上 下
35 / 49

LV-35:燃えるクロトワ

しおりを挟む
 俺たち五人を乗せた馬車は、小高い丘を力強く駆け上がった。お世辞にも乗り心地は良くなかったが、徒歩ならばクロトワの危機に間に合わないだろう。

「どんな奴が来たんだ? 大型のモンスターか!?」

「いや、仲間を率いているモンスターは小柄だ! ただ、そいつは言葉を話す」

「言葉……!? ベテルデウス以外で言葉を話すのは、アスドレクだけと聞いていましたが……きっと、頭の良いモンスターなのでしょう。急ぎましょう!」

「分かってる! こいつの出せるスピードはこれが限界なんだ!」

 丘を越えると、クロトワ集落から立ち上る煙が見えた。



「カウロ、大変だ! 魔物がウーラの家に入った!!」

「何をやってる! 死んでも守れ!! イロエスたち、こっちだ!!」

 馬車を降りた俺たちはカウロを追い、ウーラの家まで駆けた。周りには倒れているクロトワ族が何人もいる。もしかすると、彼らは既に息を引き取っているのかもしれない。サーシャは、カウロの背中だけを見て走っていた。

 ウーラの家に入ると、一体の小柄なモンスターがいた。

「——何ダ、オ前タチハ? 邪魔ヲシニ来タノカ?」

 体はアスドレクのように漆黒で、大きな目だけが鮮やかな紫色をしていた。細い体からは大きな翼が生え、爪もまたアスドレクのように鋭くとがっていた。デビラという名前らしい。

「話せるってのは本当だったのか……話す事が出来るのは、ベテルデウスとアスドレクだけだと聞いていたが……」

「ドウシテ、俺タチハ進化シナイト考エル? 何様ノツモリダ、オ前タチ?」

「だけど、話せた事はこちらにとっても都合がいいです。どうして、昔は共存していたクロトワ族を襲うのですか!?」

「何ヲ言ッテル! 裏切ッタノハ、コイツラダ! ガルーラ王国ト共ニ、我ラニ、牙ヲ向ケタ!」

「クロトワ族だって被害者なんだ! 決して、お前たちと戦いたかったわけじゃない!!」

「ソンナ事、知ルカ……ベテルデウス様ハ、父上ノ甘サガ、滅ボサレタ原因ト考エテイル。今回ハ、優秀ナ魔族以外ハ、仲間デアッテモ生カシタリハ、シナイ。モチロン、オ前タチモ含メテダ」

「さ、最後に一つだけ聞かせろ。じゃ、どうして今日までクロトワの集落を襲わなかったんだ」

「魔族ニモイルンダヨ、甘ッチョロイ考エヲシタ奴ガナ。ソウイウ奴ラハ、片ッ端カラ処分シタ。俺ヤ、ベテルデウス様ガナ……クロトワノ人間ヨ! 今マデ、生カサレタ事ニ、感謝スルンダナ! ……サア、掛カッテコイ! 人間共!!」

——————————
◆インディ(魔法使い)LV-77
右手・希望の剣
左手・魔法の盾
防具・魔法の鎧
アクセ・守りの指輪/神秘のネックレス/雨の恵
——————————
——————————
◆ティシリィ(戦士)LV-78
右手・魔法の盾
左手・光りの剣[ETA]
防具・黒騎士の鎧
アクセ・幸運のブレスレット/ツインイヤリング/神秘のネックレス
——————————
——————————
◆ナイリ(賢者)LV-77
右手・ブレイブソード
左手・神秘の盾
防具・神秘の鎧
アクセ・神秘のネックレス
——————————
——————————
◆サーシャ(僧侶)LV-69
右手・氷塊の杖
左手・魔法の盾
防具・神秘の鎧
アクセ・祝福の指輪/神秘のネックレス/雨の恵
——————————


 デビラは宙に浮いた。カウロはウーラを連れて、既に部屋を出たようだ。

「今の話を聞けて良かった……もうコイツらに情けを掛ける必要は無い! アスドレクより下っ端だ、負ける要素は無い!!」

 その台詞を聞いた瞬間、デビラの表情が変わった。

「ア、アスドレク様ヲ倒シタノハ、オ前タチナノカ……? ツマラナイ冗談ハヤメロ……」

「冗談なものですか! アスドレクの左手の結界の秘密だって知っています! 覚悟なさい、デビラとやら!!」

「ソ、ソウカ……俺コソ、オ前タチノ話ヲ聞ケテ良カッタ。クチハ、災イノ元ダナ」

 デビラはそう言うと、両の手のひらをこちらに向けた。手のひらはみるみる発光し、次の瞬間、巨大な光りの玉を放った。

「まっ、眩しい!!」

 目を開けた時、既にデビラは居なかった。目くらましを放って逃げたのだろう。

「思ったより、賢い奴だったな……すまない、余計な事を言って……」

「大丈夫です、ティシリィ。いずれまた、あのモンスターとは戦うことになるでしょう。それより、ウーラたちは大丈夫なのでしょうか……」

 ウーラの家を出ようとすると、カウロが玄関に立っていた。

「カウロ、ウーラはどうした……?」

 カウロは首を左右に振った。

「も、もしかして……な、亡くなられたのですか……?」

 カウロは返事の代わりに、黒い瞳から大粒の涙を溢れさせた。



 俺たちはカウロに連れられ、クロトワの集会所へ移動した。中には、沢山の棺が置かれている。

「こ、これ……全部、そうなのか?」

 カウロは消え入りそうな声で、「ああ……」と答えた。

「カウロ、これからどうするのですか? ……モルドーリアへは行きますよね?」

「いや……俺たちは亡くなった仲間をとむらわなくてはならない。どうするか考えるのはそれからだ。それに……ここが襲われたのは、ガルーラ王国の人間のせいだと村民は思っている。——俺だって、その一人だ」

「でも……サウル神父はクロトワ族と一緒に生きていきたいって言ってたよ。一人一人が変わっていかないとダメなんじゃない? 私なんかが口を挟める事じゃないって分かってる。でも……」

 そう言って泣き出したサーシャの肩を、ティシリィが抱いた。

「そうです、このままではダメです。またモンスターが現れたらどうするんですか? あなたたちの戦力では……言いづらいですが、全滅してしまいます」

「俺たちは……もう、ここで死んでもいいと思っている。アイツら——」

 パーンッ

 ティシリィはカウロの頬を平手打ちした。カウロはどう返して良いのか分からず、複雑な表情をしている。

「す、すまない……色々な意味で……つい、手が……だ、だけど、死んでもいいとか言うな」

「わ、悪かった……そ、そうだ、お前たちにウーラから託されていたものがある、これだ」

 それは小さな麻袋だった。中を開けると、不思議な光を放つ緑色の石が入っていた。

「これは、パウロ・アルジャンテという者が置いていったものらしい。どんな時であっても、一度だけ命を吹き返すことが出来るそうだ。この集落で、ずっと大切に保管されてきたものだ」

「そ、そんな大事なものを私たちに……?」

「ウーラは、この世界を変えることが出来るのは、お前たちだと言っていた。俺もそう思い始めている。……サウル神父に伝えてくれ。クロトワの民は俺が説き伏せる。そして、俺たちも共に歩みたいと」

 俺たちはカウロと強い握手を交わした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

[完結:1話 1分読書]幼馴染を勇者に寝取られた不遇職の躍進

無責任
ファンタジー
<毎日更新 1分読書> 愛する幼馴染を失った不遇職の少年の物語 ユキムラは神託により不遇職となってしまう。 愛するエリスは、聖女となり、勇者のもとに行く事に・・・。 引き裂かれた関係をもがき苦しむ少年、少女の物語である。 アルファポリス版は、各ページに人物紹介などはありません。 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』 この物語の世界は、15歳が成年となる世界観の為、現実の日本社会とは異なる部分もあります。

スライムすら倒せない底辺冒険者の俺、レベルアップしてハーレムを築く(予定)〜ユニークスキル[レベルアップ]を手に入れた俺は最弱魔法で無双する

カツラノエース
ファンタジー
ろくでもない人生を送っていた俺、海乃 哲也は、 23歳にして交通事故で死に、異世界転生をする。 急に異世界に飛ばされた俺、もちろん金は無い。何とか超初級クエストで金を集め武器を買ったが、俺に戦いの才能は無かったらしく、スライムすら倒せずに返り討ちにあってしまう。 完全に戦うということを諦めた俺は危険の無い薬草集めで、何とか金を稼ぎ、ひもじい思いをしながらも生き繋いでいた。 そんな日々を過ごしていると、突然ユニークスキル[レベルアップ]とやらを獲得する。 最初はこの胡散臭過ぎるユニークスキルを疑ったが、薬草集めでレベルが2に上がった俺は、好奇心に負け、ダメ元で再びスライムと戦う。 すると、前までは歯が立たなかったスライムをすんなり倒せてしまう。 どうやら本当にレベルアップしている模様。 「ちょっと待てよ?これなら最強になれるんじゃね?」 最弱魔法しか使う事の出来ない底辺冒険者である俺が、レベルアップで高みを目指す物語。 他サイトにも掲載しています。

エラーから始まる異世界生活

KeyBow
ファンタジー
45歳リーマンの志郎は本来異世界転移されないはずだったが、何が原因か高校生の異世界勇者召喚に巻き込まれる。 本来の人数より1名増の影響か転移処理でエラーが発生する。 高校生は正常?に転移されたようだが、志郎はエラー召喚されてしまった。 冤罪で多くの魔物うようよするような所に放逐がされ、死にそうになりながら一人の少女と出会う。 その後冒険者として生きて行かざるを得ず奴隷を買い成り上がっていく物語。 某刑事のように”あの女(王女)絶対いずれしょんべんぶっ掛けてやる”事を当面の目標の一つとして。 実は所有するギフトはかなりレアなぶっ飛びな内容で、召喚された中では最強だったはずである。 勇者として活躍するのかしないのか? 能力を鍛え、復讐と色々エラーがあり屈折してしまった心を、召還時のエラーで壊れた記憶を抱えてもがきながら奴隷の少女達に救われるて変わっていく第二の人生を歩む志郎の物語が始まる。 多分チーレムになったり残酷表現があります。苦手な方はお気をつけ下さい。 初めての作品にお付き合い下さい。

ギルドから追放された実は究極の治癒魔法使い。それに気付いたギルドが崩壊仕掛かってるが、もう知らん。僕は美少女エルフと旅することにしたから。

yonechanish
ファンタジー
僕は治癒魔法使い。 子供の頃、僕は奴隷として売られていた。 そんな僕をギルドマスターが拾ってくれた。 だから、僕は自分に誓ったんだ。 ギルドのメンバーのために、生きるんだって。 でも、僕は皆の役に立てなかったみたい。 「クビ」 その言葉で、僕はギルドから追放された。 一人。 その日からギルドの崩壊が始まった。 僕の治癒魔法は地味だから、皆、僕がどれだけ役に立ったか知らなかったみたい。 だけど、もう遅いよ。 僕は僕なりの旅を始めたから。

転移した場所が【ふしぎな果実】で溢れていた件

月風レイ
ファンタジー
 普通の高校2年生の竹中春人は突如、異世界転移を果たした。    そして、異世界転移をした先は、入ることが禁断とされている場所、神の園というところだった。  そんな慣習も知りもしない、春人は神の園を生活圏として、必死に生きていく。  そこでしか成らない『ふしぎな果実』を空腹のあまり口にしてしまう。  そして、それは世界では幻と言われている祝福の果実であった。  食料がない春人はそんなことは知らず、ふしぎな果実を米のように常食として喰らう。  不思議な果実の恩恵によって、規格外に強くなっていくハルトの、異世界冒険大ファンタジー。  大修正中!今週中に修正終え更新していきます!

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

復讐完遂者は吸収スキルを駆使して成り上がる 〜さあ、自分を裏切った初恋の相手へ復讐を始めよう〜

サイダーボウイ
ファンタジー
「気安く私の名前を呼ばないで! そうやってこれまでも私に付きまとって……ずっと鬱陶しかったのよ!」 孤児院出身のナードは、初恋の相手セシリアからそう吐き捨てられ、パーティーを追放されてしまう。 淡い恋心を粉々に打ち砕かれたナードは失意のどん底に。 だが、ナードには、病弱な妹ノエルの生活費を稼ぐために、冒険者を続けなければならないという理由があった。 1人決死の覚悟でダンジョンに挑むナード。 スライム相手に死にかけるも、その最中、ユニークスキル【アブソープション】が覚醒する。 それは、敵のLPを吸収できるという世界の掟すらも変えてしまうスキルだった。 それからナードは毎日ダンジョンへ入り、敵のLPを吸収し続けた。 増やしたLPを消費して、魔法やスキルを習得しつつ、ナードはどんどん強くなっていく。 一方その頃、セシリアのパーティーでは仲間割れが起こっていた。 冒険者ギルドでの評判も地に落ち、セシリアは徐々に追いつめられていくことに……。 これは、やがて勇者と呼ばれる青年が、チートスキルを駆使して最強へと成り上がり、自分を裏切った初恋の相手に復讐を果たすまでの物語である。

2度追放された転生元貴族 〜スキル《大喰らい》で美少女たちと幸せなスローライフを目指します〜

フユリカス
ファンタジー
「お前を追放する――」  貴族に転生したアルゼ・グラントは、実家のグラント家からも冒険者パーティーからも追放されてしまった。  それはアルゼの持つ《特殊スキル:大喰らい》というスキルが発動せず、無能という烙印を押されてしまったからだった。  しかし、実は《大喰らい》には『食べた魔物のスキルと経験値を獲得できる』という、とんでもない力を秘めていたのだった。  《大喰らい》からは《派生スキル:追い剥ぎ》も生まれ、スキルを奪う対象は魔物だけでなく人にまで広がり、アルゼは圧倒的な力をつけていく。  アルゼは奴隷商で出会った『メル』という少女と、スキルを駆使しながら最強へと成り上がっていくのだった。  スローライフという夢を目指して――。

処理中です...