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断章/蒼篇
ささやかな復讐【1】
しおりを挟む心をおれに開いてはくれない、綺麗な『お人形』。
だけど、身体だけは、ひらかれて。
見交わす瞳の奥にあるもの───想い。
重なるように感じたのは、初めてだった。
恋や愛とは、違う『何か』。
「あなたになら、分かるでしょう?」
眼差しから告げられる、気持ちが、響く。
溶け合いながら交わり、離れてゆく、その繰り返し。
「私たちは、同じなの」
構成されている、組織。造り。成分。
───体が、ではなく。
『抱える想い』が。
彼女───神田瑤子は、おれにとって、そういう存在だった。
だからこそ、続けられた、二人の関係。
そして───終わりが訪れたのは、彼女が変わってしまったからではなく。
取り戻してしまっただけなんだ、本来流れるはずの『時間』を。
けれども、おれは。
未だ、ここにいる───あなたを、なくしたままで。
歩きだせずに……───。
☆
「んっ……あ、もう……ダメっ……」
「───嘘?
……あなたのほうが、放してくれないのに……?」
「だ、って……あっ、あ、い……っ……───」
「未・成・年!」
深紅色に飾られた指先が、おれからタバコを取り上げる。
「イライラしてるのね?
───でも、蒼から略奪しちゃうくらいだから……その子、相当うまいのかしら。
もしそうなら、お姉さんが、援交してあげるのにな」
くすくすと笑い、吸いかけのタバコをくわえる雛子に、肩をすくめてみせる。
「なんなら、紹介するけど?」
「……やぁね。ホント、冷たいんだから。冗談に決まってるでしょ!」
おれの言葉に唇をとがらせ、ぎゅっと灰皿にタバコを押しつける。
しなやかに寄り添われた腕が、おれの身体に絡みついた。
……ささやかれる淫靡さを、表すかのように。
「指も舌も……こっちも、今まで付き合ってきたオトコのなかじゃ蒼が一番イイわよ。
……ねぇ、もう一回、しようよ」
素肌の内股をなぞる雛子の指先を見やりながら、小さく笑った。
「いいの? あの人が来るんでしょ。
おれ、帰るよ。顔合わせたくないし」
「バレちゃってもいいんだけどねあたしは。
でも、そしたら蒼、来なくなるわよね?」
「なにそれ。
バレたら来るなっていうなら解るけど、来なくなるって……おれ次第ってことなわけ?」
雛子の意味ありげな物言いに気づかないふりで、卑猥に動く手をつかむ。
「バレないから来てくれてるんだってこと、分かってるのよ。
───それが、蒼のささやかな復讐なんだってこともね」
「雛子さん、物騒なこと言うね。
おれは単に、ひとりでするよりいいかって思ってるだけだよ。
それこそ、彼女にふられたし」
雛子は、ちょっと笑った。
とってつけたようなおれの言葉に、含みをもたせて応える。
「そういうことにしといてあげる。お互い様ってことにね。
……だから、しよ?」
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