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「聞こえる」

 すうっとアナスタシアは海面に向かって泳いだ。水が振動しているのをその全身が感じとる。

「綺麗」

 聴き慣れたその透き通った音は機嫌が良いときの風の声に匹敵する。
 アナスタシアは水の流れに身を任せ、静かにその音に耳を澄ませた。

 なんて、美しいのだろう。

 すぅっと、自身が息を吸い込んだことに、はたと動きを止めた。

 私は、

 いつの間にかあの音は聞こえなくなっていた。

「アナスタシア」

 下から姉が呼ぶ声が聞こえる。陸の方を見たが、人影はなかった。

「何をしているの」

 下をのぞくと姉妹の中でも一番しつけに厳しい姉が、睨んでいるような鋭い目で見上げていた。姉は視力が弱く日の光のもとだと目を細めるだけでなく、眉間にしわまでよる。アナスタシアは見慣れたその表情に、「うん」とうなずいた。
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