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LV-27:王の秘密

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 勝利を収めた俺たちは、無事カタルリーアに帰り着いた。

 今更だが、強敵と戦った後の帰路は、モンスターの出現率が著しく低いことに気がついた。テレビゲームの世界であれば、ボスレベルのモンスターを倒すと、すぐに村へと瞬間移動してしまう場面だ。ここくらいは楽をさせてあげようという、運営側の配慮なのかもしれない。実際、バトル後の長距離移動は心底クタクタになった。


「じゃ、まずは教会だな。サーシャの蘇生と、あとは神父から根掘り葉掘り聞かないとな」

 教会に着き、まずはサーシャの蘇生をして貰った。もちろん、ティシリィの時と同様、蘇生費用は全員で分担した。

「イロエスの皆さん……アスドレクを倒すことが出来たのですね……正直驚いています。これもきっと、神のご加護のおかげでしょう」

「ハハハ! ヴァントスたちには無かったんだな、神のご加護が!」

「やめなさい、ティシリィ!」

「——それでは早速、私が今まで話せなかった事を順にお話して参りましょう。まずは、この島には3つの城がある事。それはあなたたちも既に存じているはずです。そして、その城にはそれぞれ、ガルーラ王家の3兄弟が住んでいました。バルナバ城には次男、エドアルド城には長男、そしてランベルト城には三男が」

 箇条書きにしてみると、こんな感じだ。

◆ ベテルデウスが現れる前の、3つの城の城主
・バルナバ城(今はベテルデウスが住んでいる城)……次男
・エドアルド城(アスドレクが居た城)……長男
・ランベルト城(王に謁見した城)……三男

「はい、大丈夫です。では……私たちが謁見した王様は、ガルーラ王家の三男という事ですね」

「いえ……今ランベルト城に住んでいるのは、長男のヘルド・ガルーラなのです」

「……ん!? どういう事だ……?」

「今から2年前の事です。魔王として覚醒したベテルデウスは、仲間のモンスターを引き連れこの島へやってきました。狙われたのは、バルナバ城とエドアルド城です。特に、海に背を向けていた長男ヘルド・ガルーラのエドアルド城は、海側からの熾烈な攻撃に晒されたと聞きます。海側までは結界の力が及ばなかったのかもしれません。
——にもかかわらず、先に落ちたのは次男のバルナバ城でした」

「ど、どうしてですか?」

「それは、ヘルド・ガルーラが手下に命じ、バルナバ城の結界を取り外したからです」

「お……弟を見殺しにっ!? なっ、なんのために!?」

「きっと、バルナバ城にモンスターの攻撃が集中すると踏んだのでしょう。そして次は自分の城である、エドアルド城の結界も外しました。そして最後に、逃走途中にあるビトルノの村の結界を外したのです。
——全ては、自分たちが逃走をするための、時間稼ぎをするために」

「ちょ、ちょっと待てくれ……それじゃ、アスドレクが言っていた事は本当じゃないか! 人が……人が結界を外したってのは、本当だったのか……!?」

「……くっ、くやしい……わっ、私たちはそんな王のために、今まで戦いを繰り返してきたのですかっ!?」

 ナイリは本当に悔しかったのだろう。目に涙を浮かべて言った。

「……神父様、エドアルド城からビトルノの村となると、その先はここ、カタルリーアだと思うのですが。……どうしてここは無事なのでしょうか?」

「インディさんの仰る通り、ヘルド・ガルーラの一団はビトルノの村を通過した後、カタルリーアに入りました。ここから船に乗ってヴァランナに渡り、ランベルト城へ入るためです。私たちはヘルド・ガルーラを歓迎し、船に乗せる準備を進めていました。風の噂では、最後まで城を守るために奮戦した勇敢な王、という話だったからです。
——そんなとき、一人の兵隊長がこっそりと私の元へ懺悔ざんげしに来たのです。きっと、罪の意識に耐えられなかったのでしょう」

「……そいつは、何て言ったんだ?」

「船を出す直前に、カタルリーアの結界を取り外す計画だと聞きました。……バルナバ城、エドアルド城、ビトルノの村の結界を外したことも、その兵隊長から聞いたのです」

 しばし、教会内が無言になった。ここまで酷い話だったとは誰も想像していなかったのだろう。

「それで……? ヘルド・ガルーラは結局、船に乗ったのか?」

「真実を知った私は、ヘルド・ガルーラの元へおもむき訴えました。この村の結界を外すことは許さないと。そして、強引に船を乗っ取るつもりなら、風魔法で船を沈めると。私はここの神父であると同時に、僧侶でもあるのです。話し合いの結果、結界は外さない代わりに、船を使うことを認めました。
——私は今でも、あの時の判断が正しかったのかどうか、分かりません」

「こんな事言っちゃうと怒られるかもしれないけど……その時、ヘルド・ガルーラを倒す事は出来なかったんですか?」

「ああ……サーシャさん、あなたも僧侶でしたね。——仮にもヘルド・ガルーラは、この国の王です。屈強な戦士や、名うての魔法使いなどをいつも側に付けていました。神父レベルの私では、相打ちにもならなかったでしょう。今思えば、殺されなかっただけ、幸運だったのかもしれません」

「……もしかして、ヴァランナやルッカの教会が無くなった理由にも繋がるのか?」

 ティシリィに聞かれた神父は、苦渋に満ちた表情になった。思い出すのも辛い話なのかもしれない。

「国民が混乱を招かないよう、まずは教会のネットワークを持つ者にだけこの真実を話しました。それを聞いた、ルッカやガッテラーレの神父たちは激怒しました。彼らはすぐに立ち上がり、一同に集まってランベルト城へ直訴しに行ったのです。
——しかし、そこで彼らは全員暗殺されてしまいました。その後、あるじの居なくなった教会はおのずから姿を消していったのです」

「——その時はもう、ランベルト城に三男は居なかったのでしょうか?」

「ええ……対外的には病死と発表されましたが、暗殺されたのだろうと私は思っています。この国の人々は、ヘルド・ガルーラの悪行を何一つ知らないのです」

 俺たちは再び静まりかえってしまった。本当に倒すべきは、ベテルデウスでは無く、ヘルド・ガルーラではないのかと……



「ところで……どうして神父様は、私たちがアスドレクを倒したタイミングでこの事を教えてくれたのでしょうか?」

「ああ、それは……アスドレクを倒したあなたたちなら、ベテルデウスも倒せるのでは無いかと……そして、ベテルデウスを倒した暁には、私も立ち上がろうと思っているのです。この国を変えるために……」

「そっ、それはお一人で……!?」

「いえ、わずかですが志を共にする者もおります。そして私は……この国の民に絶大な信頼を得ている方を擁立したいと考えております。どこかで生きていると言われている、パウロ・アルジャンテの子孫と共に……」

「パ、パウロ・アルジャンテに子孫がいるのか!?」

「はい。私は再び現れてくれると信じています。また、この島を救うために……」
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