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参 サダメられし出逢い
桃の香りのくちづけ【中】
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(なんだ、このこっ恥ずかしい状況!)
美穂の体温は一気に上昇したが、元凶であるセキコは涼しい顔で桃を切り分け、皮をむいていく。
「それじゃ、問題。
アタシという赤い“神獣”が司る力はなんでしょう?」
「……生とカイタイ?」
「正解。はい、ご褒美よ」
セキコとのうろ覚えな『授業内容』を思いだし、美穂が答えると、ふたたび桃が口の前に運ばれた。
美穂は熱くなった頬のまま、エサに食らい付く魚のように、ぱくんと桃を捕らえる。
「まぁ、人間側から見た“役割”だから、懐胎なんて言い方をするんだけどね。
実際は、生きとし生けるすべての動植物に、生きる力と新しい生命を授けるというのが、大正解なのよ」
はい、と。
セキコから食べさせられることにもやや抵抗がなくなってきた美穂は、口のなかの桃を味わったあと、先程のセキコの話を継いだ。
「コクのじいさんに頼まれたって言ってたけど、こっちの世界に桃ってなかったの?」
「……あら、めずらしくいい質問ね。いまのアタシの話を、ちゃんと聞いてた証拠だわ。
はい、ご褒美」
めずらしくは余計だと思いながらも、美穂はセキコに褒められたことにこそばゆさを感じつつ、桃を咀嚼する。
「『桃』自体はあったの。
だけど、甘味はそんなに無くて、香りもこれほど豊かではなかったわ」
「……へぇ。あの人、見かけによらずグルメ?」
「まさか! 量を食べられれば満足な、味音痴なジジイよ。
じゃなくて、じい様が百合さんのご要望を叶えるために、アタシに相談してきたってワケ」
百合さんというのは、じい様ことコクコ・闘十郎の“花嫁”の名だ。
美穂はまだ会ったことはないが、セキコいわく「すっごい美人だけど無愛想なヒト」らしい。
(あたしはこいつの話、たいてい流しぎみで聞いてんのに)
セキコのほうは、美穂の話をきちんと聞いてくれているようだ。
一度、食生活の話題で美穂が『グルメ』という単語を使った際、聞き返され説明したことがあったのだ。
(なんか、ちょっと……嬉しい、カモ)
思わず口もとがゆるむ。
すると、セキコが興味深そうに美穂の顔をのぞきこんできた。
「……あら、ナニその可愛いニヤけ面」
「なっ……。お前があたしのオカ…、母親みたいだなって思っただけだよ!
口うるさいけど、種とか皮とかめんどくさい桃むいてくれるし!」
自分の内面を見透かされたような気がして、美穂はあわてて言い繕う。
ふうん、と、セキコがそんな美穂を面白くなさそうに見返した。
「ってか、あたしにばっか食べさせて、お前は桃、食べないのかよ?」
「……食べるわよ」
言った唇が、美穂の唇の端に触れ、次いで舌先がかすめとるように触れた。
「……っっ!!」
「ご馳走さま。
言っておくけど、アンタの母親になる気は、これっぽっちもないから」
父親にもね、と付け加えながら、セキコは今度は本当に自分でむいた桃を口に入れる。
(こ、こいつ、いまあたしにキスしやがった!)
なんの前触れもなく、もののついでのように押し当てられた唇。
美穂は、怒りと恥ずかしさがない交ぜになり、思いきりセキコをにらむ。
「お前、いきなりナニしてんだよ?」
「あら、嫌だったの?」
「は? イヤとかそういう問題じゃなくて───」
美穂の体温は一気に上昇したが、元凶であるセキコは涼しい顔で桃を切り分け、皮をむいていく。
「それじゃ、問題。
アタシという赤い“神獣”が司る力はなんでしょう?」
「……生とカイタイ?」
「正解。はい、ご褒美よ」
セキコとのうろ覚えな『授業内容』を思いだし、美穂が答えると、ふたたび桃が口の前に運ばれた。
美穂は熱くなった頬のまま、エサに食らい付く魚のように、ぱくんと桃を捕らえる。
「まぁ、人間側から見た“役割”だから、懐胎なんて言い方をするんだけどね。
実際は、生きとし生けるすべての動植物に、生きる力と新しい生命を授けるというのが、大正解なのよ」
はい、と。
セキコから食べさせられることにもやや抵抗がなくなってきた美穂は、口のなかの桃を味わったあと、先程のセキコの話を継いだ。
「コクのじいさんに頼まれたって言ってたけど、こっちの世界に桃ってなかったの?」
「……あら、めずらしくいい質問ね。いまのアタシの話を、ちゃんと聞いてた証拠だわ。
はい、ご褒美」
めずらしくは余計だと思いながらも、美穂はセキコに褒められたことにこそばゆさを感じつつ、桃を咀嚼する。
「『桃』自体はあったの。
だけど、甘味はそんなに無くて、香りもこれほど豊かではなかったわ」
「……へぇ。あの人、見かけによらずグルメ?」
「まさか! 量を食べられれば満足な、味音痴なジジイよ。
じゃなくて、じい様が百合さんのご要望を叶えるために、アタシに相談してきたってワケ」
百合さんというのは、じい様ことコクコ・闘十郎の“花嫁”の名だ。
美穂はまだ会ったことはないが、セキコいわく「すっごい美人だけど無愛想なヒト」らしい。
(あたしはこいつの話、たいてい流しぎみで聞いてんのに)
セキコのほうは、美穂の話をきちんと聞いてくれているようだ。
一度、食生活の話題で美穂が『グルメ』という単語を使った際、聞き返され説明したことがあったのだ。
(なんか、ちょっと……嬉しい、カモ)
思わず口もとがゆるむ。
すると、セキコが興味深そうに美穂の顔をのぞきこんできた。
「……あら、ナニその可愛いニヤけ面」
「なっ……。お前があたしのオカ…、母親みたいだなって思っただけだよ!
口うるさいけど、種とか皮とかめんどくさい桃むいてくれるし!」
自分の内面を見透かされたような気がして、美穂はあわてて言い繕う。
ふうん、と、セキコがそんな美穂を面白くなさそうに見返した。
「ってか、あたしにばっか食べさせて、お前は桃、食べないのかよ?」
「……食べるわよ」
言った唇が、美穂の唇の端に触れ、次いで舌先がかすめとるように触れた。
「……っっ!!」
「ご馳走さま。
言っておくけど、アンタの母親になる気は、これっぽっちもないから」
父親にもね、と付け加えながら、セキコは今度は本当に自分でむいた桃を口に入れる。
(こ、こいつ、いまあたしにキスしやがった!)
なんの前触れもなく、もののついでのように押し当てられた唇。
美穂は、怒りと恥ずかしさがない交ぜになり、思いきりセキコをにらむ。
「お前、いきなりナニしてんだよ?」
「あら、嫌だったの?」
「は? イヤとかそういう問題じゃなくて───」
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