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15_面接

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「失礼致します、斉藤です。この度はお時間を作って頂き、有り難うございます」

「ハハハ、力抜いてください。そんなキッチリした会社違うから。どうぞどうぞ、座って座って。名刺渡しときますね、幸田こうだ言います」

 浅井に紹介された、アージェント株式会社に来ている。

 駅から徒歩5分程の場所にある、3階建ての古いビルだ。小さいながらも全てのフロアがアージェント株式会社名義だった。自社ビルなのだろうか。渡された名刺には『代表取締役社長 幸田こうだ光良みつよし』と書かれていた。

「ちょっとは浅井君から話聞かせて貰ってるけど、一応履歴書見せて貰おかな」

 そう言って俺が差し出した履歴書に目を通す。50歳にして浅井の美容室に通っているだけあり、髪型も服装もオシャレだった。

「なるほど。前の文具メーカーさんから2年空いてるんやね。FXで稼ぐのはやっぱり難しかったですか?」

「そうですね、結局一度も増やすこと無く、減らし続けました。もう二度とやらないと思います」

「ふんふん。それで浅井君に渡してた資料見て貰ったと思うけど、ウチがやってもらいたい仕事って斉藤さんはいけそうですか? ……ウチも一応、紹介とは言え、誰でもっていう訳にもいきませんので。そこはちゃんと見させて貰うんで、そのつもりで思ってくれたら助かります」

「はい、もちろんです。お気遣い有り難うございます。資料にあった職種なら、この辺りが出来ればいいのかなって、一応色々と作ってきました。えーと、これです」

 面接日までに浅井から貰った資料と、アージェント株式会社のホームページを元に、俺なりに作ることが出来る物を用意してみた。

「御社ではノベルティグッズなどに、顧客の社名などを入れて販売していると思います。そこで、もう一つ踏み込んで色々なカスタマイズが出来るようになると、もっとオリジナリティが出るのではないかと考えました。それが、今見て頂いている1枚目です」

「ほう、ここまで作ってくれはったんですか。よう出来てますやん。ただ、ホームページには載せてないだけで、既にカスタマイズは少しずつやってるんやけどね。これは斉藤さんがデザイン考えはったん?」

「は、はい、そうです。元々デザイナーでも無いので、私が出来るのはその程度ですが。カスタマイズだけでなく、本体のデザインも出来るようになりたいと思っています」

「ベースになるデザインは外注さんにお願いしてるんやけどね、今は……ウチでオリジナルを作れるようになったら、そりゃ色々と助かりますな。それで2枚目が……」

 俺が用意した資料を、幸田社長は1枚1枚丁寧に見てくれた。「ほう」とか「へえ」などの相づちを打ちながら、俺の説明に耳を傾けてくれる。


「——はい、よう分かりました。正直、ここまで用意してくれたのは意外でしたわ。斉藤さんはウチ以外にも面接の予定はあるんですか?」

「いえ、御社以外はネットでピックアップしてる程度です。今の所、面接の予定はありません」

「そうですか、分かりました。じゃ、ウチの会社の子らにもデザイン見て貰って、またお返事させて貰います。出来るだけ早く連絡入れるので、ちょっと待っててくださいな」

 これで俺の面接は終了した。提出した資料を「デザイン」と呼んでくれた事に、喜んでいる自分がいた。手応えはどうだろう……正直、全く分からなかった。


 浅井は仕事中だろうから、取り急ぎお礼のメッセージを送っておいた。

——————————
今、幸田社長と会ってきました。浅井の店に通ってるだけあって、オシャレな人だね。結果は後日なので、また連絡します。今回はありがとう。
——————————

 送信直後に浅井から電話が入った。休憩に入った直後だったらしい。

「どうだった? 感触は? 幸田さん面白い人でしょ?」

「感触ねえ……良かったと言えば良かったけど、採ってくれるかどうかは正直全然分かんない。面接だし、面白い人かどうかまでは分からなかったけど」

「アハハ、そりゃそうか。俺の店ではいつも面白い事ばっか言うんだけどね。ザ・関西人って感じで」

「俺も社員になって面白い話聞けたらいいけどなあ。悪いね、休憩時間にわざわざ連絡貰って」

「全然。結果分かったら教えてよ。あー、あと、これからは早めにカット来いよ」

 そう言って浅井は電話を切った。

 
 もし、今日の面接の結果がダメだったとしても、俺は着実に前進している。
 
 そうだ、このまま進めばいい。
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