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 私を閉じ込める、と言ったユリアスの閉じ込め方は予想の斜め上をゆくものだった。

 グラディウスの殿方は皆様総じて絶倫系なので、閉じ込める=監禁=四六時中ヤラレル、と覚悟したのだけれど、そうではない(期待したわけでは絶対にない)。一回にかける時間は長時間だと思うし、彼の嗜好を存分に追及されたあれこれではあったが、気絶したり足腰がたたなくなるほどの行為には及ばなかった。げんに、彼の膝にのっかったあとなし崩しに行為に移ったわけだけれど、数刻にわたってヤっていたのは間違いないがちゃんと私の意識があるうちにとりあえず終息し、寝かせてくれた。

 また、閉じ込める=手足を拘束される=そのままヤラレル、と思ったけれど、拘束もされない(もちろん、期待などしていない)。鎖とか縄とか手錠とか、ユリアスは拘束プレイ嗜好だったのかといったんは蒼ざめたけれど、それもなかった。

 さらに、閉じ込める=部屋に外鍵をかけられる=出たくても出られない、と思っていたら、コレは微妙だった。この点が、予想を微妙に外し、しかし「閉じ込められた」ことに相違ない状況ではあったのだ。

 ……ひと眠りして起きたら隣でユリアスがにこにこ(としか言いようがないくらい邪気なく笑んで)して私を見下ろしていて、思わず私も笑みを返しつつ、マッパだったので着るものをお願いしたところ、出てきたのが必殺悩殺透け透け寝衣である。

 文句を言うと「着るものだ」と平然と言われ、こんなもの裸同然だとさらに抗議すると、「だったら着なければいい、俺は裸のほうがいい」とわけのわからないことを言い出し埒が明かない。

 彼の城、彼の居室で粘っても分が悪すぎる。あきらめて透け透けを身に纏うと、ユリアスはふわりと笑って「綺麗だな、着ていないほうがもっと綺麗だが」と言う。いやらしい寝衣姿にハアハアして飛びついてこないのはあっぱれだが、彼はこんなキャラだっただろうか。こういうことを言うタイプには見えなかったのに。

 ゆえに、着るもの、は与えられてもこんな姿で部屋を出るわけにはゆかないから監禁同然なのは間違いない。外鍵も拘束具も抱き潰しもなく私を足止めするユリアス、狡猾である。

 ……そして彼は常軌を逸したお世話魔だった。

 お手洗いに行きたいというと抱っこで連れて行かれ、平然と排泄の世話までされそうになり仰天して追い払ったのだが(扉の外までは行ってくれた)、終わればまた抱っこで寝室に戻された。

 小腹が空いたと言えばどのようにしてか早速指示を飛ばしたらしく、彼の居室に迅速に豪華な食事が整えられたのだけれど、私は透け透け寝衣のままやはり抱っこで連れて行かれ、彼の膝に乗っけられ、初めから終わりまで給仕、いや給餌された。

 小さく切ったものをゆっくりと餌付けされ、口元を拭われ、熱いものは冷ましてから、冷たいものはなんといったんユリアスが口に含んでぬるくしたものを口移しで運ばれるに及んで、大人の女性としての尊厳ががりがりと削られるのを実感した次第である。

 食後のお茶を頂きつつ(もちろん、依然として彼の膝の上で、ふうふうと丁寧に冷まされたお茶を飲まされながら、という状況だ)ねえユリアス、と私は色々な意味でよろめきながら言った。

 「あなたって、お人形さんごっこがしたかったの?」
 「失礼な」

 ユリアスはお茶菓子を私の口に運びつつかたちのよい眉を顰める。

 「ひとを変態のように言うな。俺はリヴェアの世話がしたかっただけだ。したいと言っていただろう」
 「それはそうだけれど」

 平然としている彼の思考回路が理解できない。私が間違っているのだろうか。
 しかたなしに美味なお茶菓子をもぐもぐしながら私は考えた。

 ごくん、と飲み下ろすとすぐにお茶が口元に寄せられる。それも頂いてまた飲み下ろす。

 「これって世話の範囲を超えているというか」
 「世話だ。ひとによってその境界線は異なるのだろうが、これが俺にとっての世話だ。ただしあんたに対して限定だ。俺はあんたを人形などと思っていないし、誰に対しても世話好きなわけじゃない」
 「はあ、……そうですか」

 私は虚脱して頷くしかない。ユリアスは悪びれるどころかものすごくきっぱりと断言するので私の「世話」に対する認識に誤りがあるような気になってくる。

 自分の中のものさしが揺らぎ、生返事のまま首を傾げていると、菓子は?茶は?もういいのか?と頭を撫でながら言われ、もうお腹いっぱい、と返事をするとお腹を撫でてくちづけをされた。

 妊婦さんでもないのだが。……お腹まで撫でられるとは妙な気分である。

 そして、お風呂を頂きたいです、と私は要求した。

 この流れだとお風呂の世話も既定路線。
 お湯は自分で使いたいと言っても無理だろうから諦めの境地でお願いをすると、二つ返事で立ちあがり、ささっと私を脱がせ(もとより下着すらなく透け透け寝衣一枚だから一瞬のことだ)、パパっと自分も脱いで、何から何まで無言の誰かが準備よく整えている浴室へと抱っこで連行されたのだった。

 これなら本当に「お世話」的にからだや髪を洗われるのだろう。だって、シモの世話まで真顔でしようとしたひとだもの。言うなればケイティがユリアスになっただけだ、と、多少の無理は承知でそうやって思い込もうとしたのだけれど、この点は予測は外れた。

 ……おとなのお風呂だった。

 始めのうちこそ倦怠期の夫婦みたいに緊張感なくだらだらお喋りをしながら(そう思っていたのは私だけだったらしい)かけ湯をされ、からだを洗われ、湯船につかったのだけれど、だんだんとユリアスの口数がめっきりと減っていって、かわりのように手の動きがこまやかになってきて、あれなんかこの手やらしい、と気づいた頃には、這いまわる手は愛撫になり、せっかく綺麗にしてもらったうなじも舐め回され、私は息を荒げてからだを捩っていた。

 湯船のお湯が派手な音をたてている。

 後ろから羽交い絞めにされ、私の両足の間にユリアスが自分の膝を立てて大きく開いているから、足を閉じることができない。胸を揉まれ、先端をつまんで捻られ、もう片方の手が私の前から秘裂を割る。お湯の中でも彼の指の動きが鈍ることもなく、飛び出した敏感な粒をすぐさま探り当て、転がされる。

 からだに電流が走る。びくびくと震える。
 自分の嬌声とばしゃんばしゃんというお湯の音が広い浴室に響き渡る。

 ユリアス、私はお風呂に、とわずかに抵抗を示しても、ぬるぬるになった私のそこはまったくいやがってはいないのは明白で、どんなに優しくてももちろん彼は行為をやめようとはしない。

 「や、ユリアスっ……!」
 
 ずん、と彼自身がお湯をかき分けお湯とともに私の中に侵入した。
 リヴェア、とうなじを舐めながらユリアスが私を呼ぶ。少しだけ掠れた声。優しいユリアスも興奮しているのだろうか。私を抱くときのユリアスはこんな感じの声になることを、今日、知った。

 不安定な浴槽の中での責めは通常とは異なる刺激を私のそこに伝えてきて、私はこらえきれずに大きな声を上げてしまう。
 今は何刻だろう、たぶんさっきのが夕食で、となると一応夜で。でも何刻であろうと部屋の外には兵士達がいるはずで。

 ……混乱した頭で色々考えてしまうけれど、そんなことができたのもきっとわずかな時間のこと。恥ずかしいけれど声を上げるのも腰を揺らすのもやめられない。お湯に紛れているだけで私のからだは大洪水だ。
 
 くりかえし下から突き上げられたあと、ユリアスは私を抱いて自身を納めたまま浴槽の中で立ちあがり、緩慢なほどゆったりとした動作で私に浴槽の横の金色の取っ手につかまるよう促した。立ち居のための取っ手だから、指の形に優美な曲線が作られていて、手をかければ「こういうときのため」にも大いに利用できるものとわかる。しっくりと手になじむ。

 抵抗など自分の口先だけ。
 お風呂に入る、と、まだ性懲りもなく口走ってはいるけれど、私はユリアスの求めるままに眼前の取っ手にしっかりと摑まりお尻を突き出す。

 ユリアスが息を呑む気配があって、直後、思い切り強く後ろから突きこまれた。

 あああ!と背を反らして声をあげるのと同時に、ユリアスは呻き、荒々しく腰に手を置くと一気に引き抜き、そしてまた突き通される。
 若々しい、しなやかなからだをしたユリアスだけれど、彼のそれは怖いくらいに硬い。手加減なしに抜き差しされ、揺さぶられると性具でも使われているのではないかと錯覚するほど。
 私の中心はしっかりと濡れていて彼のものを抵抗なく受け入れてはいるのだけれど、快感に収縮するそれは彼の強度を直接受け止め、引き絞る様に反応する。眩暈がするほど気持ちがいい。

 啼いてお尻を振っていると、やがてユリアスはそれを引き抜いてしまった。

 どうしてだろうと思わず彼を振り返ると、ユリアスは額に汗を浮かべ、苦しげに微笑みながらすまない、と言う。

 後ろからこうしていると止まらない、酷くしてしまう、壊してしまう、と言って私をかき抱く。

 ……優しくて、気遣い屋さんで、なんという残酷なことをするのだろう。
 こんなふうにして、ここまで高めておいて謝るなんて。イかせてくれないなんて。

 私はユリアスの腕を振り解き、首を捩じって彼を見つめた。
 自分のからだにまわされたユリアスの手を取って自分のそこに導く。無意識だとしか言いようがない行為。

 お願い、続けて。ユリアスお願い、もっといっぱい突いて。

 とっくに理性の飛んだ頭ははしたなく直截に彼をねだってしまった。
 素面では到底言えない台詞だ。だからこの時の私は素面ではない。快楽漬けの女に過ぎないのだと思う。そういうことにしておきたい。

 ちょっとだけ目を見開いたユリアスは、すぐに嬉しそうに目を細め、じゃあ遠慮なく、と言った。

 とたんに激しくなるくちづけとともに、熱杭に最奥まで抉られ、私は啼いた。
 立ったまま後ろからも前からも、立て続けに極めさせられ、きつく閉じた大腿で挟み、両胸でも同じことを求められ。
 湯あたりかイキ落ちかわからない状況で私はいつしか意識を失った。

 ……こうして、ユリアスと過ごす最初の夜は更けていった。

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