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断章/葵篇
『好き』のカタチ【1】
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「なんで……なんで、私なんか、かばったの?」
「楓が背負うリスクと僕が背負うリスクを天秤にかけたら、こうなっただけだよ」
「バカみたい。バカだよ、葵は……」
感情に流される自分は嫌い。
感情をさらけだす自分も嫌い。
だけど涙は止まらないし、言葉も抑えられない。
子供みたいに泣きながら、しゃくりあげる私に、葵がぽつんと言った。
「楓、僕のこと好きなんだよね。ごめんね、心配かけて」
「なっ……なんで知ってるのよっ」
カアッと、頭に血がのぼる私の前で、葵はふわりと笑った。
「人の気持ちが読めるから、僕」
やわらかな微笑み。女の子みたいな。
自分の気持ちが筒抜けで、どうしていいのか、分からない。
悔し紛れに開き直って、キッ……と、葵を見返す。
「そうよ、好きよ。好きで悪い?」
「悪くないよ。僕も楓、好きだし」
きょとんとする葵。
不機嫌になる私が理解できないくせに、変なところだけ、気が回るんだから。
おまけに、人のこと好きとか軽々しく言うし。
分かってないのよ、全然。
私の気持ちなんか、これっぽっちも……!
「葵は嫌いな人間のほうが、少ないのよ。誰にでも、すぐに好きって言うのよ。
私の『好き』とは違うのよっ。
もうっ、こんな時になに言わせるのよ、ばかっ……!」
自分でも、混乱しているのが分かった。
葵の腕にしがみついて、その胸に額を押しつける。
わめき疲れて、鼻だけすすっている私の耳に、葵の優しい声が、届く。
「……でも、僕が胸を貸すのは、楓だけだよ」
☆
「時任先輩、彼女いたんですね!
ひどいっ。お付き合いしている人いないって言ってたのに……」
「あー、だから、ねぇ」
「男にしか興味ないって言ってたのに……こんなのって、ないっ」
「話、聞きなさいよ……」
隣で、くすくす笑う葵。
あんた、女だって思われてて平気なわけ? って怒りたくなるけど。
葵はそういうの、気にしない人だもんな……。
言葉をなくしている私の前で、葵が急に芝居がかった口調で、しおらしく言った。
「ごめんなさい。あたし達、相思相愛なの。あなたも早く、いい人を見つけてね」
私の腕に自分の腕をからませて葵は得意の天使の微笑みを浮かべる。
これには、さすがの歩美も息をのんで、
「そういうことなら……あたし、あきらめます。さようなら、先輩!」
などと、悲劇のヒロインを気取って、立ち去って行く。
その背中を見送り、感心したように葵が言った。
「……楓ってモテるよねぇ、昔から。……女の子に」
「どーせねっ」
そうよ。
私、女の子だけなら、いままでに十数人には告白されたわよ。
嫌な気分で葵と二人、歩きだす。
葵は、私の機嫌をとるように、いたずらっぽく笑って、こちらを見上げてくる。
「僕は褒めているんだけどなぁ。
同性に好かれるってことは、それだけその人の価値が評価されてるって、ことだと思うけど。
男でも女でも、同性に対する目って厳しいからね」
……葵の考え方は、いつも独特で。物事の真理を捕えた物言いが多い。
「だから、楓がモテるのは、当然だけどね」
………でもって、すんなりとそんなこと言ってくれちゃうのは、反則だ。
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