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13_男達のカラオケ
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俺たちは今、タクが働いているカラオケボックスにタクシーで向かっている。
従兄弟は今何の仕事してるの? という流れから「久々にカラオケ行こう」という話になったからだ。「せっかくだから、従兄弟に会ってみようぜ。タクシー乗っても、4人で割ったらタダみたいなもんだ」と、柳原はさっさとタクシーを停めてしまった。
「にしても、無職とフリーターの男2人が、ハイツに同棲してるって中々ヘビーだな。で、一緒に飲んだ、2人の女子ってどんな人たちなの?」
相変わらず、ズケズケと言ってくるのは吉川だ。
「同じハイツに住んでる人たち。2人とも30歳だったかな」
「なに、その楽しそうなハイツ!? 今のハイツってそんな事になってんの?」
浅井と柳原は「昔のハイツは知ってんのかよ」と笑っている。
「一緒に飲んだのはその時が初めてだし、いつも遊んでるってわけじゃないよ」
「まあ、斉藤も楽しそうに暮らしてて安心したわ。——あ、ここは俺が払っとくから」
カラオケボックスの前に着くと、助手席に居た吉川が支払いをした。吉川と柳原は普段からタクシーをよく使っているようだ。俺が前にタクシーに乗ったのなんていつの事だっけ。
店内に入ると、タクが1人でカウンターに立っていた。
「いらっしゃ……おー拓也! 来るなら電話してくれたら良かったのに。大きい部屋、さっき埋まっちゃったよ」
「いやいや、小さくて全然大丈夫。2時間っていける?」
「もちろん。あ、皆さん初めまして。拓也がお世話になっています。従兄弟の斉藤タクです」
「初めまして! って言うか、従兄弟さん高校生の頃の斉藤そっくりじゃんか!」
「ホントホント! 俺も一目見てビックリしたわ。従兄弟ってこんなに似るのかよ。声も全く一緒だし!」
「何て言うか、斉藤をスカッと爽やかにした感じだよね、タクくん。そういや斉藤も高校生の時はそこそこイケメンだったのよ。今は面影無いけど」
皆、飲んでるせいもあって好き勝手言う。悪い気はしないけども。タクもクスクスと笑っていた。
「にしても、ほんと斉藤の若い頃そっくりだったな。でもやっぱりタクくんのが、何て言うか……爽やかだよな」
「そうそう。斉藤って見た目悪く無かったのに、なんか雰囲気暗かったっていうか。そのせいでモテなかったんだよ、きっと」
柳原と吉川がリモコンで曲を探しながらの、言いたい放題は続く。でも、タクと表情が違うのは俺も気付いていた。それも今後の課題としよう。
コンコンとノックの後、店員がドリンクを持って部屋に入ってきた。
「斉藤さんこんばんは」
白石さんだった。リモコンから顔を上げた、吉川と柳原が釘付けになっている。
「こんばんは、白石さん。先日はありがとうございました。——今日は、酔っ払いばっかりで注文が多いかもしれませんが、宜しくお願いします」
「いえいえ、とんでもないです。お気兼ねなく注文してください。それでは、ごゆっくりどうぞ。失礼いたします」
そう言って白石さんは静かにドアを閉めた。
「ちょいちょいちょい、斉藤くん。今の彼女はハイツの彼女じゃないよね?」
「違う違う、彼女はタクのバイトの同僚。前に来たときに挨拶しただけ」
「びっくりしたー。あの子が同じハイツの住人だったら、斉藤が超絶、勝ち組になるとこだったじゃん。凄い可愛いな、なんでカラオケでバイトしてんのよ」
何に対しての勝ち負けかは分からないが、吉川が言った。
「いや、そんなの俺も知らないよ。深い理由なんて無いんじゃない?」
と言いつつも、俺もカラオケのバイトを始めるまでは何をしていたんだろう、どうしてカラオケのバイトを選んだんだろう、と思っていた。
先日の吉田さんと山内さんの時とは違って、俺たちが歌うのは高校生の時に流行っていた曲が中心だった。初めのうちこそ1人ずつ歌っていたが、後半になると2本のマイクを4人で交互に回していき、全員で歌っていた。しかも立ち上がって。
ああ……やっぱりコイツらといると楽しい。久しぶりの感覚かもしれない。
結局1時間延長して、日が変わる少し前にカラオケボックスを出た。吉川と柳原は今からラーメンを食べに行くという。吉川はともかく、柳原は何で太らないのか不思議だ。帰り際、浅井にもう一度礼を言い、皆を見送った。
1階のコンビニ前でタクを待つ。バイトは12時上がりなので、しばらくで下りてくるだろう。
「あ、待っててくれてたんだ」
「お疲れさん。ごめんな、タクは働いてるのに俺ばっか遊んで」
「何言ってんの。友達と楽しそうにしてて、なんか嬉しかったよ」
「ハハハ、タクはまるで母親だな」
「そういや白石さん、『斉藤さん、歌上手いですね』って言ってたよ」
「え? いつ聞いたんだろ。もしかして全員で立って歌ってた時かな?」
「そうじゃない? 皆さん楽しそうでした、って言ってたから」
「いい歳したオッサンが、って思っただろうな……そういやさ、白石さんってカラオケのバイトを選んだのって理由あるのかな?」
「カラオケじゃないとダメなのかは分からないけど、昼間は専門学校に通い始めたから、夜しかバイト出来ないんだって。やっぱりどうしてもデザイナーになりたいからって、勤めていた会社を辞めたって言ってたよ」
「デザイナーって、何系のデザイナー?」
「うーん、デザイナーとしか聞いてないから分からないけど、タクのパソコンにも入ってる、イラストレーターとかフォトショップとか勉強してるって言ってたかな?」
もしかして、俺と白石さんにも接点が出来るかもしれない。
それにはまず、浅井に紹介して貰った会社、何としても採用して貰わなければ……
従兄弟は今何の仕事してるの? という流れから「久々にカラオケ行こう」という話になったからだ。「せっかくだから、従兄弟に会ってみようぜ。タクシー乗っても、4人で割ったらタダみたいなもんだ」と、柳原はさっさとタクシーを停めてしまった。
「にしても、無職とフリーターの男2人が、ハイツに同棲してるって中々ヘビーだな。で、一緒に飲んだ、2人の女子ってどんな人たちなの?」
相変わらず、ズケズケと言ってくるのは吉川だ。
「同じハイツに住んでる人たち。2人とも30歳だったかな」
「なに、その楽しそうなハイツ!? 今のハイツってそんな事になってんの?」
浅井と柳原は「昔のハイツは知ってんのかよ」と笑っている。
「一緒に飲んだのはその時が初めてだし、いつも遊んでるってわけじゃないよ」
「まあ、斉藤も楽しそうに暮らしてて安心したわ。——あ、ここは俺が払っとくから」
カラオケボックスの前に着くと、助手席に居た吉川が支払いをした。吉川と柳原は普段からタクシーをよく使っているようだ。俺が前にタクシーに乗ったのなんていつの事だっけ。
店内に入ると、タクが1人でカウンターに立っていた。
「いらっしゃ……おー拓也! 来るなら電話してくれたら良かったのに。大きい部屋、さっき埋まっちゃったよ」
「いやいや、小さくて全然大丈夫。2時間っていける?」
「もちろん。あ、皆さん初めまして。拓也がお世話になっています。従兄弟の斉藤タクです」
「初めまして! って言うか、従兄弟さん高校生の頃の斉藤そっくりじゃんか!」
「ホントホント! 俺も一目見てビックリしたわ。従兄弟ってこんなに似るのかよ。声も全く一緒だし!」
「何て言うか、斉藤をスカッと爽やかにした感じだよね、タクくん。そういや斉藤も高校生の時はそこそこイケメンだったのよ。今は面影無いけど」
皆、飲んでるせいもあって好き勝手言う。悪い気はしないけども。タクもクスクスと笑っていた。
「にしても、ほんと斉藤の若い頃そっくりだったな。でもやっぱりタクくんのが、何て言うか……爽やかだよな」
「そうそう。斉藤って見た目悪く無かったのに、なんか雰囲気暗かったっていうか。そのせいでモテなかったんだよ、きっと」
柳原と吉川がリモコンで曲を探しながらの、言いたい放題は続く。でも、タクと表情が違うのは俺も気付いていた。それも今後の課題としよう。
コンコンとノックの後、店員がドリンクを持って部屋に入ってきた。
「斉藤さんこんばんは」
白石さんだった。リモコンから顔を上げた、吉川と柳原が釘付けになっている。
「こんばんは、白石さん。先日はありがとうございました。——今日は、酔っ払いばっかりで注文が多いかもしれませんが、宜しくお願いします」
「いえいえ、とんでもないです。お気兼ねなく注文してください。それでは、ごゆっくりどうぞ。失礼いたします」
そう言って白石さんは静かにドアを閉めた。
「ちょいちょいちょい、斉藤くん。今の彼女はハイツの彼女じゃないよね?」
「違う違う、彼女はタクのバイトの同僚。前に来たときに挨拶しただけ」
「びっくりしたー。あの子が同じハイツの住人だったら、斉藤が超絶、勝ち組になるとこだったじゃん。凄い可愛いな、なんでカラオケでバイトしてんのよ」
何に対しての勝ち負けかは分からないが、吉川が言った。
「いや、そんなの俺も知らないよ。深い理由なんて無いんじゃない?」
と言いつつも、俺もカラオケのバイトを始めるまでは何をしていたんだろう、どうしてカラオケのバイトを選んだんだろう、と思っていた。
先日の吉田さんと山内さんの時とは違って、俺たちが歌うのは高校生の時に流行っていた曲が中心だった。初めのうちこそ1人ずつ歌っていたが、後半になると2本のマイクを4人で交互に回していき、全員で歌っていた。しかも立ち上がって。
ああ……やっぱりコイツらといると楽しい。久しぶりの感覚かもしれない。
結局1時間延長して、日が変わる少し前にカラオケボックスを出た。吉川と柳原は今からラーメンを食べに行くという。吉川はともかく、柳原は何で太らないのか不思議だ。帰り際、浅井にもう一度礼を言い、皆を見送った。
1階のコンビニ前でタクを待つ。バイトは12時上がりなので、しばらくで下りてくるだろう。
「あ、待っててくれてたんだ」
「お疲れさん。ごめんな、タクは働いてるのに俺ばっか遊んで」
「何言ってんの。友達と楽しそうにしてて、なんか嬉しかったよ」
「ハハハ、タクはまるで母親だな」
「そういや白石さん、『斉藤さん、歌上手いですね』って言ってたよ」
「え? いつ聞いたんだろ。もしかして全員で立って歌ってた時かな?」
「そうじゃない? 皆さん楽しそうでした、って言ってたから」
「いい歳したオッサンが、って思っただろうな……そういやさ、白石さんってカラオケのバイトを選んだのって理由あるのかな?」
「カラオケじゃないとダメなのかは分からないけど、昼間は専門学校に通い始めたから、夜しかバイト出来ないんだって。やっぱりどうしてもデザイナーになりたいからって、勤めていた会社を辞めたって言ってたよ」
「デザイナーって、何系のデザイナー?」
「うーん、デザイナーとしか聞いてないから分からないけど、タクのパソコンにも入ってる、イラストレーターとかフォトショップとか勉強してるって言ってたかな?」
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