【完結】眼鏡ごしの空

一茅苑呼

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【第二章】

友達でいるから④

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「───でも、オレはそれじゃいけないと思った。このままじゃ、いけないんじゃないかって。
香緒里は香緒里で、自分を《守る》方法を、考えたほうがいいんじゃないかって、そう、思えた」

さっきより遅い歩調で、タロちゃんの足は、保健室へ向かう。

「だから小学校を卒業して、中学に入った時、いい機会だと思った。
……香緒里のこと、遠くから見てようって」

そう言ってタロちゃんは、小さく笑った。自嘲じちょうぎみに。

「けど、今日のお前を見てて思ったんだ。オレ、間違ってたのかなって。
香緒里が自分からオレの手を離さないうちに、オレから手ぇ離しちゃいけなかったのかな、ってさ」

「タロちゃん……」

淡々と告げるタロちゃんに対して、なにも言えなかった。

そんな風に、私のことを考えてくれていたなんて、思いもしなかった。

「香緒里が自分を変えて、みんなに溶け込むことない。
香緒里が自然に変わっていく以外は、無理しなくていいんだ。
そうしていくうちに、きっと、香緒里を分かってくれる奴が出てくるって、オレはそう思う」

だからさ、と言って、タロちゃんはピタッと足を止めた。

私を、振り返る。

「それまでは、オレが友達でいるから。
オレだけは、どんなことがあっても、友達でいるから。
だから、頑張れ」

ニッと強気に笑ってこちらを見るタロちゃんに、大きくうなずいてみせた。

それを見届けて、タロちゃんは満足げに、よし、と言って歩きだした……。


       §


───友達でいるから。

そのひとことで、もう、なにもいらないと思った。

彼さえいれば、なにもらないと、そう、思った。

いつもなにかにおびえ、人の顔色を窺うように小さく呼吸していた私にとって、その言葉がなによりの支えだったのだ。

そんな私が学校のなかで落ち着ける場所といったら、一人きりの教室か、個室であるトイレのなかだけだった。

あの体育の一件以来、体育の授業に出るのを、極端に恐れていた。

また、同じことをされるんじゃないかと思うと、恐かった。

だから、体育のある日は、とても憂うつだった。

朝はいつまでも布団のなかにいて、母が呼びに来ると決まって仮病を使い、学校を休んでいた。

けれども、そんなことが何度も通用するわけもなく。
さすがに三度目には、学校に行こうとしない理由を尋ねられた。

結局その日は、

「今日だけよ?」

と、念を押されて、学校に連絡してもらい休んだものの、理由については、ひとことも母には告げなかった。

正解には、言えなかったのだ。

私は以前にあった、菓子類の飲食を担任に『告げ口』したと、クラスメイトに思われた時のことを思いだしていた。

自分にそういうつもりがなくとも相手の受け取り方によって、それが善意も悪意に変わるものだということを、嫌というほど思い知らされていたから……。


       §


「香緒里、早くなさい!
……タロちゃんが、迎えに来てるわよ」
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