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36_ビール
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秀美に会った日から6日後の事。
香奈から一通のメッセージが届いていた。緊急時に使うと言った、フリーメールアドレスからだ。
——————————
ちゃんとお金は受け取った? これで約束は守ったからね。私も何とか、希望額の半分くらいは受け取ったよ。秀美の方が上手だったのは、悔しくて仕方なかったけど・笑
私は地元に引っ越して、スナックでも始めるつもり。偶然会えることがあったら、その時は一緒に飲もうよ。
そうそう、私のスマホは解約してくれて大丈夫だから。
じゃあね、佑くん。
——————————
二度と関わり合いたく無いと思った香奈だが、偶然なら会っても良いのかもしれない。このメールを削除した後、香奈とやりとりをしていたアプリも削除した。
今日の土曜日も、居酒屋こだまは大盛況だ。
新しくバイトに入った、穂乃香は19歳の大学生。スラッとしたモデル体型が、こだまには少しアンバランスにうつる。
「大将! なんでこの店は、可愛い子ばっかり雇えるんだよ! とんでもない時給渡してるんじゃないだろうな!」
店内に笑い声が響いた。
「そうなんだよ、敏さん。近々、料理も値上がりすると思うからよろしくな」
「マ、マジかよ! それは勘弁してくれよ大将! ……本当なの? 響ちゃん?」
「うそうそ。大将、嘘付くときの顔してたじゃない」
そう言って響が笑うと、店内はまた笑いに包まれた。
「そうそう、聞いた!? 大島さんのお見舞いに500万円が包まれてたって! フルーツのカゴの奥に封筒が入ってたんだってよ。『また一緒に飲みましょう』ってメッセージと一緒に」
「500万円!? 誰がそんな包むんだよ? ま、まさか、大将……?」
「そんな金あるか! まあでも、この世の中も捨てたもんじゃ無いな……あるんだな、こんな事って。これで腎臓移植だっけ? 出来るんじゃ無いか、大島さんも……」
大将は少し涙ぐんでいた。
「いらっしゃいませ! お二人さんですか?」
来客に、穂乃香が対応した。
***
こだまの片付けを終え、自宅へと帰る。
隣には響もいる。あの日以来、響は時々僕の家に泊まりに来ている。
「良かったね、佑。ちゃんと大島さんの元に届いたみたいで」
「うん……少しは罪滅ぼしになったかな?」
「さあ……それはどうだろうね」
響は缶ビールと水が入ったボトルを、冷蔵庫から取り出した。
僕はこだまから持ち帰ってきた賄い料理を、テーブルに並べる。
「早く佑も20歳になりなよ。一緒に飲むビールは美味しいよ」
「ビールは好きじゃ無いからいいよ」
「フフッ、佑はまだ子供だもんね」
僕は意地悪な表情を浮かべ、響に抱きついた。「冗談、冗談」と響は笑う。
18歳になってすぐ、僕はこの街に越してきた。
やることなすこと全てが、僕にとっては新鮮な経験だった。
その経験の中には、良かったことも、後悔している事もある。
いや、後悔している事の方が多いと思う。
だけど、後悔しても時間は戻らない。その代わり、これからは誠実に生きていこうと思う。今までの分を、少しでも取り戻せるように。
大将と響、そして父に立派に生きているよと、胸を張れるように。
「もう、いい加減離して! ビールが温くなっちゃう!」
「……嫌だ」
「……分かった、もうちょっとだけね」
響は僕が泣いていることに気付いたようだ。
明日は天気予報通り、晴れるだろうか。
先週行けなかった動物園へ、僕たちは行く。
〈 18歳(♂)の美人局 了〉
最後までお読み頂き、誠にありがとうございました!
何かしら感じるものがありましたら、感想を頂けると嬉しいです!
宜しければ他の作品も見てくださると幸いです。
改めまして、最終話までお付き合い頂き、重ねてお礼申し上げます。
香奈から一通のメッセージが届いていた。緊急時に使うと言った、フリーメールアドレスからだ。
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ちゃんとお金は受け取った? これで約束は守ったからね。私も何とか、希望額の半分くらいは受け取ったよ。秀美の方が上手だったのは、悔しくて仕方なかったけど・笑
私は地元に引っ越して、スナックでも始めるつもり。偶然会えることがあったら、その時は一緒に飲もうよ。
そうそう、私のスマホは解約してくれて大丈夫だから。
じゃあね、佑くん。
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二度と関わり合いたく無いと思った香奈だが、偶然なら会っても良いのかもしれない。このメールを削除した後、香奈とやりとりをしていたアプリも削除した。
今日の土曜日も、居酒屋こだまは大盛況だ。
新しくバイトに入った、穂乃香は19歳の大学生。スラッとしたモデル体型が、こだまには少しアンバランスにうつる。
「大将! なんでこの店は、可愛い子ばっかり雇えるんだよ! とんでもない時給渡してるんじゃないだろうな!」
店内に笑い声が響いた。
「そうなんだよ、敏さん。近々、料理も値上がりすると思うからよろしくな」
「マ、マジかよ! それは勘弁してくれよ大将! ……本当なの? 響ちゃん?」
「うそうそ。大将、嘘付くときの顔してたじゃない」
そう言って響が笑うと、店内はまた笑いに包まれた。
「そうそう、聞いた!? 大島さんのお見舞いに500万円が包まれてたって! フルーツのカゴの奥に封筒が入ってたんだってよ。『また一緒に飲みましょう』ってメッセージと一緒に」
「500万円!? 誰がそんな包むんだよ? ま、まさか、大将……?」
「そんな金あるか! まあでも、この世の中も捨てたもんじゃ無いな……あるんだな、こんな事って。これで腎臓移植だっけ? 出来るんじゃ無いか、大島さんも……」
大将は少し涙ぐんでいた。
「いらっしゃいませ! お二人さんですか?」
来客に、穂乃香が対応した。
***
こだまの片付けを終え、自宅へと帰る。
隣には響もいる。あの日以来、響は時々僕の家に泊まりに来ている。
「良かったね、佑。ちゃんと大島さんの元に届いたみたいで」
「うん……少しは罪滅ぼしになったかな?」
「さあ……それはどうだろうね」
響は缶ビールと水が入ったボトルを、冷蔵庫から取り出した。
僕はこだまから持ち帰ってきた賄い料理を、テーブルに並べる。
「早く佑も20歳になりなよ。一緒に飲むビールは美味しいよ」
「ビールは好きじゃ無いからいいよ」
「フフッ、佑はまだ子供だもんね」
僕は意地悪な表情を浮かべ、響に抱きついた。「冗談、冗談」と響は笑う。
18歳になってすぐ、僕はこの街に越してきた。
やることなすこと全てが、僕にとっては新鮮な経験だった。
その経験の中には、良かったことも、後悔している事もある。
いや、後悔している事の方が多いと思う。
だけど、後悔しても時間は戻らない。その代わり、これからは誠実に生きていこうと思う。今までの分を、少しでも取り戻せるように。
大将と響、そして父に立派に生きているよと、胸を張れるように。
「もう、いい加減離して! ビールが温くなっちゃう!」
「……嫌だ」
「……分かった、もうちょっとだけね」
響は僕が泣いていることに気付いたようだ。
明日は天気予報通り、晴れるだろうか。
先週行けなかった動物園へ、僕たちは行く。
〈 18歳(♂)の美人局 了〉
最後までお読み頂き、誠にありがとうございました!
何かしら感じるものがありましたら、感想を頂けると嬉しいです!
宜しければ他の作品も見てくださると幸いです。
改めまして、最終話までお付き合い頂き、重ねてお礼申し上げます。
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