魔法少女に転生したけど、俺はオジサンです

第2話: 「魔法少女の使命!? でも俺はオッサンだぞ」

俺、田中和也。45歳、独身のオッサンだ。なのに今は、異世界で「魔法少女リリィ」として生きる羽目になっている。いや、生きているというか、必死にサバイバル中だ。昨日のビール召喚の一撃で狼を倒したものの、どうやって魔法をコントロールすればいいか、さっぱりわからない。

俺は魔法少女リリィになってしまった。見た目は間違いなく可愛い金髪少女だが、中身は40代の枯れたオッサン。しかも、どうやら俺にはこの世界を救うという、ものすごく重たい使命が課されているらしい。

翌朝、俺は目を覚ました。いや、現実世界なら「二日酔いか？」というほどの頭の重さだが、この世界では飲んだのは魔法のビールだから、酒酔いはない。草原にポツンと一人、可愛らしい魔法少女の姿で目覚めるというのは、なかなかにシュールなものだ。

「ったく、なんで俺がこんなことに…」

愚痴をこぼしつつも、とりあえずこの世界で生きていくためには何かしらの行動を起こさなければならない。リリィの姿で野宿しているわけにもいかないし、まずは何か食べ物でも探すか、と重い腰を上げた。

歩き始めてしばらくすると、遠くに村が見えてきた。ああ、助かった。とりあえず、人のいるところに行けば、何か情報が手に入るだろう。少なくとも異世界初心者としては、まずは現地の人と接触するのが基本だ。

村に近づくと、入り口で一人の少女が俺を見つけ、興奮気味に駆け寄ってきた。

「リリィ様！ 魔法少女リリィ様ですよね！」

「えっ…」

いきなりリリィと呼ばれ、俺は戸惑った。この世界では「リリィ」という名前が広まっているのか？ そういえば、頭の中にあの時流れ込んできた情報によると、俺は「魔法少女リリィ」として、この世界の救世主的な存在に選ばれたらしい。

「リリィ様が来てくれるなんて！ 村のみんなが待っていました！」

その少女は、信じられないくらいの速さで村の中へと駆け込み、叫び声を上げた。

「リリィ様がいらっしゃいました！ 皆さん、リリィ様が！」

その声に呼応して、村中の人々が次々と家から飛び出してくる。俺は何が何だかわからないまま、人々に囲まれた。若い娘からお爺さん、お婆さんまで、村人たちは口々に俺の名前を叫び、感謝の言葉を述べてくる。

「リリィ様、本当に来てくださってありがとうございます！ どうか、私たちを助けてください！」

「えっ…いや、あの、俺…いや、私は…」

慌てて言葉を探そうとするが、村人たちの熱気に圧倒され、何も言えない。どうやら、俺はこの村に救世主として期待されているらしい。

「どうか、魔王の手下を倒して、村を救ってください！」

「魔王の手下…？」

その言葉に俺は耳を疑った。どうやら、この村は魔王の手下によって脅かされているらしい。俺は昨日、ビールで狼を吹き飛ばしたが、それ以上の魔法なんてまだ使えない。それに、中身はオッサンだぞ？ こんな俺に、どうやって村を救えというんだ？

「待て待て待て！ ちょっと、話を整理させてくれ！」

俺は慌てて手を振って、村人たちを静かにさせた。深呼吸して、冷静に状況を確認しよう。

「…まず、魔王の手下ってのは何だ？ そいつらが村に何をしてるんだ？」

すると、村の長老らしき老人がゆっくりと説明を始めた。どうやら、魔王の手下である「オーガ」という怪物が、この村に定期的に襲いかかってくるらしい。食料を奪い、家畜を攫い、村人を脅かしているというのだ。

「そして、リリィ様がいらっしゃった今こそ、私たちを救うチャンスです！」

村人たちはそう言って、俺に期待の目を向けてくる。だが、俺には全く自信がなかった。昨日のビール魔法が偶然うまくいっただけで、魔王の手下を倒せる保証なんてない。

「いや…俺、いや、私はそんな大した魔法使えないんだけど…」

「そんなことはありません！ リリィ様は、この世界で唯一、魔王を倒せる力を持つと言われているんです！」

どうやら、村人たちは本気で俺を救世主と信じているようだ。俺はこの状況からどう逃げ出すか、必死に頭を働かせた。

「ま、まぁ…とりあえず、オーガの話をもっと詳しく聞かせてくれ。どんな奴なのか、どうやって襲ってくるのか…」

なんとか話を先延ばしにしようとするが、村人たちはすぐにでも俺が戦ってくれると思っている。期待の目が痛い。

その日の夕方、俺は村の外れで村人たちと待機していた。どうやら、オーガは毎日同じ時間に襲ってくるらしい。俺は緊張しながらも、どうやってビール召喚以外の魔法を使えるか、必死に思案していた。

「ビールは昨日で一回出したし、今日は…なんだ？ つまみとか？」

俺の頭の中は完全に「オッサン的」な思考回路でしか働かない。だが、そんな冗談を言っている場合ではない。遠くから重い足音が聞こえてきた。ついにオーガが現れたのだ。

「うわ、デカい…」

目の前に現れたのは、5メートルはありそうな巨大な怪物。全身が筋肉で覆われており、鋭い牙をむき出しにしてこちらを睨んでいる。俺は冷や汗をかきながら、後ずさりした。

「これは…無理だろ…」

どう考えても、普通のオッサンが対処できる相手ではない。だが、村人たちの期待に背を向けるわけにもいかない。俺は震える手をかざし、ビール魔法に頼ることにした。

「頼む…なんでもいいから、出ろ！」

すると、俺の手元に現れたのは…串焼きだった。ビールではなく、つまみの串焼き。しかも、香ばしい匂いが漂ってくる。

「マジかよ…」

そんなことを言っている暇もなく、オーガが突進してきた。俺はとっさに串焼きを投げつけた。すると、オーガはその匂いに気を取られ、急停止。串焼きをパクッと食べ始めたのだ。

「え…？」

オーガは美味しそうに串焼きを食べ、満足げな顔をして去って行った。

「…なんだこれ？」

俺は呆然とその場に立ち尽くした。どうやら俺の「オッサン魔法」は、敵の戦意を削ぐことができるらしい。

「リリィ様！ ありがとうございます！」

村人たちは大喜びし、俺は英雄として祭り上げられた。しかし、俺にはまだ理解できないことだらけだ。オッサンの特

有の魔法で、この先本当に世界を救えるのか？

俺の異世界生活は、ますます奇妙な方向へ進み始めていた。