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結婚はまだ早い
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「父さんに呼ばれてね。2人とも今日はおめでとう。」
5歳上の聡(さとる)兄さんが、私のツッコミのような問いに笑顔で答えた。聡兄さんの奥さんの朱音(あかね)さんも、「おめでとう。」と言ってくれた。
「仕事は、有給を取ったぞ。大変だったぞ~、この1週間、残業で。貸し1つな。夕飯1回でチャラにしてやる。コロッケと茶碗蒸しは、必須な。」
3歳上の新(あらた)兄さんは、楓に感謝しろとばかりに言ってきた。目はにやにやと笑っていて、面白いものを見つけた時の表情をしている。あれは、後で匠さんをいじって遊ぶ気満々だ。
「匠、まあ失敗しても骨は拾ってやるから、ど~んと行け。」
新兄さんは、口は悪いけど、なぜか場を和ませる才能がある。今だって、お茶を飲みながら話しかけてくるから、
緊張感がまるでない。新兄さんの奥さんの奈央子(なおこ)さんは、「匠君、楓ちゃん、おめでとう。応援しているよ。夕飯は、頼みたいな。楓ちゃんの料理は、おいしいから。私もファンなのよ。」新兄さんについていけるだけあって、大らかだし、ちょっと天然さんだ。
考えてみれば、兄さんたちが来てくれてよかったのかもしれない。上座に座っている父ー瀬戸周作(せと しゅうさく)は、どうみても亭主関白スイッチが入って、腕組みをしている。スイッチの入った父の前では、楓はうまくしゃべれなくなる。兄さんたちがいてくれた方が、間が持つし、フォローも入れてくれることだろう。
「ありがとうございます。僕たちのために集まってくれて。」
匠さんは、兄さんたちにペコリと頭を下げた。
匠さんも、6人の着物姿に驚いた様子だったが、聡兄さんと新兄さんがいることで、だいぶ緊張がほぐれたようだ。ほっとした雰囲気が伝わってくる。
匠さんと兄さんたちは、休日に男3人で、カラオケに行ったり、ボーリングにいったり、温泉にいったりするくらい仲がいい。私とのデートの回数が減るから、正直、兄さんたちに嫉妬することもあったけど、今日みたいな時には、男友達として力になってくれてるみたいだから、心強い。匠さんと兄さんたちの外出を、我慢して送り出してきたのが、こんなところで報われるとは思ってもみなかった。
「楓、お前がずっと立ったままだと、匠君が座るに座れなくて困るだろう。」
聡兄さんに指摘され、はっとした。匠さんはいつの間にか中に入って、座らずに楓のことを待ってくれている。私は敷居を踏まないように急いで中に入り、障子を丁寧に閉めた。この部屋に出入りする時だけは、所作を綺麗にできるように幼い頃から躾けられているのだ。
「皆が揃うなんて、思ってもみなかったから、つい驚いちゃって。匠さん、ごめんね。」
匠さんの腕に、軽く触れてあやまった。
「いや、僕の方こそ、緊張しっぱなしで、ごめん。」
兄さんと義姉さんたちの歓迎と励ましが効いたのか、匠さんの表情も硬さがだいぶ取れてきた。
座布団が空いているところー父の正面に匠と楓は並んで座った。父は黙ったままだ。どうしようかと兄さんたちを
見ると、2人は匠さんに目で合図してくる。新兄さん風に言うと、「匠の出番だぞ~。言ったもん勝ちだ。勢いだ。さあ早く!」。聡兄さん風に言うと、「父さんは、匠君から話すのを待ってますよ。話しかけるいいタイミングだよ。頑張って。」そんな感じの表情だ。匠さんは軽くうなずきそれに応えると、姿勢を正して、話し始めた。
「楓さんのご両親、お兄さんたち、今日は時間を作っていただきありがとうございます。楓さんと付き合って2年になります。この2年で楓さんとずっと一緒にいたいと思うようになりました。皆さんにも、よくしていただいて瀬戸家の家族にもなりたいと僕は、思いました。楓さんと2人で話し合って半年後に、結婚したいと思っています。娘さんを僕にください。一生大事にします。お願いします。」
匠さんがそこで、頭を下げたので、楓も「お願いします」と言って頭を下げた。
壁の時計のカチカチという秒針の音が、耳につく。
沈黙ー。
お願い、お父さんいいって言って。
1分くらい経ったところで、父が口を開いた。
「悪いが、半年後は許可できない。匠くんと楓が、結婚について本気かどうか試験をさせてもらう。それに合格できたら、婚約を許そう。」
楓は、狼狽えた。まさか許可が下りないなんて。匠さんの表情もひきつっている。それでも、父の顔をしっかりと見て、匠さんが質問した。
「試験内容はなんですか?」
「2人で、それぞれこちらで提示する6こずつの課題をクリアしてもらう。期限は、1年。クリアできなければ、婚約は許可できない。」
あんまりだ。1つなら、分からなくもないけれど、2人で12個なんて、【結婚反対】と暗に言っているようなものではないか。それでは、匠さんを歓迎していた日々は偽りだったのか。ここにいる8人と兄さんたちの子供たちで、家族のように過ごした今年の正月も、父は内心では2人のことを反対していたのか。楓の中で、反発心が膨れ上がった。楓は26歳だし、匠さんも30歳だ。許可なんかなくたって結婚できる。悲しくて悔しくて涙で、目の前がぼやけた。
「父さん、言葉が足りないですよ。それでは、2人が反対されていると思ってしまいます。僕から、瀬戸家の家訓について話していいですか?」
聡兄さんが、穏やかな声で提案した。
瀬戸家の家訓?そんな重々しいものがあっただろうか?初耳だ。それが、今、結婚を反対されている原因なのだろうか?
顔をあげると、聡兄さんは笑顔を絶やさないでいる。匠さんと楓の結婚が反対されているのにどうしてそんなに優しい表情をするの?
「匠君、楓。父さんも母さんも、もちろん僕たちも、2人の結婚には賛成なんだ。匠くん、瀬戸家の家族にもなりたいと言ってくれてありがとう。ここにいる全員、嬉しい気持ちだよ。」
「じゃあ、なんで試験なんて言うの?」
楓は涙をこらえて、つぶやいた。
「楓、瀬戸家にはね。200年前から、仮婚約の儀というのがあるんだ。結婚を決意したら、1年かけて仮婚約の儀をパスするのが、伝統なんだ。」
そうして、聡兄さんは、仮婚約の儀について説明を始めてくれた。
5歳上の聡(さとる)兄さんが、私のツッコミのような問いに笑顔で答えた。聡兄さんの奥さんの朱音(あかね)さんも、「おめでとう。」と言ってくれた。
「仕事は、有給を取ったぞ。大変だったぞ~、この1週間、残業で。貸し1つな。夕飯1回でチャラにしてやる。コロッケと茶碗蒸しは、必須な。」
3歳上の新(あらた)兄さんは、楓に感謝しろとばかりに言ってきた。目はにやにやと笑っていて、面白いものを見つけた時の表情をしている。あれは、後で匠さんをいじって遊ぶ気満々だ。
「匠、まあ失敗しても骨は拾ってやるから、ど~んと行け。」
新兄さんは、口は悪いけど、なぜか場を和ませる才能がある。今だって、お茶を飲みながら話しかけてくるから、
緊張感がまるでない。新兄さんの奥さんの奈央子(なおこ)さんは、「匠君、楓ちゃん、おめでとう。応援しているよ。夕飯は、頼みたいな。楓ちゃんの料理は、おいしいから。私もファンなのよ。」新兄さんについていけるだけあって、大らかだし、ちょっと天然さんだ。
考えてみれば、兄さんたちが来てくれてよかったのかもしれない。上座に座っている父ー瀬戸周作(せと しゅうさく)は、どうみても亭主関白スイッチが入って、腕組みをしている。スイッチの入った父の前では、楓はうまくしゃべれなくなる。兄さんたちがいてくれた方が、間が持つし、フォローも入れてくれることだろう。
「ありがとうございます。僕たちのために集まってくれて。」
匠さんは、兄さんたちにペコリと頭を下げた。
匠さんも、6人の着物姿に驚いた様子だったが、聡兄さんと新兄さんがいることで、だいぶ緊張がほぐれたようだ。ほっとした雰囲気が伝わってくる。
匠さんと兄さんたちは、休日に男3人で、カラオケに行ったり、ボーリングにいったり、温泉にいったりするくらい仲がいい。私とのデートの回数が減るから、正直、兄さんたちに嫉妬することもあったけど、今日みたいな時には、男友達として力になってくれてるみたいだから、心強い。匠さんと兄さんたちの外出を、我慢して送り出してきたのが、こんなところで報われるとは思ってもみなかった。
「楓、お前がずっと立ったままだと、匠君が座るに座れなくて困るだろう。」
聡兄さんに指摘され、はっとした。匠さんはいつの間にか中に入って、座らずに楓のことを待ってくれている。私は敷居を踏まないように急いで中に入り、障子を丁寧に閉めた。この部屋に出入りする時だけは、所作を綺麗にできるように幼い頃から躾けられているのだ。
「皆が揃うなんて、思ってもみなかったから、つい驚いちゃって。匠さん、ごめんね。」
匠さんの腕に、軽く触れてあやまった。
「いや、僕の方こそ、緊張しっぱなしで、ごめん。」
兄さんと義姉さんたちの歓迎と励ましが効いたのか、匠さんの表情も硬さがだいぶ取れてきた。
座布団が空いているところー父の正面に匠と楓は並んで座った。父は黙ったままだ。どうしようかと兄さんたちを
見ると、2人は匠さんに目で合図してくる。新兄さん風に言うと、「匠の出番だぞ~。言ったもん勝ちだ。勢いだ。さあ早く!」。聡兄さん風に言うと、「父さんは、匠君から話すのを待ってますよ。話しかけるいいタイミングだよ。頑張って。」そんな感じの表情だ。匠さんは軽くうなずきそれに応えると、姿勢を正して、話し始めた。
「楓さんのご両親、お兄さんたち、今日は時間を作っていただきありがとうございます。楓さんと付き合って2年になります。この2年で楓さんとずっと一緒にいたいと思うようになりました。皆さんにも、よくしていただいて瀬戸家の家族にもなりたいと僕は、思いました。楓さんと2人で話し合って半年後に、結婚したいと思っています。娘さんを僕にください。一生大事にします。お願いします。」
匠さんがそこで、頭を下げたので、楓も「お願いします」と言って頭を下げた。
壁の時計のカチカチという秒針の音が、耳につく。
沈黙ー。
お願い、お父さんいいって言って。
1分くらい経ったところで、父が口を開いた。
「悪いが、半年後は許可できない。匠くんと楓が、結婚について本気かどうか試験をさせてもらう。それに合格できたら、婚約を許そう。」
楓は、狼狽えた。まさか許可が下りないなんて。匠さんの表情もひきつっている。それでも、父の顔をしっかりと見て、匠さんが質問した。
「試験内容はなんですか?」
「2人で、それぞれこちらで提示する6こずつの課題をクリアしてもらう。期限は、1年。クリアできなければ、婚約は許可できない。」
あんまりだ。1つなら、分からなくもないけれど、2人で12個なんて、【結婚反対】と暗に言っているようなものではないか。それでは、匠さんを歓迎していた日々は偽りだったのか。ここにいる8人と兄さんたちの子供たちで、家族のように過ごした今年の正月も、父は内心では2人のことを反対していたのか。楓の中で、反発心が膨れ上がった。楓は26歳だし、匠さんも30歳だ。許可なんかなくたって結婚できる。悲しくて悔しくて涙で、目の前がぼやけた。
「父さん、言葉が足りないですよ。それでは、2人が反対されていると思ってしまいます。僕から、瀬戸家の家訓について話していいですか?」
聡兄さんが、穏やかな声で提案した。
瀬戸家の家訓?そんな重々しいものがあっただろうか?初耳だ。それが、今、結婚を反対されている原因なのだろうか?
顔をあげると、聡兄さんは笑顔を絶やさないでいる。匠さんと楓の結婚が反対されているのにどうしてそんなに優しい表情をするの?
「匠君、楓。父さんも母さんも、もちろん僕たちも、2人の結婚には賛成なんだ。匠くん、瀬戸家の家族にもなりたいと言ってくれてありがとう。ここにいる全員、嬉しい気持ちだよ。」
「じゃあ、なんで試験なんて言うの?」
楓は涙をこらえて、つぶやいた。
「楓、瀬戸家にはね。200年前から、仮婚約の儀というのがあるんだ。結婚を決意したら、1年かけて仮婚約の儀をパスするのが、伝統なんだ。」
そうして、聡兄さんは、仮婚約の儀について説明を始めてくれた。
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