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 気を失ったと思っていたけれど、そうでもなかったらしい。唇を重ねられ、飲まされる水の感触にぼんやり目を開けると、さきほどからさほど時間が経過したようには見えなかった。

 私が水を嚥下し終えるのを待ちかねたように、そのまま貪るようなくちづけになった。強い力で顎をとられ、もう喘ぎ声しか紡ぐことができなかった唇を食べるように食まれ、音を立てて口腔内を舐め回され、唾液を送り込まれた。否応なしにそれも飲み込まされ、かわって私が零す唾液をざらりとした舌で舐め上げられた。

 激し過ぎるとはいえ、今夜初めて受けるくちづけに、私はようやく許してもらえるのかと──解放されるのかと思って、レオン様をのろのろと見上げると、いつもは甘い、金色の蜂蜜のような色にも見える瞳は、まだ何の表情を浮かべていなかった。

 まだ、怒っている?……怖い。

 れおんさま、と枯れた声で呼びかけたつもりだったけれど、実際に声は出ていなかったのかもしれない。応えはなく、代わりにレオン様は私を抱え上げ、数刻ぶりに寝台の上に身を起こした。
 器用に私を抱えたまま少しだけ広い寝台を移動し、精緻な彫刻が施された見事な枕板にそっと手を触れる。

 カタン、とかすかな音がした。続いて、キィィ、と扉のきしむような音。

 一枚板に見えた枕板は、真ん中から左右に分割され、大きく羽を広げたようだ。

 「……?かがみ……?」
 
 確かに、私の姿。──上気した頬、涙の痕の残るうるんだ眼、呆けたように半開きになった唇。夜目にもわかるほどからだのあちこちにレオン様のつけた痕が散らばっている。

 我ながらひどく煽情的な、男を誘うような自分の姿にうろたえて視線を泳がすと、鏡ごしに私を見つめるレオン様と目が合った。

 瞳は無表情なままで、唇が弓なりにつり上がる。

 「そう、鏡だ。初めて見たときは、悪趣味な細工だと思ったものだが」

 皮肉っぽい、面白くもなさそうな声でレオン様は言った。
 そして、鏡の正面に座して、弱々しい私の抵抗などものともせずに、背後から羽交い絞めにした。

 「レオン様、恥ずかしい、から」

 のぼせた頭でも、ようやくこれから始まることくらい、予想がつく。いやらし過ぎて気が狂いそうだ。
 
 「お願い、もう、レオン様……」

 やめて下さい、とかすれ声を出したのと同時に、がばり、と容赦のない力で、私の両足は大きく開かされた。

 「!や、ああ!」
 「よく見ておけ、リヴェア」

 白濁と、私の蜜で塗れ、粘っこく光る陰毛をかき分けて、充血した柔襞が指で押し広げられ、二本、三本と長い指が埋め込まれてゆく。
 さっきまでさんざん翻弄されたそこは、指の刺激だけでまたすぐにイってしまう。

 「恥ずかしいか。俺にこうされるのが」

 ぐじゅ、ぐちゃ、と耳をふさぎたくなるような淫らな水音に羞恥を煽られて、またさらに蜜が溢れてくるのがわかる。そうなればもっと、水音が高まってくる。その繰り返し。

 「や、ああん」
 「どんどん溢れてくる。リヴェア、見ろ」
 「あっ、あああ!!」

 目を背けようとしたら、きゅ、と硬くなった陰核をつままれた。からだが跳ね上がる。
 目の奥がちかちかする。

 このまま、気絶したい。恥ずかしい。恥ずかしくて気が狂いそうなのに、それを見せつけられ、煽られて悦ぶ自分がいる。

 「いつもより大洪水だ」

 耳殻を舐めながら、レオン様は揶揄するように言った。

 「君がそんなに感じるなら、この悪趣味な細工も無駄ではなかったわけだ」

 暴かれた秘所にレオン様の指が生き物のように蠢くのが見える。羽交い絞めにしたもう片方の手は私の胸を掴み、膨れ上がった赤い果実をつまんで、引っ張って、捻り上げる。

 また、イった。力強い腕で拘束され、快感を逃すこともできず、苦しい。もう、ここまでくると、快感と苦痛は紙一重だ。

 ひとしきりイかされて、ようやく指が出て行ったと思ったら。

 ずぶり、と圧倒的な熱と質感のものに、一気に最奥まで貫かれた。

 「あああああん!!」
 「欲しかったろう?これが」

 レオン様の雄に串刺しにされ、腰を支えられて、激しく突き上げられる。
 自重と、レオン様の腰使いで、常よりもさらに深く抉られて、快感の深さに息が詰まりそうだ。

 目を閉じれば感覚が鋭敏になり、昼までイかされたいかと囁かれ、目を開ければ限界まで足を広げて雄を咥える秘貝が見えて、羞恥と快感でもう思考らしい思考はできない。頭の中は真っ白だ。
 
 きがくるいそう。

 無意識に呟いた私の声を、レオン様は聞き取ったらしい。狂えばいい、と言って、私の耳朶に噛みついた。

 狂え。俺はとっくに君に狂っている。君も、俺に狂うまで、犯してやりたい。

 レオン様は、私の腰を抱え、繋がったまま膝立ちになった。そのままの流れで、私は鏡の前で四つん這いになる。
 獣のように後ろから激しい抽挿を受け、力なく突っ伏してしまいそうになると、手綱を取るように片手で両手首を掴んで上体を引き起こされた。胸を揺らして喘ぐ自分の浅ましい姿が、網膜に焼き付く。

 「──二度と。もう二度と、自分が死ねば、などと言うな、リヴェア」

 やっと、熱を宿した声で。万感の想いを込めた声で、レオン様は私に囁いた。
 鏡ごしにレオン様の顔を見ても、もう意識も目も混濁して、表情まで読み取ることができない。
 
 
 抽挿は激しさを増すばかり。水音と、肌がうちあう乾いた音が重なり、響き渡る。
 終わらない、死のような愉悦。

 「君に狂った男に犯されているところを見て、覚えておけ。勝手に死ぬことなど、絶対に許さない」

 わかったか、と言われ、何度も、何度もうなずいたのに。

 腰を支えていた片手が。……お尻の間に滑らされた。

 君は、からだのほうが覚えがいい。

 レオン様はそう言って、後背位で私を貫いたまま、まだ犯されたことのない、私の後孔を撫でて、抽挿で泡立ち、溢れる蜜で潤して。指を、突き入れた。

 驚きと羞恥と異物感。前後の孔を犯されながら、私は声にならない声を上げ続けた。

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