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立ち向かう
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上司が嫌がらせをしていた相手は、私じゃない。あくまで後輩だけが、ターゲットだった。しかもそれは後輩の入社以来、ふとした言葉に乗せられた棘として、ずっと続いていたことだった。
何故後輩だけだったのか、わからない。上司が持っていない管理栄養士の資格を持っていたから? でもそれなら私も持っている。病院給食サービスの会社としては実入の少ない、小さな病院や養護施設ばかり担当していたから?
でも何が理由であっても、真面目に勤務する人間に毒を吐き続けるなんて異常だ。努力家で勉強家の後輩を、ずっとずっと、詰めが甘い読みが足りない気が利かない、言いがかりを付けていびっていた上司は、異常だ。でも、みんなやり過ごしていたのに。
私はそんな上司を、ある日突然、許せなくなった。
それは、後輩が大事に対応していた顧客を、相談もなく契約打ち切りのリストに入れて会議に提案したと聞いたからでもある。
私はいつからかカバンに入れっぱなしだった辞表を懐に、社長もいる会議に乗り込んで、洗いざらいぶちまけた――。
後悔はしていないけれど、でもその衝動に私は自信が持てない。
後輩が私の擁護を望んでいたのかも分からないし、あの日ぶっつりと切れる前に、もっとできることがあったのではと思う。
私のしたことが、誰にも望まれない衝動でしかなくて、後輩にとっても誰にとってもただの迷惑だったら。
それを目の当たりにするのが怖い。
立派に担任の先生をしている佐山君を目の当たりにして、私は弱い自分にがっかりしていた。
あんなに優しい顔で、まるで輝く人を見るように目を細めて私を見る佐山君に、恥ずかしくないように。私は、もっとちゃんとした自分でいたい。
逃げては、いられない。
実家の四畳半。私の使っていた机が、衣装ケースやタンスやらの間に埋もれている。
その机に寄りかかって畳に座り、私は久しぶりに、仕事用にしていたスマホの電源を入れた。
何故後輩だけだったのか、わからない。上司が持っていない管理栄養士の資格を持っていたから? でもそれなら私も持っている。病院給食サービスの会社としては実入の少ない、小さな病院や養護施設ばかり担当していたから?
でも何が理由であっても、真面目に勤務する人間に毒を吐き続けるなんて異常だ。努力家で勉強家の後輩を、ずっとずっと、詰めが甘い読みが足りない気が利かない、言いがかりを付けていびっていた上司は、異常だ。でも、みんなやり過ごしていたのに。
私はそんな上司を、ある日突然、許せなくなった。
それは、後輩が大事に対応していた顧客を、相談もなく契約打ち切りのリストに入れて会議に提案したと聞いたからでもある。
私はいつからかカバンに入れっぱなしだった辞表を懐に、社長もいる会議に乗り込んで、洗いざらいぶちまけた――。
後悔はしていないけれど、でもその衝動に私は自信が持てない。
後輩が私の擁護を望んでいたのかも分からないし、あの日ぶっつりと切れる前に、もっとできることがあったのではと思う。
私のしたことが、誰にも望まれない衝動でしかなくて、後輩にとっても誰にとってもただの迷惑だったら。
それを目の当たりにするのが怖い。
立派に担任の先生をしている佐山君を目の当たりにして、私は弱い自分にがっかりしていた。
あんなに優しい顔で、まるで輝く人を見るように目を細めて私を見る佐山君に、恥ずかしくないように。私は、もっとちゃんとした自分でいたい。
逃げては、いられない。
実家の四畳半。私の使っていた机が、衣装ケースやタンスやらの間に埋もれている。
その机に寄りかかって畳に座り、私は久しぶりに、仕事用にしていたスマホの電源を入れた。
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