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34_朝
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「バッカじゃないの……? なんで……なんで、そんな事やろうと思ったのよ……」
「その頃の僕は、夢とかそんなものが全然無くて……面白い事も何一つ無く、このまま死んでいくのかなって……そんな事を思っていた時だったんです。誰にでも巡ってくる話じゃ無いし、余計に逃しちゃいけないような。そんな風に思っちゃって……」
響は苦々しい顔つきで、僕を見た。
「途中でやめようと思わなかったの? こだまに来てからも」
「思いました……何度も何度も。実際、香奈さんに言いました、計画を下りたいですって。でも、その時に響さんの名前を出されて……もう、逆らえる状況じゃ無かったんです。その時に、最後までやりきるしかない、って覚悟しました。……こんな事言える立場じゃ無いとは思うけど、いつも心苦しかったんです。大将や響さんに嘘を付いたり、隠し事をしてるって事が……」
響は黙ってしまった。
外から酔った客の声が聞こえてくる。そろそろ、こだまが閉店を迎える時間だ。
「そう言えば、大将から響さんと連絡取れないってメッセージが来てました。すみません……」
「それは連絡入れておいた。帰ったら怒られるだろうな、きっと。……で、その計画は全て終わったって事でいいの?」
「……はい。後は、香奈さんと秀利さんたちとのやりとりになると思います」
「そっか……」
響はボトルの冷水をグラスに入れ、半分ほど飲んだ。
二人は押し黙ったまま、時間だけが過ぎた。
「……明日、大将に言います。お店辞める事。今言った事も、正直に全部話します」
「……なんで、辞めるのよ」
「な、なんでって、僕、犯罪者ですから……その上、響さんにも大将にもずっと嘘を付いてきて。響さんだって嫌でしょ? 僕なんかと同じ場所で働くのなんて……」
「じゃ、なんで私はここに来てるのよ……」
響は表情も変えず、そう言った。
「レストのマスターに言われたの。『響ちゃんは佑くんの事が好きなんだよ』って。お店に連れてきた時から、そう思ってたって……好きじゃ無い人の事で、そんな怒ったり泣いたりしないって。……佑?」
僕はその場にうずくまり、嗚咽を漏らした。
嫌われて二度と会えないと思った響が、そんな事を言ってくれた。響への申し訳ない気持ちと、好きだという気持ちで胸が張り裂けそうになった。
響はその場を立つと、隣に来て僕を抱きしめてくれた。
響は柔らかく、そして、どこまでも温かかった。
***
「……コーヒーでも入れますか?」
「……うん、ありがとう」
昨日に続き、今朝もよく晴れていた。カーテンを開けた窓からは、明るい日差しが差し込んでいる。
僕は昨日、全てを打ち明けた。
犯罪を犯した事。そして、響が大好きだって事。
その日は二人とも、いつも通りこだまで働いた。
二人して目が腫れている僕たちを見て、大将は何かを感じ取ったようだ。だが、大将は何も聞かなかった。
そして、金曜日、土曜日と、忙しい居酒屋こだまでの日々は過ぎた。
「その頃の僕は、夢とかそんなものが全然無くて……面白い事も何一つ無く、このまま死んでいくのかなって……そんな事を思っていた時だったんです。誰にでも巡ってくる話じゃ無いし、余計に逃しちゃいけないような。そんな風に思っちゃって……」
響は苦々しい顔つきで、僕を見た。
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「思いました……何度も何度も。実際、香奈さんに言いました、計画を下りたいですって。でも、その時に響さんの名前を出されて……もう、逆らえる状況じゃ無かったんです。その時に、最後までやりきるしかない、って覚悟しました。……こんな事言える立場じゃ無いとは思うけど、いつも心苦しかったんです。大将や響さんに嘘を付いたり、隠し事をしてるって事が……」
響は黙ってしまった。
外から酔った客の声が聞こえてくる。そろそろ、こだまが閉店を迎える時間だ。
「そう言えば、大将から響さんと連絡取れないってメッセージが来てました。すみません……」
「それは連絡入れておいた。帰ったら怒られるだろうな、きっと。……で、その計画は全て終わったって事でいいの?」
「……はい。後は、香奈さんと秀利さんたちとのやりとりになると思います」
「そっか……」
響はボトルの冷水をグラスに入れ、半分ほど飲んだ。
二人は押し黙ったまま、時間だけが過ぎた。
「……明日、大将に言います。お店辞める事。今言った事も、正直に全部話します」
「……なんで、辞めるのよ」
「な、なんでって、僕、犯罪者ですから……その上、響さんにも大将にもずっと嘘を付いてきて。響さんだって嫌でしょ? 僕なんかと同じ場所で働くのなんて……」
「じゃ、なんで私はここに来てるのよ……」
響は表情も変えず、そう言った。
「レストのマスターに言われたの。『響ちゃんは佑くんの事が好きなんだよ』って。お店に連れてきた時から、そう思ってたって……好きじゃ無い人の事で、そんな怒ったり泣いたりしないって。……佑?」
僕はその場にうずくまり、嗚咽を漏らした。
嫌われて二度と会えないと思った響が、そんな事を言ってくれた。響への申し訳ない気持ちと、好きだという気持ちで胸が張り裂けそうになった。
響はその場を立つと、隣に来て僕を抱きしめてくれた。
響は柔らかく、そして、どこまでも温かかった。
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「……コーヒーでも入れますか?」
「……うん、ありがとう」
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