4 / 16
Card No.03:焦り
しおりを挟む
昨晩、そして一夜明けた今も、どのメディアも昨日の事件で持ちきりだった。テレビもネットも昨日の事件一色だ。SNSや匿名掲示板、動画配信サイトもその情報で溢れかえっていた。
———————————————
おはよう。
何も解決されてないみたいね。
私達、普通に学校行って大丈夫なのかな?
———————————————
彼女の紗耶からだった。
昨晩は夜遅くまでLINEをした。彼女は不安で不安で堪らなかったようだ。
「大丈夫、僕が守るから」
僕が言っても嘘では無いセリフだったが、それは言えない。市民を巻き込んでも平気な片桐の事だ。僕と紗耶が付き合っていると知ったら、何をしでかすか分かったものじゃない。
———————————————
おはよう。
僕は行くけど、不安だったら休んだ方がいいよ
———————————————
ちゃんと、休むべきだと言った方が良かったのだろうか。「優也が行くなら私も行く」と言って、LINEは終わってしまった。
事実、江東区や江戸川区、事件が起きた周辺の小中学校は臨時休校になったらしい。
僕の高校は、自宅最寄り駅から4つ数えた駅の近くにある。
通学中の車内、サラリーマンの数こそ普段と変わらないが、乗客はいつもより明らかに少なかった。僕の前に立っていた女性は、昨日の事件の動画を見ている。
「おはよう優也、何だよ昨日はLINEガンガンスルーしやがって」
クラスメイトの光希だ。昨日のバイト中、一番最初に事件に関するLINEを送ってきたのも光希だった。
「いやいや、最後はちゃんと返したじゃん。紗耶が怖がってて、そっちの返事が大変だったんだよ」
「チッ、さり気に彼女自慢かよ……にしても、どう思うよアイツらの正体?」
「うーん、難しいね。……ホログラム説が一番現実味有りそうだけど」
「ああ……ホログラムの動きに合わせて、予めしかけておいた爆薬で、船を爆破させたとか言う説? うーん……モンスターが海に飛び込む様子とか見てると、そうは思えないけどな」
「じゃあ、光希はどう考えてるんだよ」
「……難しいね。不可解なことが多すぎる、全く分からない」
そんな話の途中でチャイムが鳴り、担任の古田が入ってきた。皆が着席する中、周りを見渡すと空席がチラホラ見える。今日は休む生徒が多いのだろうか。
「おはようございます。えー、みんなも昨日の事件知っていると思います。今空席の生徒は、ちゃんと学校を休むって連絡が入ってるので、安心してください。君たちも学校を休むときはちゃんと事前に連絡入れるようにね。私達も心配しちゃうから」
「先生! ウチの学校は休校予定とか無いんですか?」
生徒の一人が尋ねる。
「そうねえ……一応そんな話し合いは持たれたようだけど、学校としてはモンスター? って呼んでいいのかな、二体とも消滅したので解決済みという認識みたいです。とりあえず、当分の間は十分、十二分に注意してください」
担任の事件に関する話はこれで終わった。
解決済みか……
いや、解決なんてしていない。片桐の言うとおりなら、昨日起きた事があと48回繰り返される事になる。というのも、昨晩カードを改めて見ていると、元々『You win! 』と書かれたカードが既に一枚あったからだ。
ふと視線を感じて中庭側の窓を見る。紗耶だった。僕の視線に気がつくと、小さく手を振って、直ぐに前を向いてしまった。
紗耶とは校外学習の際に同じ班になり、好きな漫画の話で意気投合した。その日の内にLINEを交換し、夜遅くまでLINEを交わした。
それからは一緒に買い物に行ったり、食事をするようになっていた。買い物と言っても本屋さんだったり、食事もマックと、どちらも高校生らしい可愛いものだ。
「私達、付き合ってるって事でいいのかな?」
紗耶に先に言わせてしまったことを、今も後悔している。僕が先に「付き合ってください」と言うべきだった。紗耶は気にしていないと言うが、本当だろうか。
「きゃあああああ!!」
突然、中庭に面した席の女生徒が大声を上げた。
他の生徒も一斉に彼女の視線の先を追う。廊下側に近い席だった僕も、中庭が見える方へ移動した。
そこには、昨日とは違う戦士……片桐が言うサモンズが立っていた。
どうすればいい!? 万一、無くしては大変だと思って、カードは自宅に置いてきていた。まさか学校に現れるなんて思ってもみなかったからだ。
今、学校を出たら僕だけ逃げ出したように見えてしまう!? いや、そんな悠長な事を考えている暇は無い。
「先生、すぐ戻ります! 往復で……多分40分くらい!」
紗耶の視線を感じたが、急いで戻らなくては。紗耶も含めた生徒を守る方法は先生達が何か考えてくれるだろう。僕は教室を飛び出した。
学校を出たところで、タイミング良くタクシーを捕まえることが出来た。自宅の場所を説明をして、電車とどちらか早いか聞いてみる。
「うーん。正直、そこまで大きくは変わらないと思うけど、やっぱりタクシーの方が早いと思いますよ」
そのセリフを信じ、自宅マンションまで飛ばして貰う。「出来るだけ急いでください」高校生の内から、こんなセリフを言うなんて思ってもみなかった。
タクシーの中で、忘れ物を引き上げたら、学校へとんぼ返りして欲しい事も伝えた。「最近の学生さんは凄いねえ」と、少し嫌みとも取れる事を言われてしまったが。
タクシーの中で、中庭にいた戦士の対戦相手を思い出す事が出来た。
『レベル1の戦士と、レベル1のモンスター』
確か、そんなテーマだったはずだ。
昨日にしても今日にしても、まだ思い出しやすいテーマだからいいが、今後全てを思い出す事が出来るだろうか。
さっきからスマホが震えている。
紗耶に光希、母と父からもLINEが届いている。紗耶と光希は目の前で見たから当然だが、母と父からも来ているという事は既に速報が出ているのだろうか。昨日の今日だ、誰もが敏感になっていて当然だ。
———————————————
紗耶、急に学校を飛び出したりしてごめん。すぐに学校に戻る。その時にちゃんと説明するから。光希にもそう伝えて。
———————————————
———————————————
学校の中庭に来たけど、僕らは大丈夫。
安心して!またLINE入れる
———————————————
紗耶と家族のグループLINEにはそう入れておいた。
マンションに着いて、自宅まで駆け上がった。父と母は仕事に出ていて、僕しかいない。今日はリビングでカードに水を掛けた。
昨日のようにカードから、ホログラムのように浮かび上がってくる。出てきたのは、片桐が描いたレベル1のモンスターだ。テーマの通り、見るからに弱そうで、カードに書かれていた文字も衝撃だった。
・必殺技…無し
・特徴…しぶとい
・弱点…全て
このカードを見せ合った時、片桐と一緒に笑ったのを憶えている。
「流石レベル1! 弱すぎじゃんかこれ!」
「だろ! だってレベル1なんだもん。ハハハハ」
片桐はこの時から、今やっているバトルを想定していたのだろうか。僕が描いた戦士の得意技と弱点は何だったか、正直思い出せないでいる。
とりあえず、サモンズを学校へ向かわせ、僕は全てのカードを鞄に入れて、待機してくれていたタクシーに乗り込んだ。その間に来ていたLINEを確認する。紗耶も光希も家族も心配しているようだ。とりあえず皆に「大丈夫だ」と返事を入れておいた。
僕は昨日より、焦りを募らせていた。
片桐は僕が通っている高校も知っている。
———————————————
おはよう。
何も解決されてないみたいね。
私達、普通に学校行って大丈夫なのかな?
———————————————
彼女の紗耶からだった。
昨晩は夜遅くまでLINEをした。彼女は不安で不安で堪らなかったようだ。
「大丈夫、僕が守るから」
僕が言っても嘘では無いセリフだったが、それは言えない。市民を巻き込んでも平気な片桐の事だ。僕と紗耶が付き合っていると知ったら、何をしでかすか分かったものじゃない。
———————————————
おはよう。
僕は行くけど、不安だったら休んだ方がいいよ
———————————————
ちゃんと、休むべきだと言った方が良かったのだろうか。「優也が行くなら私も行く」と言って、LINEは終わってしまった。
事実、江東区や江戸川区、事件が起きた周辺の小中学校は臨時休校になったらしい。
僕の高校は、自宅最寄り駅から4つ数えた駅の近くにある。
通学中の車内、サラリーマンの数こそ普段と変わらないが、乗客はいつもより明らかに少なかった。僕の前に立っていた女性は、昨日の事件の動画を見ている。
「おはよう優也、何だよ昨日はLINEガンガンスルーしやがって」
クラスメイトの光希だ。昨日のバイト中、一番最初に事件に関するLINEを送ってきたのも光希だった。
「いやいや、最後はちゃんと返したじゃん。紗耶が怖がってて、そっちの返事が大変だったんだよ」
「チッ、さり気に彼女自慢かよ……にしても、どう思うよアイツらの正体?」
「うーん、難しいね。……ホログラム説が一番現実味有りそうだけど」
「ああ……ホログラムの動きに合わせて、予めしかけておいた爆薬で、船を爆破させたとか言う説? うーん……モンスターが海に飛び込む様子とか見てると、そうは思えないけどな」
「じゃあ、光希はどう考えてるんだよ」
「……難しいね。不可解なことが多すぎる、全く分からない」
そんな話の途中でチャイムが鳴り、担任の古田が入ってきた。皆が着席する中、周りを見渡すと空席がチラホラ見える。今日は休む生徒が多いのだろうか。
「おはようございます。えー、みんなも昨日の事件知っていると思います。今空席の生徒は、ちゃんと学校を休むって連絡が入ってるので、安心してください。君たちも学校を休むときはちゃんと事前に連絡入れるようにね。私達も心配しちゃうから」
「先生! ウチの学校は休校予定とか無いんですか?」
生徒の一人が尋ねる。
「そうねえ……一応そんな話し合いは持たれたようだけど、学校としてはモンスター? って呼んでいいのかな、二体とも消滅したので解決済みという認識みたいです。とりあえず、当分の間は十分、十二分に注意してください」
担任の事件に関する話はこれで終わった。
解決済みか……
いや、解決なんてしていない。片桐の言うとおりなら、昨日起きた事があと48回繰り返される事になる。というのも、昨晩カードを改めて見ていると、元々『You win! 』と書かれたカードが既に一枚あったからだ。
ふと視線を感じて中庭側の窓を見る。紗耶だった。僕の視線に気がつくと、小さく手を振って、直ぐに前を向いてしまった。
紗耶とは校外学習の際に同じ班になり、好きな漫画の話で意気投合した。その日の内にLINEを交換し、夜遅くまでLINEを交わした。
それからは一緒に買い物に行ったり、食事をするようになっていた。買い物と言っても本屋さんだったり、食事もマックと、どちらも高校生らしい可愛いものだ。
「私達、付き合ってるって事でいいのかな?」
紗耶に先に言わせてしまったことを、今も後悔している。僕が先に「付き合ってください」と言うべきだった。紗耶は気にしていないと言うが、本当だろうか。
「きゃあああああ!!」
突然、中庭に面した席の女生徒が大声を上げた。
他の生徒も一斉に彼女の視線の先を追う。廊下側に近い席だった僕も、中庭が見える方へ移動した。
そこには、昨日とは違う戦士……片桐が言うサモンズが立っていた。
どうすればいい!? 万一、無くしては大変だと思って、カードは自宅に置いてきていた。まさか学校に現れるなんて思ってもみなかったからだ。
今、学校を出たら僕だけ逃げ出したように見えてしまう!? いや、そんな悠長な事を考えている暇は無い。
「先生、すぐ戻ります! 往復で……多分40分くらい!」
紗耶の視線を感じたが、急いで戻らなくては。紗耶も含めた生徒を守る方法は先生達が何か考えてくれるだろう。僕は教室を飛び出した。
学校を出たところで、タイミング良くタクシーを捕まえることが出来た。自宅の場所を説明をして、電車とどちらか早いか聞いてみる。
「うーん。正直、そこまで大きくは変わらないと思うけど、やっぱりタクシーの方が早いと思いますよ」
そのセリフを信じ、自宅マンションまで飛ばして貰う。「出来るだけ急いでください」高校生の内から、こんなセリフを言うなんて思ってもみなかった。
タクシーの中で、忘れ物を引き上げたら、学校へとんぼ返りして欲しい事も伝えた。「最近の学生さんは凄いねえ」と、少し嫌みとも取れる事を言われてしまったが。
タクシーの中で、中庭にいた戦士の対戦相手を思い出す事が出来た。
『レベル1の戦士と、レベル1のモンスター』
確か、そんなテーマだったはずだ。
昨日にしても今日にしても、まだ思い出しやすいテーマだからいいが、今後全てを思い出す事が出来るだろうか。
さっきからスマホが震えている。
紗耶に光希、母と父からもLINEが届いている。紗耶と光希は目の前で見たから当然だが、母と父からも来ているという事は既に速報が出ているのだろうか。昨日の今日だ、誰もが敏感になっていて当然だ。
———————————————
紗耶、急に学校を飛び出したりしてごめん。すぐに学校に戻る。その時にちゃんと説明するから。光希にもそう伝えて。
———————————————
———————————————
学校の中庭に来たけど、僕らは大丈夫。
安心して!またLINE入れる
———————————————
紗耶と家族のグループLINEにはそう入れておいた。
マンションに着いて、自宅まで駆け上がった。父と母は仕事に出ていて、僕しかいない。今日はリビングでカードに水を掛けた。
昨日のようにカードから、ホログラムのように浮かび上がってくる。出てきたのは、片桐が描いたレベル1のモンスターだ。テーマの通り、見るからに弱そうで、カードに書かれていた文字も衝撃だった。
・必殺技…無し
・特徴…しぶとい
・弱点…全て
このカードを見せ合った時、片桐と一緒に笑ったのを憶えている。
「流石レベル1! 弱すぎじゃんかこれ!」
「だろ! だってレベル1なんだもん。ハハハハ」
片桐はこの時から、今やっているバトルを想定していたのだろうか。僕が描いた戦士の得意技と弱点は何だったか、正直思い出せないでいる。
とりあえず、サモンズを学校へ向かわせ、僕は全てのカードを鞄に入れて、待機してくれていたタクシーに乗り込んだ。その間に来ていたLINEを確認する。紗耶も光希も家族も心配しているようだ。とりあえず皆に「大丈夫だ」と返事を入れておいた。
僕は昨日より、焦りを募らせていた。
片桐は僕が通っている高校も知っている。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
古屋さんバイト辞めるって
四宮 あか
ライト文芸
ライト文芸大賞で奨励賞いただきました~。
読んでくださりありがとうございました。
「古屋さんバイト辞めるって」
おしゃれで、明るくて、話しも面白くて、仕事もすぐに覚えた。これからバイトの中心人物にだんだんなっていくのかな? と思った古屋さんはバイトをやめるらしい。
学部は違うけれど同じ大学に通っているからって理由で、石井ミクは古屋さんにバイトを辞めないように説得してと店長に頼まれてしまった。
バイト先でちょろっとしか話したことがないのに、辞めないように説得を頼まれたことで困ってしまった私は……
こういう嫌なタイプが貴方の職場にもいることがあるのではないでしょうか?
表紙の画像はフリー素材サイトの
https://activephotostyle.biz/さまからお借りしました。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
どん底韋駄天這い上がれ! ー立教大学軌跡の四年間ー
七部(ななべ)
ライト文芸
高校駅伝の古豪、大阪府清風高校の三年生、横浜 快斗(よこはま かいと)は最終七区で五位入賞。いい結果、古豪の完全復活と思ったが一位からの五人落ち。眼から涙が溢れ出る。
しばらく意識が無いような状態が続いたが、大学駅伝の推薦で選ばれたのは立教大学…!
これは快斗の東京、立教大学ライフを描いたスポーツ小説です。
ARIA(アリア)
残念パパいのっち
ミステリー
山内亮(やまうちとおる)は内見に出かけたアパートでAR越しに不思議な少女、西園寺雫(さいおんじしずく)と出会う。彼女は自分がAIでこのアパートに閉じ込められていると言うが……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる