上 下
40 / 49

40_ホーム

しおりを挟む
 早退した翌日の火曜日。熱が下がっていなかった事もあって、迷わず会社を休んだ。

——————————
一度ゆっくり話をさせてくれないか
——————————
 
 花帆へ送ったメッセージは未読のままだ。

 あの時にこうしていたら、あの時間に戻れるならば……考えても仕方ないことばかりが頭を巡る。

 こんな時でも弱った体は睡眠を求めるようで、気付けば眠りに落ちていた。目が覚めたのは夕方の6時。花帆は授業を終えて、バイトへ移動している頃だろうか。いや、俺のせいで、学校もバイトも休んでいるかもしれない。期待せずにスマホをチェックするとメッセージが入っていた。

——————————
山口さんと彼女の都合どうだった?
——————————

 柳原だった。熱が出て会社を休んだから分からない、と返事を入れておく。

——————————
週末飲みに行ってて、週明けから休むとか弛みすぎ!
——————————

 すぐに返事が来たが、俺はスマホを閉じてしまった。すまない、柳原……

 食欲は相変わらず無かったが、花帆が買ってくれた飲むタイプのゼリーを体に流し込む。熱のせいか、殆ど味はしなかった。


***


 翌朝の水曜日、熱は36.8℃まで下がっていた。悩んだ末、俺は出社を決めた。花帆へのメッセージは相変わらず未読のままだ。

「おはようございます、藤田さん。月火と仕事にならず、すみませんでした」

「おはよう。もう大丈夫なの? 顔色悪いままじゃない? 今朝は何度だったの?」

「36.8℃でした。熱出た後っていつもこんな感じなんです。多分、夕方くらいにはシャンとしてると思うんで」
 
 強ばった笑顔で俺は答えた。

 月火と休んだせいで、仕事がかなり溜まっていた。頭を真っ白にして仕事に取り組む。今の俺には、却って有り難かったかもしれない。


「お疲れさま、沢山進めてくれたんだね。休んだからって、無理しないで良かったのに。光良くんから聞いたけど、紹介するお友達ってどうだった? 面接受けてくれそう?」

「いや……体調悪かったのもあって、まだ聞けてないんです。分かり次第、すぐ伝えますんで」

「そりゃ、そうよね。急かしたみたいでごめんね。もちろん、分かったタイミングで大丈夫だから。それより、病み上がりは気をつけなきゃダメよ。帰ったらすぐ寝るのよ」

 藤田さんはまるで母親のように心配してくれた。

 それより俺はまだ、花帆を紹介するつもりでいるのだろうか。会話さえ出来る見込みも無いのに。



 帰りの電車に揺られている。

 花帆のバイトが20時入りの時は、時間を合わせて会っていた。一緒に居られる時間は、1時間にも満たないというのに。

 待ち合わせ場所は、駅のホーム。俺がいつも降りる、前から3両目、2番目の乗降口。花帆は、いつもその前で待ってくれていた。

「暑いんだから、待合室とかで待っていればいいのに」

「だって、ホームで待つのが一番早く拓也に会えるじゃん」

 そんな、花帆の言葉を思い出す。

 今日も俺は、前から3両目の2番目の乗降口の前に立っている。開いたドアの向こうに、花帆はいるはずも無いのに。

 この駅は花帆との思い出で溢れている。

 花帆と連絡が取れなくなって、まだ3日目。花帆との思い出も、いつかは色褪せていくのだろうか。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。

矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。 女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。 取って付けたようなバレンタインネタあり。 カクヨムでも同内容で公開しています。

校長先生の話が長い、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
学校によっては、毎週聞かされることになる校長先生の挨拶。 学校で一番多忙なはずのトップの話はなぜこんなにも長いのか。 とあるテレビ番組で関連書籍が取り上げられたが、実はそれが理由ではなかった。 寒々とした体育館で長時間体育座りをさせられるのはなぜ? なぜ女子だけが前列に集められるのか? そこには生徒が知りえることのない深い闇があった。 新年を迎え各地で始業式が始まるこの季節。 あなたの学校でも、実際に起きていることかもしれない。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

ねえ、私の本性を暴いてよ♡ オナニークラブで働く女子大生

花野りら
恋愛
オナニークラブとは、個室で男性客のオナニーを見てあげたり手コキする風俗店のひとつ。 女子大生がエッチなアルバイトをしているという背徳感! イケナイことをしている羞恥プレイからの過激なセックスシーンは必読♡

これ以上ヤったら●っちゃう!

ヘロディア
恋愛
彼氏が変態である主人公。 いつも自分の部屋に呼んで戯れていたが、とうとう彼の部屋に呼ばれてしまい…

壁の薄いアパートで、隣の部屋から喘ぎ声がする

サドラ
恋愛
最近付き合い始めた彼女とアパートにいる主人公。しかし、隣の部屋からの喘ぎ声が壁が薄いせいで聞こえてくる。そのせいで欲情が刺激された両者はー

処理中です...