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第4話: 「魔法少女の武器、オッサンの筋力!?」

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異世界に転生して、見た目は魔法少女、でも中身は45歳独身のオッサン。俺、田中和也だ。前回、ビール魔法に癒しの効果があることが判明し、少し自信がついてきた。だが、魔王討伐を目指す「魔法少女リリィ」としては、まだまだ力不足。俺にはビールやつまみを召喚する魔法しかない。どう考えても、戦闘に役立ちそうな魔法は出せていない。

そんな状況の中、俺に訪れる次の試練は… 「筋力」 だった。

その日、村の近くに新たな危機が迫っていた。前回のオーガが串焼きにつられて撤退したとはいえ、村人たちはまだ不安を抱えている。俺が村の救世主として、もう一度強い魔法を見せなければ、村の平和は守れないだろう。

「リリィ様、お願いです! 今度はもっと強力な魔法で私たちを守ってください!」

村長からの切実な願いに、俺は再びプレッシャーを感じていた。俺には魔王討伐の使命があるということは理解しているが、どうにもこうにも、派手な戦闘魔法が出せない。

「わかった。次こそ、ビールやつまみ以外の魔法をなんとかしてみるよ」

俺はそう言って自分を奮い立たせ、村の外れに向かった。

しばらく歩くと、再び大きな気配が近づいてきた。前回と同じように、今度もオーガが村を襲いに来るという情報だ。俺は何度も手をかざして魔法を試みたが、召喚できたのはビール缶や枝豆など、相変わらずつまみ関係ばかり。

「やばい、今度は串焼きも効かないかもしれない…」

そう焦っているうちに、巨大なオーガが姿を現した。だが、今回は少し様子が違う。前回のオーガよりもさらに大きく、見るからに凶暴そうなオーガが村に迫っている。

「やばい、これはマジでピンチだ…!」

俺は必死に魔法を試みるが、出てくるのはビールやつまみばかり。オーガが目の前まで迫る中、絶望的な気分に包まれたその時だった。

「ドゴォン!!!」

突然、地面が揺れるほどの大きな音がした。何かがオーガに向かって飛び込んでいったのだ。俺は呆然とその光景を見つめた。なんと、俺が召喚したビールの缶が勢いよくオーガにぶつかり、オーガが後ずさっていたのだ。

「ビールの缶が…あんなに強いのか…?」

だが、それ以上に驚いたのは俺の腕だった。ビール缶を放り投げたはずの俺の腕が、今まで以上に力強くなっていた。まるで俺の筋肉が突然強化されたかのように、力がみなぎっているのだ。

「もしかして…これ、オッサンの筋力?」

驚きながらも、俺はもう一度ビールの缶を握り締め、全力でオーガに向かって投げつけた。すると、ビール缶はまるでロケット弾のようなスピードでオーガに直撃し、オーガは吹き飛ばされてしまった。

「すごい…オッサンの筋力が、ここで役立つなんて…!」

どうやら、異世界に転生した俺の体には、見た目こそ華奢な魔法少女リリィの姿だが、中身はしっかりと「オッサンの筋力」が受け継がれているらしい。ビールやつまみを召喚するだけではなく、その筋力を活かして物理的な攻撃をすることができるようになったのだ。

俺はさらに調子に乗って、地面に落ちていた大きな岩を持ち上げてみた。普通の女の子なら絶対に持ち上げられないような岩だが、俺は軽々と持ち上げることができた。

「…これ、使えるかも」

俺はその岩をオーガに向かって投げつけた。すると、見事にオーガに直撃し、オーガは地面に倒れ込んだ。周囲の村人たちは驚愕し、俺を見つめていた。

「リリィ様、すごいです! こんな力を持っていたなんて!」

「いや、これ…魔法というか、筋力なんだが…」

俺は少し困惑しながらも、オーガを倒したことにホッとした。どうやら、俺のオッサン的な肉体がこの世界では異常な力を発揮するらしい。ビールの魔法と筋力、これで村を守ることができるかもしれない。

その後、村に戻ると、村人たちは大喜びで俺を迎えてくれた。

「リリィ様、本当にありがとうございました! オーガを倒してくださって…!」

俺は少し照れくさくなりながらも、オッサンらしい反応で肩をすくめた。

「いやいや、大したことないよ。ただ、少し筋トレをしていたもんでね…」

「筋トレ…? それもリリィ様の魔法の一つなんですか?」

「…いや、違う。ただの筋力だ」

村人たちはよくわかっていない様子だったが、とりあえず俺が村を救ったという事実には変わりない。これで少しはこの世界でやっていけるかもしれない…そんな希望が見えてきた瞬間だった。

だが、この後に待ち受けているさらなる試練を、俺はまだ知る由もなかった。
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