魔法陣はいらない

ヤクモ

文字の大きさ
上 下
10 / 11

しおりを挟む
 目を覚まして最初に見えたのは、どこか懐かしさを感じる天井だった。顔に見える天井の模様や仕切りのレールはどこの学校も同じようだ。
顔を横に向けると、ぼんやりと椅子に座っている女子生徒がいた。
「起きましたか」
 その声は静かで、マナと見間違えたあの雰囲気はない。
「今、先生を呼んできます」
「待って」
 思わずつかんだその手首はひどく細い。少女の脆さは、いつの時代も変わらない。あのとき掴めなかったマナも、こんな細かったのだろうか。
「先生」
 抵抗もせず、生徒は私に囁いた。
「ずっと、私を想っていたのですか?」
「えっ」
「10年は経ったでしょうに。よく、覚えていてくださいましたね」
 仰々しい物言いは、まるでマナのようで。
「今度は私が目撃者になるとはね」
 あぁ。
 やはり、彼女は特別なのだ。
「いつから」
「お恥ずかしながら、つい今しがただよ。君が渡した鍵が、全て開いてくれた」
 あれは、マスターキーだ。教師に渡されている、学校のほとんどの教室の鍵穴に入る鍵だ。彼女はどこを開いたのだろう。どこであっても、マナが自身を思い出したのであれば、それでよかった。
「それにしても」
 彼女は椅子に座り直した。するりと私の手から離れて、優雅に組んだ脚の上にその綺麗な手を添える。
「まさかカオルがこんなに近くにいるなんてね」
「か、おる?」
「おや、気づいていなかったのか。てっきり全て知ったうえで私に接していたのかと」
 カオル、とは。
 そんな。は、マナの後を追って。
「起きたのか」
 ぬっと顔を出した養護教諭は、眠そうに目をこすった。
「カオルっ」
 彼女の嬉しそうな表情で、ふとこの女性の名を思い出した。近野薫こんのかおる。去年この学校に赴任した養護教諭だ。
「それにしても、随分と気の抜けた人ですね」
「カオル、この人は自分の身に起こったことが曖昧なんだ」
「カオルじゃなくて、近野先生だろう。どうした、急に距離が近くなったな」
 二人の世界になり、私は蚊帳の外となる。この距離感が心地よかった。

 どうやら私は屋上からの投身自殺に失敗してしまったらしい。マナがフォローをしたようで、私は見慣れない花弁を追って屋上から身を乗り出し、勢いあまって足を滑らせたドジな教師となった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

スケートリンクでバイトしてたら大惨事を目撃した件

フルーツパフェ
大衆娯楽
比較的気温の高い今年もようやく冬らしい気候になりました。 寒くなって本格的になるのがスケートリンク場。 プロもアマチュアも関係なしに氷上を滑る女の子達ですが、なぜかスカートを履いた女の子が多い? そんな格好していたら転んだ時に大変・・・・・・ほら、言わんこっちゃない! スケートリンクでアルバイトをする男性の些細な日常コメディです。

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

就職面接の感ドコロ!?

フルーツパフェ
大衆娯楽
今や十年前とは真逆の、売り手市場の就職活動。 学生達は賃金と休暇を貪欲に追い求め、いつ送られてくるかわからない採用辞退メールに怯えながら、それでも優秀な人材を発掘しようとしていた。 その業務ストレスのせいだろうか。 ある面接官は、女子学生達のリクルートスーツに興奮する性癖を備え、仕事のストレスから面接の現場を愉しむことに決めたのだった。

エロ・ファンタジー

フルーツパフェ
大衆娯楽
 物事は上手くいかない。  それは異世界でも同じこと。  夢と好奇心に溢れる異世界の少女達は、恥辱に塗れた現実を味わうことになる。

勝負に勝ったので委員長におっぱいを見せてもらった

矢木羽研
青春
優等生の委員長と「勝ったほうが言うことを聞く」という賭けをしたので、「おっぱい見せて」と頼んでみたら……青春寸止めストーリー。

13歳女子は男友達のためヌードモデルになる

矢木羽研
青春
写真が趣味の男の子への「プレゼント」として、自らを被写体にする女の子の決意。「脱ぐ」までの過程の描写に力を入れました。裸体描写を含むのでR15にしましたが、性的な接触はありません。

処理中です...