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❖そして、現在(いま)

月の下をふたりで歩く【三】

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(あたしって、どうしてこうなんだろう……)

昔から、ちっとも変わらない。
赤い“神獣”の“花嫁”となり、“神籍”に入ったことによって、外見は二十三年前のままだ。
心の成長も、止まっているのだろうか?

「……迷惑かけて、ごめん」

二十二年ぶりにもなる、長い年月の間を空けることになった、山歩きの理由わけ

自らが犯した過ちの代償。
それに付き合ってくれた、赤い神の獣とその配下である“眷属”たち。

「もう、終わったことよ。
だからアタシたち、ハクと咲耶の屋敷に歩いて行ける・・・・・・んでしょう?」

穏やかな声音が耳に落ちてくる。
月の光が差し込んできて、優しいのに目に染みるようで、美穂は思わず男の胸に顔を伏せた。

「……うん」

身体に伝わる振動は心地よく、この歩幅なら、すぐにでも咲耶たちの屋敷に着きそうだ。
美穂は、いまのうちに言っておかなければならないと、口を開く。

「……屋敷に着いたら、下ろしていいから」
「はいはい」
「お前、咲耶に余計なこと話すなよ?」
「分かってるわ」
「それから」

そこで美穂は顔を上げ、自らの伴侶を見つめた。あでやかな美貌の、赤い“神獣”の“化身”を。

「ありがとう、あかね

小さな声で告げた真名に、呼ばれた当人が目をみはる。
ぴたりと、その足が止まった。

「……あら。しとねの上以外で初めて聞いたわ。……新鮮な響き」

ささやきが艶めいて、美穂の唇に吐息まじりに落とされた。
触れた体温に応じながら、その合間に届いた言葉を、かろうじて耳が拾う。

「どういたしまして、美穂」

───ふたりの到着を待ちきれずに、招待されていた宴が始まったのは、その頃。





       ─── 終 ───


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