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 オルギールの愛撫であっという間に彼の魔法にかかり、呪縛されたらしく、リヴェアは甘く彼の名ばかりを呼び、喘ぎ始めた。
 弱々しく手を差し伸べ、オルギールの背中へ縋りつくように腕を回す。
 氷の騎士と謳われた男が、魔物のような笑みとともにリヴェアをかき抱き、からだ中に巧妙で執拗な愛撫を繰り返す。
 そして、そのすべてに反応を返し、からだと声とで感じていることを素直に伝えるリヴェア。
 
 彼に貫かれ、一際高く啼きながらも、一縷の理性が邪魔をするのか、いやいやをするように顔を左右にそらすのが何とも可愛らしく、艶めかしい。

 自分が一番リヴェアを理解している。皆の知らない顔を自分だけは知っている。

 そのつまらない優越感は、オルギールに抱かれる彼女を見ているにつれ揺さぶりをかけられ、ざわめき、まるで自分が苛まれているようにすら感じてしまう。
 
 こうしたのは自分。彼女の護りにオルギールを呼び、他の二人の公爵達を巻き込んだ時からの必然。
 
 そう信じていても、わかっているつもりでも穏やかではいられない。

 「……お前ももう一度参加したらどうだ」

 片肘をついて寝そべるようにしていたシグルドが、レオンを振り返らないまま独り言のように言った。
 知らず、自分の唇を噛んでいたようだ。
 シグルドは単純に見えるが侮れない。

 内心舌打ちをしながらシグルドの後頭部を眺めて、

 「お前は?」

 と逆にレオンは尋ねた。

 「俺は成り行き次第でまた」

 穏やかに、シグルドは言う。

 「ずっと姫を抱きたかった。欲しかった。行軍中も、ウルブスフェルでも、ずっと。……で、今それが叶って俺は嬉しい。お前やオルギールがいても構わん。姫は俺も受け入れてくれた。それが嬉しい」
 「まあ、そうだろうな」

 声には感情を出さぬよう気をつけながら、レオンは同意した。

 「だから、お前と俺では含むものも異なって当然だ」

 なにが、「だから」なのか。
 淡々と返事をしたはずなのに、シグルドは後ろを見もせずに正確にレオンの心境を読んでいるようだ。

 「お前自身がさっき言っていただろう。‘慣れなくては’と。……その通りだ、慣れたほうがいい」
 「……」
 「いつも複数ってわけじゃないだろう?そのたびに、一対一で抱かれる姫を想像して嫉妬に塗れるつもりか?想像に嫉妬するより目の前にいたほうがいいじゃないか。我慢できなきゃ自分も参加すればいい」
 「ずいぶんと訳知りだな、ルード」

 つい、声が尖ってしまった。
 シグルドの言う通りではあるが、レオンも嫌味の一つも言わなければ収まらない気分である。

 「初恋を拗らせていたわりには敏いことを言う」
 「拗らせてた時間が長かったからな。悟りのひとつも開こうというものだ」
 
  シグルドの逞しい背中が揺れた。含み笑いでもしているのか。

 「早くお前も行け、レオン。このままオルギールに好き放題させながらひたすら見物も馬鹿らしい」

 そろそろのようだぞ、と結んだシグルドの言葉と相前後して、水音と肌を打つ乾いた音が激しくなっていった。

 「あああん!!!……オルギール!……」
 「リア、リヴェア!」

 互いの名を呼びあいながら、同時に果てたようだ。
 顔もからだも赤く染めて、絶頂の余韻に震えているリヴェアを見ていたら。

 ──堪らなくなった。

 嫉妬と、対抗心と、そして男としての欲と。

 「オルギール。……ちょっと」

 最後の一滴までリヴェアの中で吐きだしているのであろうオルギールにいちおう一声をかけ、繋がりを保ったままオルギールの膝の上にリヴェアを向き合って座らせ、リヴェアの傷めていない方の腕をオルギールの首に回させた。

 レオン様、と不安そうな眼差しを向けるリヴェアに、安心させるようにくちづけを一つ落とす。
 反射的にうっとりと目を閉じてそれを受けるリヴェアの気を引こうとするかのように、オルギールは黙って小刻みにリヴェアの腰を揺らし、みずからも下から突き上げる。
 さっき達したばかりなのに、もう復活したらしい。

 たちまち、ああん!と声を上げるリヴェアの肩を後ろから捕らえながら、レオンは屹立に先走りを纏わせて扱き上げ、オルギールの緩慢な動きにも声を上げる彼女の尻肉をそっと左右に開いた。

 「……愛しいリヴェア」

 レオンは後ろからリヴェアのうなじに舌を這わせ、かすれ気味のテノールで囁きかける。
 リヴェアが自分の声に特に弱いことはわかっていて、あえて篭絡するつもりで声に欲情を絡める。

 案の定、リヴェアはびくりとからだを震わせた。
 同時に、中のオルギール自身を締め付けたのだろう。一瞬、彼も銀色の優美な眉を顰める。

 「君の後ろ、俺が貰うぞ」
 「え……?」

 快感だけではなく多少の怯えを交えてからだを強張らせ、後ろを振り向こうとするのを、うなじや耳朶を舐めまわして押し留めて、痛いほど昂った自身を宥めるように、ゆっくりと彼女の後ろの窄まりになすりつける。

 後ろの花が蠢くのが自身を通してありありと感じられる。もう我慢できない。

 ぐい、とはじめだけ多少無理に入口をこじ開け、初めて彼女の後ろから侵入する。

 「ああ!?や、レオン様!」

 雷に打たれたように大きく跳ねるからだを、レオンとオルギールがそれぞれにリヴェアの肩を腰を掴んで引き戻す。

 中途半端なほうが受け手にとっては辛いだろう。
 レオンは一気に最奥まで腰を進めた。
 
 めりめりと、未開の地を拓くような感触。
 リヴェア、と呻くようにレオンは彼女の名を呼んだ。

 きつくて、熱い。本来は生殖器ではないそこは、前の口よりももっと直接的に彼女のからだのかたちと熱を彼に伝える。

 「いやあああ!」

 涙を溢れさせながらリヴェアは絶叫して背を反らした。
 かなり本気の混じる声に罪悪感がよぎるが、性欲と仄暗い背徳感がそれを凌駕する。

 「リーヴァ、大丈夫だから、俺に任せろ」

 レオン様やめて、いや、お尻はいや、と啼くリヴェアの耳殻を食み、胸を揉みながらレオンはこどもを宥めるように言って聞かせる。
 
 「何度も解しただろう?……怖くない、リーヴァ。……同時に君を愛したいだけだ」
 「……リア、怖がらないで」

 オルギールも反対側の耳に向かって囁く。

 「あなたが美しくて可愛らしくて。……前だけでは足りない。待てないのですよ、リア」
 「オルギール……」

 リヴェアはほろほろと涙を流しながらそれでもなお抗議するように顔を左右に揺らしている。
 オルギールが舌を伸ばして涙を舐めとり、レオンは耳孔に息を吹きかけながら繰り返しリヴェアの名を呼ぶ。

 無理に腰を動かさず前後から抱きすくめられ、言い含められて、少しずつ彼女のからだのこわばりが抜けてきたころ。

 ず、とオルギールは不意に自身を引き抜いた。
 レオン、シグルド、そしてオルギール。たてつづけに三人の精を受けたそこからはとぷとぷと白濁が流れ出す。

 「……オルギール……?」

 いきなりの喪失感に、溢れたものを恥ずかしがることも忘れて、リヴェアは涙に濡れた目を彼に向けた。

 大丈夫、すぐ埋めて差し上げますから、とオルギールは優しく言い、シグルド様、としばらく観客に徹していた彼に唐突に声をかけた。

 「どうした?」
 「ぜひご一緒に」

 リヴェアのからだを支えるのを、背後から貫くレオンの手に任せ、みずからはその傍らに立ちあがる。

 一緒……?とぼんやり首を傾げるリヴェアの髪を撫でながら、彼はシグルドへ嫣然と微笑を投げた。

 「一度や二度では足りないのでは?」
 「まあな」

 苦笑しつつシグルドは身を起こした。
 口調は穏やかだが彼の分身はとっくに回復していて、巨躯の中心で存在を主張している。
 膝行して素早くリヴェアの正面に回ると、姫、と呼び掛けて半開きの唇にくちづけを落した。

 目まぐるしい展開についていけずぽやんとした表情のままそれを受けていたリヴェアは、性急にあてがわれた剛直に思わず目を見開く。

 ずん!と力強く、一気にその根元まで突きこまれ、唇を塞がれたままくぐもった悲鳴を上げる。

 「んく、ううん……!!」
 「く、……またこんな、締め付けて……」

 やわらかい唇を舐め回しながらシグルドが喘ぐように呟く。

 程なくしてシグルドが顔を上げた頃には、リヴェアの眦には新たな涙が浮かび、胎内からも彼女自身が潤みはじめるのをあらためて感じていた。

 美しい黒曜石の瞳に嫌悪の色はないことにシグルドが安堵していると、

 「リヴェア様、怖くないでしょう?」

 つけいるように、オルギールの淫靡に響く声がかけられた。
 こういうわずかな「間」を捉えるのは大したものだな、とシグルドは思わず感心してしまう。

 リヴェアは傍らに立つオルギールを見上げ、戸惑いを隠さず視線をさまよわせている。
 確かにもう怖くはない。でも、すぐに首肯するのも理性が邪魔をする。
 そういった心の揺れをオルギールは正確に読み取った。

 「大丈夫、リヴェア様。……私たちを信じて、身を任せて下されば……」

 ますます魔物めいた美しい微笑を深くして、彼はリヴェアの頭を撫で、ついでのように自分の屹立に手を添えて、それでリヴェアの頬や顎を掠めるように動かしている。

 はあぁっ、と思わず漏れたらしいリヴェアの熱いため息を耳にするや否や、それまで腰を動かさず、背後から優しく彼女を抱きしめていたレオンが、堪りかねたように低く呻いた。

 ずるりと入り口付近まで引き抜き、

 「ああああん!!」
 
 また一息に奥を穿つ。

 「リーヴァ!」

 一度、リヴェアの名を呼ぶなり、荒く息を吐きながら繰り返し後孔を責め立てる。
 前から、シグルドが少しずつ腰を動かし始める。

 柔襞を割るシグルドの力強さと、初めて体感する直腸への形容し難い、生々しい感触。
 前から後ろから、そのうちに図ったように交互に突き上げられ、引き抜かれ、リヴェアの上げる声は次第に嬌声へと変化してゆく。
 背後から伸ばされた手がシグルドとのつながりの間に差し込まれ、あやまたず小さな粒を探り当て、擦り上げる。
 リヴェアの腰を捕らえていない方の手で、シグルドは突き出されるゆたかな胸を掴み、先端の果実を口に含み、堪能する。

 全身に与えられる刺激に狂ったように声を上げ続けるリヴェアの口元に、ぬめりを帯びた切先があてがわれた。

 リア、と呼ばれ、もっと口を開けるよう喉元を撫でて促され、リヴェアがそれを素直に口に含むと、オルギールは熱の籠った呻き声を上げた。

 リヴェアは二度目。初めて彼とからだを重ねたときに耳にしたことがあるけれども、レオンとシグルドにとっては初めて耳にする余裕のないオルギールの呻き。

 リア、リア、と呼びながら、オルギールはリヴェアの口腔を犯す速度を次第に上げてゆく。
 拙いしぐさで舌を滑らせ、彼に応えようとするリヴェアの必死さが愛おしくて、昂るそれがさらに猛々しく硬度を増す。
 
 三つの口すべてに男たちの欲望を埋め込まれ、限界まで快感を高められてからどのくらいたったのか。

 やがて、咥内が熱い奔流で満たされ、前からも後ろからも最奥で熱が弾ける。
 全員、ほぼ同時に達して、それを待ちかねたようにリヴェアは意識を手放した。


******


 狂瀾の宴は、夜が明けても続いた。

 気絶しているときだけが、リヴェアの安息の時間だった。
 我に返るとすぐに男たちが彼女を貪る。
 「医者」の指示のもと、左腕の手当てをされ、わずかに飲み物と食べ物を与えられる以外は、常にからだのどこかしらに男の侵入を許している。

 それが唐突に止んだのは、次の日の日没も近くなってからのことだ。

 浅い呼吸をするリヴェアのからだが、火照りではなく発熱していることに気づいたオルギールが、行為の中止(終了ではなかった)を申し入れ、残る二人の公爵も慌ててそれを諾とした頃、前触れなく寝所の扉が開け放たれた。

 「お前ら。……いい加減にしろ」

 朝から三人分の仕事に忙殺されていたユリアス・ラムズフェルド公爵が、憤怒の形相もあらわに乱入してきたのである。
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