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36_いつもの居酒屋
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「斉藤さん、お昼一緒に行かない?」
藤田さんに誘われてランチに出た。普段はお弁当を持ってきている藤田さんと、ランチを一緒に食べるのは初めての事だ。俺も時々利用している、昔ながらの喫茶店に入った。
「私ね、社員からパートに変えてもらって、週2回くらいの出勤にして貰おうと思うの。もう、斉藤さんだけでも十分やっていけるわよね」
「え!? どうしてですか?」
「んー……だって、歳も歳だし。お金に困ってる訳でも無いから、これからは自分の為にもっと時間使っていきたいの。最初はスパッと辞めちゃうつもりだったんだけど、デザイン面に関しては斉藤さんに頼って貰ってるじゃない? 光良くんも『それやったら、パートでいいから、ちょっとだけでも出てきてよ』って言われてね」
「そういう事ですか……週に2日でも顔を見せて頂けるなら、それはそれで助かります。出来たものを纏めて確認して頂くことも出来ますし。出来れば毎日いてくれれば嬉しいですけど、ハハハ」
そう返すと藤田さんは「あら!」と言い、おどけた顔を見せた。
藤田さんと俺の母親の年齢は同じくらいだ。藤田さんは肌が綺麗だとか、お世辞にもスタイルが良いわけでも無い。しかし、俺の母親と比べると随分と若く見える。服装に気を使っているのもあるだろうが、毎日俺たちと一緒に仕事しているという事も、若さに繋がっているのかもしれない。
「そもそも、斉藤さんのポジションを探して貰ってたのも、良い人が来れば代わってもらうつもりだったのよ。……それでね、この間のゴミ袋ポーチの件もあったりで、商品開発部自体の仕事は増えてるじゃない。光良くんから1人か2人増員してみようかって言われてるのよ。私がパートになったら、何人いればちゃんと回りそう?」
俺の頭には、すぐに花帆のことが浮かんだ。そろそろ今通っている学校の課程も終わる頃だ。
「今の状況だけで言うなら、あと1人いれば十分だとは思います。で、その場合って求人かけるんですかね? 例えば俺の紹介なんかでもいいんですか?」
「問題無いんじゃないかな? 誰か心当たりでもあるの?」
「え、ええ。まだ実務経験は無いんですけど、アプリケーションは使えて、真面目な子です」
「光良くんは実務経験とか気にしないタイプだから大丈夫かもね。じゃ、私はパートで働くっていう話で進めておくね。……あと、斉藤さんはね、甘い所はまだ確かにあるけど、センスはいいと思うよ。うん、かなり。細かい部分を詰めて行けば、もっといいデザイナーさんになれると思う。そして、早く一人前になって、私を解放してあげてね」
そう言って藤田さんは笑った。「いいデザイナーさんになれる」か。話の流れ的にもお世辞かもしれないが、俺は素直に喜んだ。
***
定時に会社を出て、いつもの居酒屋へ向かう。
「いつもの」とは、高校時代の仲間と飲むときに使っている居酒屋だ。一時は、代理店に勤めだした頃の柳原が、イタリアンだ、タイ料理だ、と色々な店を予約した事があった。だが、やっぱり普通の居酒屋が一番落ち着くな、という事で今に至っている。
浅井にアージェント株式会社を紹介して貰った日以来の飲み会だから、半年近く会っていなかった計算だ。浅井の入っている店舗が改装中との事で、珍しく金曜日に集まる事になった。週末という事もあり、心置きなく飲めそうだ。
「お疲れさん、今日はみんな早いな!」
5分前に到着したにも関わらず、着いたのは俺が最後だった。浅井、吉川、柳原の3人は既に席に着いていた。
「な! ビックリするって言ったろ? どう見ても従兄弟のタクくんだろ?」
そう言う浅井に、吉川と柳原はポカンと口を開けて俺を見ていた。
藤田さんに誘われてランチに出た。普段はお弁当を持ってきている藤田さんと、ランチを一緒に食べるのは初めての事だ。俺も時々利用している、昔ながらの喫茶店に入った。
「私ね、社員からパートに変えてもらって、週2回くらいの出勤にして貰おうと思うの。もう、斉藤さんだけでも十分やっていけるわよね」
「え!? どうしてですか?」
「んー……だって、歳も歳だし。お金に困ってる訳でも無いから、これからは自分の為にもっと時間使っていきたいの。最初はスパッと辞めちゃうつもりだったんだけど、デザイン面に関しては斉藤さんに頼って貰ってるじゃない? 光良くんも『それやったら、パートでいいから、ちょっとだけでも出てきてよ』って言われてね」
「そういう事ですか……週に2日でも顔を見せて頂けるなら、それはそれで助かります。出来たものを纏めて確認して頂くことも出来ますし。出来れば毎日いてくれれば嬉しいですけど、ハハハ」
そう返すと藤田さんは「あら!」と言い、おどけた顔を見せた。
藤田さんと俺の母親の年齢は同じくらいだ。藤田さんは肌が綺麗だとか、お世辞にもスタイルが良いわけでも無い。しかし、俺の母親と比べると随分と若く見える。服装に気を使っているのもあるだろうが、毎日俺たちと一緒に仕事しているという事も、若さに繋がっているのかもしれない。
「そもそも、斉藤さんのポジションを探して貰ってたのも、良い人が来れば代わってもらうつもりだったのよ。……それでね、この間のゴミ袋ポーチの件もあったりで、商品開発部自体の仕事は増えてるじゃない。光良くんから1人か2人増員してみようかって言われてるのよ。私がパートになったら、何人いればちゃんと回りそう?」
俺の頭には、すぐに花帆のことが浮かんだ。そろそろ今通っている学校の課程も終わる頃だ。
「今の状況だけで言うなら、あと1人いれば十分だとは思います。で、その場合って求人かけるんですかね? 例えば俺の紹介なんかでもいいんですか?」
「問題無いんじゃないかな? 誰か心当たりでもあるの?」
「え、ええ。まだ実務経験は無いんですけど、アプリケーションは使えて、真面目な子です」
「光良くんは実務経験とか気にしないタイプだから大丈夫かもね。じゃ、私はパートで働くっていう話で進めておくね。……あと、斉藤さんはね、甘い所はまだ確かにあるけど、センスはいいと思うよ。うん、かなり。細かい部分を詰めて行けば、もっといいデザイナーさんになれると思う。そして、早く一人前になって、私を解放してあげてね」
そう言って藤田さんは笑った。「いいデザイナーさんになれる」か。話の流れ的にもお世辞かもしれないが、俺は素直に喜んだ。
***
定時に会社を出て、いつもの居酒屋へ向かう。
「いつもの」とは、高校時代の仲間と飲むときに使っている居酒屋だ。一時は、代理店に勤めだした頃の柳原が、イタリアンだ、タイ料理だ、と色々な店を予約した事があった。だが、やっぱり普通の居酒屋が一番落ち着くな、という事で今に至っている。
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