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第9話:弟子としての覚悟、世界の秘密を知る

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老人との修行の日々が続く中、俺は徐々に自分の力をコントロールできるようになってきた。剣に魔力を込めても、今はもう暴走することなく、穏やかな力を放つことができる。それは確かな成長の証だ。しかし、修行の終わりが近づくにつれ、老人の言動が少しずつ変わり始めたことに俺は気づいていた。

「師匠、何か考え込んでいるようだが…。」

湖の畔で瞑想をしていた俺は、黙っていた老人に問いかけた。いつもなら的確な指導やアドバイスをくれるはずが、最近は妙に沈黙を守ることが増えていた。

「ふむ、太一よ…お主に話しておかねばならんことがある。」

老人は静かに瞼を開け、湖面に映る星々を見つめている。その声には、どこか重々しい響きがあった。

「話しておかねばならんこと…?」

俺は緊張感を覚えた。師匠の口から発せられる言葉が、ただの世間話ではないことをすぐに感じ取ったからだ。

「お主が今、持っているその力…それはこの世界の魔法とは異質なものじゃ。だが、それだけではない。お主の存在そのものが、この世界にとって大きな意味を持っているのじゃ。」

「俺の存在…?」

俺は驚いた。単に異世界から転生してきた会社員の俺が、なぜこの世界でそんな重要な存在だというのだろうか。力を持ってしまったことは分かるが、それがこの世界全体に関わる話になるとは思いもしなかった。

「お主が持つ魔法の力は、古の預言に記された“選ばれし者”の証…。」

老人の言葉に、俺はますます混乱した。“選ばれし者”とは一体どういうことだろう?

「この世界には、太古の昔から続く“光と闇”の均衡がある。闇が膨れ上がる時、必ずその均衡を正すために“選ばれし者”が現れるというのが古の預言じゃ。お主の力こそ、その証なのじゃ。」

「じゃあ、俺は…この世界を救うために呼ばれたってことか?」

信じがたい話だったが、老人の口調からは一切の冗談が感じられなかった。俺が異世界から転生してきたのも、単なる偶然ではなく、この世界の運命の一部だったのかもしれない。

「そうじゃ。この世界では今、闇が徐々に力を増しつつある。いずれその闇が膨れ上がり、世界に混乱をもたらす。だが、その時に光をもたらすのが、選ばれし者…つまり、お主の役目なのじゃ。」

老人の言葉に、俺は無言で考え込んだ。俺はただのんびりとしたスローライフを望んでいただけだ。それが、世界を救うための“選ばれし者”にされるなんて想像もしていなかった。だが、ここまでの出来事を振り返ると、確かに自分の力は異常だ。この力を正しく使わなければ、世界を混乱に巻き込むことになるだろう。

「…俺に、できるだろうか?」

不安な気持ちが頭をよぎる。だが、老人は静かに頷いた。

「お主ならできる。わしが保証する。だが、お主にはさらなる覚悟が必要じゃ。これから待ち受ける困難は、今までとは比べものにならぬ。」

「覚悟…。」

俺は自分の手を見つめた。ここまで修行を続けてきたことで、力は確かに成長した。だが、まだ自分の中には不安が残っている。しかし、この世界の運命が俺にかかっているならば、逃げるわけにはいかない。

「わかった。俺にできることがあるなら、やってみるよ。世界を守るために。」

その言葉を聞いて、老人は静かに微笑んだ。

「それでこそ、わしの弟子じゃ。さあ、これからは実戦を通して、お主の力を試すのじゃ。」

その日から、俺の修行は次の段階に進んだ。老人の指導の下、より高度な魔法の使い方や、実際の戦闘での応用を学ぶことになった。これまでのような座学や瞑想だけではなく、実際にモンスターを相手にしながら力を磨いていく日々が始まったのだ。

ある日、山中での訓練中に突然、闇の気配を感じた。

「これは…!」

老人も同じように気配を察知し、険しい表情を浮かべる。

「どうやら、闇が動き始めたようじゃな…。」

俺は剣を構え、気配のする方向に向かって走り出した。これまでの訓練が実戦で試される瞬間だ。力をコントロールするだけでなく、実際にこの世界を守るために戦う覚悟が試されることになる。

谷を越え、洞窟の中に入ると、そこには闇の魔物がうごめいていた。巨大な黒い影がこちらに向かって咆哮をあげ、襲いかかってくる。

「来るぞ、太一! その力を解放せよ!」

老人の声が響く中、俺は剣に全力で魔力を込めた。これまでの訓練で得た技術を全て注ぎ込む。剣が眩い光を放ち、俺はそのまま魔物に向かって突進した。

「うおおおおおっ!」

一閃――光の刃が魔物を切り裂き、その闇を完全に打ち払った。勝利の手応えを感じつつも、これがまだ始まりに過ぎないことを直感した。

「やったか…?」

魔物が消え去った後、俺は息を整えながら立ち尽くした。だが、老人は静かに言った。

「これで終わりではない…闇はこれからさらに強まるじゃろう。お主の旅は、まだ始まったばかりじゃ。」

こうして、俺は自分の力を試し、さらに困難な道へと進んでいく覚悟を決めた。世界を救うために選ばれた者として、これからの戦いに挑む日々が始まった――。
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