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ガールミーツガール
6話
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冷たいココアを2つお盆に乗せて慎重に歩みを進める。10歩も歩かないが、決して軽くはないお盆を両手で支えて歩くのは私には至難の業だ。本当はカップを直接手で持っていきたいが、見栄が張って、ずっと使わずに引き出しにしまっていたお盆を取り出してしまった。
ふるふると震えながら何とか卓上のテーブルに置いた。女性はスマホをいじっていたが、私が席に着くとすぐに鞄にそれをしまった。
「おまたせ、しました」
「ありがとう」
柔らかな微笑みを向けると、ゆっくりとした品のある動きでカップを手にする。この人は一体何者なのだろうか。
「お名前、」
「あぁ、申し遅れました。佐藤ヒナコと申します」
すっと名刺がテーブルに置かれた。白の紙に筆で書いたような書体の字で名前が書かれている。
「かなかた」
「母が片仮名のほうが可愛いと」
「かわいいですよ」
ひらがなは丸みがあって外見がかわいいが、かなかただと外国語っぽくてかっこよさも感じる。
佐藤さんはカップを両手で包むように持つと、ゆっくりと傾けた。外の音が部屋に響く。
「美味しいです」
真っ赤な唇から一瞬舌が覗いて、さっと唇の茶色を舐めた。無意識であろうその動作がひどく艶かしい。
「イツキさん」
コトリ、と静かにカップを置くと、佐藤さんはまっすぐに私を見た。
「はじめ、あなたにお話すべきか迷いました。しかし、突然訪ねた私をイツキさんはもてなして下さった。私は、あなたの誠実に応えたい」
さきほどまでと打って変わり、丁寧さが薄れ堅い口調に、私の内側は激しく動揺する。
「え、あの、え、」
「私は、とある結婚詐欺師を探している、興信所の者です」
「こうしんじょ」
改めて名刺を見ると、確かに、氏名の上に興信所名が記載されている。
「どうして、」
「あなたの恋人は結婚詐欺をしています」
ふるふると震えながら何とか卓上のテーブルに置いた。女性はスマホをいじっていたが、私が席に着くとすぐに鞄にそれをしまった。
「おまたせ、しました」
「ありがとう」
柔らかな微笑みを向けると、ゆっくりとした品のある動きでカップを手にする。この人は一体何者なのだろうか。
「お名前、」
「あぁ、申し遅れました。佐藤ヒナコと申します」
すっと名刺がテーブルに置かれた。白の紙に筆で書いたような書体の字で名前が書かれている。
「かなかた」
「母が片仮名のほうが可愛いと」
「かわいいですよ」
ひらがなは丸みがあって外見がかわいいが、かなかただと外国語っぽくてかっこよさも感じる。
佐藤さんはカップを両手で包むように持つと、ゆっくりと傾けた。外の音が部屋に響く。
「美味しいです」
真っ赤な唇から一瞬舌が覗いて、さっと唇の茶色を舐めた。無意識であろうその動作がひどく艶かしい。
「イツキさん」
コトリ、と静かにカップを置くと、佐藤さんはまっすぐに私を見た。
「はじめ、あなたにお話すべきか迷いました。しかし、突然訪ねた私をイツキさんはもてなして下さった。私は、あなたの誠実に応えたい」
さきほどまでと打って変わり、丁寧さが薄れ堅い口調に、私の内側は激しく動揺する。
「え、あの、え、」
「私は、とある結婚詐欺師を探している、興信所の者です」
「こうしんじょ」
改めて名刺を見ると、確かに、氏名の上に興信所名が記載されている。
「どうして、」
「あなたの恋人は結婚詐欺をしています」
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