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43_淡い期待
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「そういや、吉田さんに髪型の事も聞かれていたね。本当は目の前で俺の見た目を変えれば、俺がロボットだって信じて貰えたんだろうけど。どうやら、ゴーグルが近くにないと出来ないみたいで」
俺も先日、カスタマイズモードを立ち上げた際に『No data 近くにゴーグルがありません』と表示されたのだった。
「確かに出来ないようだね。外でも何か変えようとしたとか?」
「見た目が同じ人間がウロウロしてるのは良くないと思ってね。とりあえず、家を出る前に長髪にはしたんだけど、まだ足りないかなって思って」
「タクさん、それは分かった。で、タクさんはどうして出て行っちゃったの?」
俺より先に吉田さんが核心を突いた。
「拓也は気付いてると思うけど、コピーはマスターである人物の為に行動するんだ。なでられた犬が喜ぶように、拓也が喜んでくれると俺も幸せを感じる。そんな本能のようなものが予めインプットされてる」
俺と吉田さんは黙って続きを待つ。
「吉田さんも説明書を読んでくれたなら知っているだろうけど、俺の駆動期間は3年。その間に、いかに拓也が幸せな道を歩めるか、そればかり考えてる。今回出て行った理由は、俺といるより白石さんと一緒になった方がいいと判断したから。
——だってさ、俺とはどれだけ仲良く出来ても3年。白石さんとは一生、いや、2人の間には家族だって出来るかもしれない。どちらを選択するかは明白だよね」
横目に見た、吉田さんは複雑な表情をしていた。
「実は、拓也の周りをウロウロしてたんだけど、気付かなかったろ? もちろん、ベッタリじゃ無いよ。タイミングを見計らって、本当に時々ね。白石さんとのジョギングは続いてる? 併走してる2人はホントお似合いだと思ったよ」
「タク……ちゃんと見てくれてたんだ。今週頭から、熱を出してたのは知ってた? あと、花帆……白石さんに振られたのも?」
「そ、そうだったんだ……実はちょっとした旅に出てたんだ。もう大丈夫だと思って安心してたんだけど。申し訳ないことをしたね……」
「いや、タクが謝る事はないよ。タクが自分の時間を使えたのなら、俺も救われた気がする。……で、どこに行ってたの?」
「どこだと思う? 俺は拓也のコピーだよ」
「もしかして沖縄!?」
「正解! 本当に良いところだった。さっき乗ってたバスは、羽田空港からの高速バスだったんだよ。こっちに帰ってくるタイミングで、本当に良かった」
「へー、斉藤さんが沖縄好きだとは意外。マリンスポーツなんかのイメージ無いけどね」
「うん、マリンスポーツには別に興味無いんだ。あの青い海と青い空と熱気。それがあればいい。修学旅行の時には忙しなく時間が過ぎちゃったけど、ゆっくり海だけ見ていたいなって、ずっと思ってたんだ」
「そういう思い出があったんだね……で、白石さんには何でフラれちゃったの?」
事の顛末を説明した。山内さんと花帆が来て、怒って出て行ったこと、買い物袋を届けてくれた流れから、ここに吉田さんがいることも。
「なるほど……俺がいてもどうにもならなかったね、それは。——じゃ、白石さんに会おうよ。吉田さんも信じてくれたんだ、白石さんも大丈夫だよ」
「今すぐは無理かな……連絡さえ取れないし。自宅の前で待ち伏せたとしても、逃げられるかもしれない、今は……」
「私……一度電話してみようか? 白石さんに。知らない番号に出てくれなかったらそれまでだけど」
「別の女性から電話を掛けて貰って、どういう風に捉えられるか分からないけど、お願いしてみようかな……やってくれる? 吉田さん」
花帆の番号を吉田さんに伝えると、吉田さんは一呼吸置いて、花帆に電話を掛けた。
「も、もしもし、私吉田と申します。一度、カラオケボックスでお会いしたことがあるんですが」
長いコールの後、花帆は電話に出てくれたようだ。吉田さんがスマホを指して、小さく手を振るジェスチャーをしている。留守番電話って事なんだろうか?
「その時、一緒にいたのが斉藤さんと、タクさんなんだけど、その事について一度お話させて頂けませんか? 絶対に知っておいた方がいいと思うんです、知らないと一生後悔すると思いますから! とにかく、お返事だけでも貰えると助かります。では……失礼します」
「留守番電話だった……?」
「そう。返事をくれたらいいけど。今はバイト中なのかな?」
もうすぐ、10時になろうとしている。
花帆は電話を折り返してくれるだろうか。
俺も先日、カスタマイズモードを立ち上げた際に『No data 近くにゴーグルがありません』と表示されたのだった。
「確かに出来ないようだね。外でも何か変えようとしたとか?」
「見た目が同じ人間がウロウロしてるのは良くないと思ってね。とりあえず、家を出る前に長髪にはしたんだけど、まだ足りないかなって思って」
「タクさん、それは分かった。で、タクさんはどうして出て行っちゃったの?」
俺より先に吉田さんが核心を突いた。
「拓也は気付いてると思うけど、コピーはマスターである人物の為に行動するんだ。なでられた犬が喜ぶように、拓也が喜んでくれると俺も幸せを感じる。そんな本能のようなものが予めインプットされてる」
俺と吉田さんは黙って続きを待つ。
「吉田さんも説明書を読んでくれたなら知っているだろうけど、俺の駆動期間は3年。その間に、いかに拓也が幸せな道を歩めるか、そればかり考えてる。今回出て行った理由は、俺といるより白石さんと一緒になった方がいいと判断したから。
——だってさ、俺とはどれだけ仲良く出来ても3年。白石さんとは一生、いや、2人の間には家族だって出来るかもしれない。どちらを選択するかは明白だよね」
横目に見た、吉田さんは複雑な表情をしていた。
「実は、拓也の周りをウロウロしてたんだけど、気付かなかったろ? もちろん、ベッタリじゃ無いよ。タイミングを見計らって、本当に時々ね。白石さんとのジョギングは続いてる? 併走してる2人はホントお似合いだと思ったよ」
「タク……ちゃんと見てくれてたんだ。今週頭から、熱を出してたのは知ってた? あと、花帆……白石さんに振られたのも?」
「そ、そうだったんだ……実はちょっとした旅に出てたんだ。もう大丈夫だと思って安心してたんだけど。申し訳ないことをしたね……」
「いや、タクが謝る事はないよ。タクが自分の時間を使えたのなら、俺も救われた気がする。……で、どこに行ってたの?」
「どこだと思う? 俺は拓也のコピーだよ」
「もしかして沖縄!?」
「正解! 本当に良いところだった。さっき乗ってたバスは、羽田空港からの高速バスだったんだよ。こっちに帰ってくるタイミングで、本当に良かった」
「へー、斉藤さんが沖縄好きだとは意外。マリンスポーツなんかのイメージ無いけどね」
「うん、マリンスポーツには別に興味無いんだ。あの青い海と青い空と熱気。それがあればいい。修学旅行の時には忙しなく時間が過ぎちゃったけど、ゆっくり海だけ見ていたいなって、ずっと思ってたんだ」
「そういう思い出があったんだね……で、白石さんには何でフラれちゃったの?」
事の顛末を説明した。山内さんと花帆が来て、怒って出て行ったこと、買い物袋を届けてくれた流れから、ここに吉田さんがいることも。
「なるほど……俺がいてもどうにもならなかったね、それは。——じゃ、白石さんに会おうよ。吉田さんも信じてくれたんだ、白石さんも大丈夫だよ」
「今すぐは無理かな……連絡さえ取れないし。自宅の前で待ち伏せたとしても、逃げられるかもしれない、今は……」
「私……一度電話してみようか? 白石さんに。知らない番号に出てくれなかったらそれまでだけど」
「別の女性から電話を掛けて貰って、どういう風に捉えられるか分からないけど、お願いしてみようかな……やってくれる? 吉田さん」
花帆の番号を吉田さんに伝えると、吉田さんは一呼吸置いて、花帆に電話を掛けた。
「も、もしもし、私吉田と申します。一度、カラオケボックスでお会いしたことがあるんですが」
長いコールの後、花帆は電話に出てくれたようだ。吉田さんがスマホを指して、小さく手を振るジェスチャーをしている。留守番電話って事なんだろうか?
「その時、一緒にいたのが斉藤さんと、タクさんなんだけど、その事について一度お話させて頂けませんか? 絶対に知っておいた方がいいと思うんです、知らないと一生後悔すると思いますから! とにかく、お返事だけでも貰えると助かります。では……失礼します」
「留守番電話だった……?」
「そう。返事をくれたらいいけど。今はバイト中なのかな?」
もうすぐ、10時になろうとしている。
花帆は電話を折り返してくれるだろうか。
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