ある日、もう一人の俺(イケメンだけど寿命は3年)がこの世に誕生した話

靣音:Monet

文字の大きさ
上 下
3 / 49

03_アバター始動

しおりを挟む
 とりあえず、ゴーグル操作で服を着た。俺のアバターとはいえ、裸の男が隣にいるのは居心地が良くなかったからだ。さすが体形をスリムにしただけあって、ここ数年太って着られなくなっていた服もスルリと着こなした。何なら、ウエスト周りはそれでも余っていたくらいだ。

 落ち着いた所で、今一度説明書を読んでみる。

◆一度コピーを作成すると初期状態には戻せません。
こ、これは地味に厳しい。もし、このアバターが不要になった時どうする……? こんなものを捨てたりしたら大事件だ。処理の仕方は、後で考えよう……

◆内蔵バッテリーの駆動期間は約3年です。
動力源は何なんだろう……充電無しで3年も動き続けるという事? まあ、少なくとも3年間は付き合う事になりそうだ。

◆バッテリー交換不可。バッテリーが切れるとアバターは停止します。
……って言う事は、3年後には死んじゃうって事? なんかそれは辛いな。

◆1日3リットル以上の水を口腔から摂取させてください。(水分以外の摂取は厳禁です)
目の粘膜だったり、肌の自然なしっとり感など、全てを水で補っているらしい。お茶ならギリOKで、糖分、油分、アルコール及び、固形物は摂取厳禁なようだ。

◆汗腺以外からの排泄機能はありません。
不自然にならないよう、極暑環境などでは汗をかかせるようだ。あと、お茶などを口にいれた際には、不要物を最小粒度の粉体にして汗腺より排出するとある。なんか分からないけど凄い。

◆破損する恐れがあるので強い衝撃等を与えないでください。
まあ、これは当たり前と言えば当たり前。だけど、多少の切り傷等なら自動修復しますだって。ほう、これも凄い。

◆AIによる自動行動が可能です。
ゴーグルでの操作を積み重ねる事によって、より本人に近づいたコピーになるとの事。これは助かる。いつかは二人バラバラで仕事が出来たりするのだろうか。


 そう言えば昼過ぎに荷物が届いて、もう夜の7時を過ぎていた。とりあえずは試運転も兼ねて、コンビニにでも行かせてみるか。

 早速、気になっていたAIモードを起動させてみた。

 アバターはキョロキョロと周りを見回した後、俺に視線を向けた。その動きはごくごく自然で、本当の人間にしか見えなかった。

「こんにちは」

 アバターは笑みを浮かべて、そう言った。

「お、おう……本当に自動で動くんだな……じゃあ、まずは名前を付けるか。んーと……お前の名前はタクにしよう。俺が斉藤拓也で、お前が斉藤タク。今日から俺たちは従兄弟いとこという設定だ」

「俺の名前は斉藤タクね。……で、そっちが斉藤拓也。そして、俺たちは従兄弟同士……OK、これからも宜しく」

 説明書によると、ゴーグルでの操作中以外は、自動で行動してくれるらしい。人としての基本行動はインプットされているので、最初からAIモードはオンが推奨と書いてあった。

「じゃ、今からコンビニに行く。まだ自動運転は心配だから、俺がゴーグルで動かすよ」

 俺がそう言うと、タクはコクリと頷いた。

 早速、ゴーグル越しにタクを動かし家を出た。ビックリするくらい自分が行動するのと変わりが無い。3年という縛りがなければ、食事以外はタクとして生きていく方が楽かもしれない。そんな風にまで思った。

 コンビニまでは徒歩約3分。家賃の安いハイツだが、環境はそれなりに良い。歩いていて気付いたのだが、街のかすかな匂いや、頬の辺りに夜風を感じた。顔をスッポリ覆うゴーグルには、そのような機能もあるらしい。

 ちなみに、顔以外の手や足も感触を伝えてくる。ポケットに手を突っ込んでみたが、ちゃんと指先で鍵を掴んでいる事を認識できた。説明書には『幻肢に起きる現象の応用』などと書かれていたが、俺には何のことだか分からなかった。

 コンビニで何の問題も無く買い物を終え、帰り道ではタクを軽く走らせてみる。

 タクの「ハッハッハッ」という呼吸音は聞こえるが、俺自身は全く疲れない。おかしな話だが、タクを操作していて初めてバーチャル感を覚えた。走っても疲れないなんて、ありえない事だからだ。

 無事ハイツに戻り、我が家である201号室に鍵を差し込んだ。ドアを開けようとしたタイミングで、お隣202号室のドアが開いた。お隣の吉田さんだ。今からどこかへ出かけるらしい。

「こんばんは」

 お互いに軽く会釈してタクを自宅に戻した。

 一人暮らしをしている俺の部屋に、解錠して別の男が入っていくのを見た吉田さんは何を思っただろう。

 ちなみに吉田さんは、子持ちのシングルマザーだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

クールな生徒会長のオンとオフが違いすぎるっ!?

ブレイブ
恋愛
政治家、資産家の子供だけが通える高校。上流高校がある。上流高校の一年生にして生徒会長。神童燐は普段は冷静に動き、正確な指示を出すが、家族と、恋人、新の前では

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

処理中です...