅葉、柿の木が代々守られることを誓う。我、これらの契約を、許された者を除いて、他言無用にすることを子孫を代表して誓う。願わくば、子孫が我が思いを受け継ぎ、この契約が末永く続いていくように。」
総右衛門が宣言を終えると、3本の木が朱色の輝きを放った。光が広がるにつれて、周りに数多くの妖精がいるのが見えた。朱色の輝きが、妖精たち、睦月、総右衛門を包み込んだ。妖精たちの顔色や傷がどんどんよくなっていくのが分かった。癒され飛び立って行く妖精たちを見送りながら、総右衛門は、この契約が確かなことをはっきりと感じた。
その後は、総右衛門は、全力を尽くして、取り組んだ。そして、長女のナツを始め、下の6人の子供たちは、仮婚約の儀の試験を受けた。仲人なしの縁談を見つけるのは難しかったが、お互いに大事に思いあえる相手を見つけ、仮婚約の儀を無事に合格した。そして、総右衛門は、のびのびと成長する孫たちの成長を楽しみながら、生涯を終えた。
そして、それは200年経った今も、瀬戸家の伝統として守られている。
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