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LV-46:悪意の鏡

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「みなさん、私の事よりベテルデウスです! 今なら攻撃が通るはずです!!」

「わ、分かった!!」

 ナイリの一撃によって、ベテルデウスの法衣は魔力を無くしたのだろう、俺たちの攻撃も通るようになった。ティシリィはCHクリティカルヒットを連発した。

「な……なめるな、人間ごときが!! 食らえ、魔界の豪炎を!!」

 ベテルデウスの杖から放たれた炎は、俺たちを激しく包み込んだ。

「あっ、熱い!!」

 サーシャが叫んだ。本物の熱風が俺たちを襲う。皆のHPが完全回復していないタイミングで放たれたこの攻撃は、俺たち全員を瀕死ラインにまで追いやった。

「ナイリ! そろそろ使うわ、サクリフィスソウルを! 後はお願い!!」

 HPとMPが大きく落ち込んだサーシャは、サクリフィスソウルを使う宣言をした。この魔法を唱えると、サーシャ以外は全回復するが、サーシャは命を落とす。

「分かりましたサーシャ!!」

 直後、端末がサーシャの死を知らせた。サーシャがサクリフィスソウルを唱えたのだ。代わりに、俺たちのHPとMPは全回復した。

 ここまで予定通り、次は俺のデディケートソウルを放つ。HPを1だけ残し、残りのHPをエネルギーとして敵に放つ魔法だ。

「ベテルデウス、ここで戦いは終わらせる!! デディケートソウルッ!!」

 暗かった部屋の隅々に光りが届くほど、希望の剣は光りを放った。そして、剣先に1メートルほどの光りの球が出来ると、体が仰け反るほどの威力で、剣先から飛び出していった。

「クッ、当たってたまるか!」

 ベテルデウスは瞬時に反応したが、その体はまととしては大きすぎた。左肩に当たった光りの球は、ベテルデウスの左腕を吹き飛ばした。

 その間にも、エクラウスさんがブレスリカバリーで俺を回復し、ナイリは『命の石』でサーシャを生き返らせた。

「ぐあああっ!! ま、まだまだっ!!」

 ベテルデウスは残った右腕で、再びいかづちを呼び出した。片腕になったからなのか、最初のいかづちに比べ威力は激減している。左腕の付け根からは、激しく血が噴き出していた。

 直後、聖母の杖でサーシャが俺たちを全回復する。もう、ブレスリカバリーを使う必要もないくらい、ベテルデウスの攻撃力は落ちていた。

 俺たちの勝利が見えたその時だった。

「ベテルデウス!! もう覚悟しろ、お前に勝ち目は無い!! お前が杖を捨てて、また島の人間と生きると約束するなら、攻撃をやめる!!」

「ティ、ティシリィ!? 何を言ってる! こいつらはまたどこかに潜んで、おなじ事をする!!」

「そうじゃ! あと一息で倒せる! バカな事を言うな!!」

「いや、最初に戦いを仕掛けたのはアタシたち人間だ! ここで……ここで戦いをやめるなら、もう一度歩み寄ってみようじゃないか!!」

 それを聞いたベテルデウスは杖を地面に落とした。巨大な杖が、大きな音を立てて床を転がる。そしてベテルデウスは、最初に出会った時の大きさにスルスルと戻っていった。

「ベ、ベテルデウス……私たちと話し合うのですか……?」

「バカを言うな……恥ずかしい話だが、もう立っていられないだけだ……」

 そう言うとベテルデウスは床に倒れ込んだ。

「お、おい……お前たちは本当はそんな悪い奴じゃないんじゃないか? クロトワ族から話を聞いてから、アタシはずっとそんな迷いがあった」

「悪い奴? 悪いとはなんだ……? 私たちはとても純粋な生き物なんだ……クロトワの人間には悪意が無かったと聞く。悪意を向けられて初めて、私たちは同じように悪意を抱く。人間たちの悪意を吸って、私たちはこのような生き物になった。私たちは人間の鏡みたいなものなのだよ……」

 ベテルデウスの呼吸が激しくなる。もう、話をする事だってギリギリなのだろう。

「ベテルデウス……本当に、本当に正しいこととは、何なのでしょうか……?」

 ナイリの頬を伝う涙が、ベテルデウスの血に染まった法衣に落ちた。

「そんなものは私にも分からない。ただ、今分かることはひとつ……お前たちから悪意を向けられていない今、私もお前たちに悪意は無い。そ……それだけの事だ……」

 そのセリフを最後に、ベテルデウスは動かなくなった。その顔は魔王と言うには、あまりにも安らかな顔をしていた。

 そして、ティシリィがベテルデウスの頬に触れようとしたとき、ベテルデウスは光りの粒となって、空へと帰っていった。



「な、なんだよ、これ……これで終わりなのか?」

「なんなんだろうね……ちょっと想像してたのと違うね……」

 全員の頬に、涙が伝っている。

「正直、ワシにはクロトワ族の話、分からんところがあった……ワシも会ってみたかったのう、クロトワ族に……」

「また……私が全部話してあげますよ、エクラウスさん……」

 サーシャがエクラウスさんの肩に手を掛けたとき、いかにもロールプレイングゲームのオープニングに使われそうな、オーケストラ曲が流れた。そして、ベテルデウスが背にしていた壁が大きく開くと、ランベルト城の城内を模した広間が現れた。

「おめでとう!! イロエスの皆さん!! あなたたちのお陰で、この島に再び平和が訪れました!!」

 そこには、多くの村人たち、そして、ウーラやカウロたちもいた。皆が拍手で俺たちを暖かく迎え入れる。

「ウーラ!! カウロ!!」

 ティシリィは涙を拭って、二人の元へ駆けていった。俺たちもティシリィに続く。

「ウーラ! どうだった、アタシたちはあれで良かったのか?」

「ああ、とても良いエンディングだったのう。我らも心置きなく、天に昇る事が出来ようぞ」

「ティシリィ、お前に頬をぶたれたことは、あの世でも忘れないぞ」

 カウロのそのセリフに、俺たちは笑いに包まれた。サーシャはデビラを倒して仇を討った事をカウロに報告した。

 城の壁には、サウル神父と、ローイル神父の肖像画、そしてその真ん中には、一回ひとまわり大きな、ナイリの肖像画が飾られていた。


***


 俺たちはその後、城の裏手から移動して小さな船に乗り込んだ。ここから、最初に集合した本部に移動するという。

「うわ、見て! バルナバ城の裏側! セット丸出し!」

 船を出てすぐに見えたのは、バルナバ城の裏側だった。大きな文字で、『RPG ISLAND』という表記が見える。

「ワザと手を抜いたってよりも、現実へ引き戻すための小細工だったりしてね」

「それより、ナイリ! ナイリがパウロの子孫ってどういう事だよ!」

「ええ……あれは参加決定時に伝えられたのです。実は、参加者500人の内、20人は勇者なんですよ」

「ワシも黙っていたが、実はヴァントスも勇者なんじゃ。アイツは聞きたくも無い事を、なんでも話してきよるからのう」

「ヴァ、ヴァントスさんったら、そんな大事な事を言ったのですか!? 勇者と告白してもいいタイミングが来るまで、黙ってなきゃいけないってルールなのに!!」

「もしかして、ベテルデウス戦の途中が、そのタイミングだったのか?」

「はい……私もいつ告白出来るのやらと、気が気じゃ無かったですが……ベテルデウス戦の途中で、やっと通知が来ました……」

「ちっ、何だよ!! 勇者、めちゃくちゃ楽しそうじゃねーか!! アタシも言ってみたかったな『ティシリィ・アルジャンテ!!』って!!」



 更に南に進むと、今度はランベルト城の裏側が見えてきた。こちらも同様に、『RPG ISLAND』という表記がある。

「後は、あのダメージの件だけ問いたださないとな。最後の最後まで酷いもんだった」

「確かにのう。ワシもイロエスに戻った途端じゃったからのう、ダメージを受けたのは」

 俺たちに最後までついて回った、謎のダメージ。運営側からは、どんな回答が返ってくるのだろう。俺は楽しみでもあった。
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