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宴もよう〜花嫁に告ぐ〜
【四】
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「ケガでもされたんですか?」
瞬間、茜が噴き出したのと同時に、美穂の拳がその横っ腹をなぐりつけた。
「はうっ……。愛が痛いわ……」
「ねー、ちょっと、あんたたち!」
身をよじって泣き真似をする自らの伴侶を完全に無視して、いつもより可愛いらしい装いの赤い“花嫁”が、庭先にいる“眷属”たちに話しかける。
「せっかく来てやったんだから、なんか面白いモン見せなさいよ。
そこの眼帯つけた赤い犬! 腹芸とかタコ踊りとかできないの?」
「はっ? 俺っ?」
ひざ丈の筒袴から伸びた細い両足を投げ出し、美穂が犬朗に無茶振りをする。
その片方の足首に、茜が水に浸した手拭いを置いた。
「……久しぶりに山道を歩いて、挫いたのよ」
咲耶の視線を感じたらしく、茜がこっそり耳打ちしてくる。
「じゃ、そっちのタヌキ耳! パンダとかコアラとかに、化けるとかは?」
「ぱ、ぱん? こ、あら? って、なん、ですか?」
「は? 知らないの?
ちょっと、咲耶。あんたのとこの“眷属”使えなくない?」
装いと声は可愛いらしいが、言っていることはかなりヒドイ。
咲耶が苦笑いを返していると、犬朗が思いだしたように声をあげた。
「お、そうだっ!
俺らなんかのつまんねぇ芸より、旦那、アレ見せてくださいよ。咲耶サマが旦那に見惚れたっつーアレ!」
「……何の話をしている」
「ちょっ……、犬朗! やめてよ、みんなの前で!」
「えー? なにソレ? あたしも見た~い! もったいつけないで見せなさいよ、ハク!」
「ヤダ、美穂ったら! ホントお下品なんだから。ハクの裸踊りなんか見たいのぉ?」
犬朗の提言にあわてる咲耶を見て、美穂と茜は悪ノリしたが、当の和彰は騒ぐ者たちを無表情で見ている。
黒虎毛の犬が、赤虎毛の犬の首を締め上げた。
「……貴様、ハク様に何をさせる気だ」
「おわっ……落ちつけ、犬貴!
そーゆうんじゃなくてだなぁ、旦那が前に“結界”の修復で見せたっつー『舞い』の話だって!
なっ、咲耶サマっ?」
必死の形相でふられた話題に、場の注目が一気に咲耶に集まった。
「えっと、あの……」
「咲耶サマだって、もう一度、見てみたいって言ってたよな?」
「そうなのか、咲耶?」
「…………うん」
自分の想いなど、この場にいる全員が知っているだろう。
それでも咲耶は和彰の問いかけに、気恥ずかしさのあまり小声でしかうなずけない。
そんな咲耶に、白い“神獣”の“化身”は事もなげに立ち上がった。
「分かった」
それまで成り行きを黙って見ていた闘十郎が、ひざを叩いた。
「どれ、ではわしが笙を取るとするか。曲は?」
「おそれながら……『つまごい』かと存じます」
「ふむ。愁月らしいの。それで、おぬしは?」
「……鼓でしたら、少々」
犬貴と闘十郎が、ふたりだけにしか解らない会話をしている。
美穂が勢いよく片手を上げた。
「ハイはーい!『つまごい』なら、あたしも付き合うよ。箏で」
「あら。足は大丈夫なの?」
「だって、面白そうじゃん!」
───そうして、和彰の『舞い』のため、闘十郎が笙を吹き、犬貴が鼓を打ち、美穂が箏をつま弾くこととなった。
瞬間、茜が噴き出したのと同時に、美穂の拳がその横っ腹をなぐりつけた。
「はうっ……。愛が痛いわ……」
「ねー、ちょっと、あんたたち!」
身をよじって泣き真似をする自らの伴侶を完全に無視して、いつもより可愛いらしい装いの赤い“花嫁”が、庭先にいる“眷属”たちに話しかける。
「せっかく来てやったんだから、なんか面白いモン見せなさいよ。
そこの眼帯つけた赤い犬! 腹芸とかタコ踊りとかできないの?」
「はっ? 俺っ?」
ひざ丈の筒袴から伸びた細い両足を投げ出し、美穂が犬朗に無茶振りをする。
その片方の足首に、茜が水に浸した手拭いを置いた。
「……久しぶりに山道を歩いて、挫いたのよ」
咲耶の視線を感じたらしく、茜がこっそり耳打ちしてくる。
「じゃ、そっちのタヌキ耳! パンダとかコアラとかに、化けるとかは?」
「ぱ、ぱん? こ、あら? って、なん、ですか?」
「は? 知らないの?
ちょっと、咲耶。あんたのとこの“眷属”使えなくない?」
装いと声は可愛いらしいが、言っていることはかなりヒドイ。
咲耶が苦笑いを返していると、犬朗が思いだしたように声をあげた。
「お、そうだっ!
俺らなんかのつまんねぇ芸より、旦那、アレ見せてくださいよ。咲耶サマが旦那に見惚れたっつーアレ!」
「……何の話をしている」
「ちょっ……、犬朗! やめてよ、みんなの前で!」
「えー? なにソレ? あたしも見た~い! もったいつけないで見せなさいよ、ハク!」
「ヤダ、美穂ったら! ホントお下品なんだから。ハクの裸踊りなんか見たいのぉ?」
犬朗の提言にあわてる咲耶を見て、美穂と茜は悪ノリしたが、当の和彰は騒ぐ者たちを無表情で見ている。
黒虎毛の犬が、赤虎毛の犬の首を締め上げた。
「……貴様、ハク様に何をさせる気だ」
「おわっ……落ちつけ、犬貴!
そーゆうんじゃなくてだなぁ、旦那が前に“結界”の修復で見せたっつー『舞い』の話だって!
なっ、咲耶サマっ?」
必死の形相でふられた話題に、場の注目が一気に咲耶に集まった。
「えっと、あの……」
「咲耶サマだって、もう一度、見てみたいって言ってたよな?」
「そうなのか、咲耶?」
「…………うん」
自分の想いなど、この場にいる全員が知っているだろう。
それでも咲耶は和彰の問いかけに、気恥ずかしさのあまり小声でしかうなずけない。
そんな咲耶に、白い“神獣”の“化身”は事もなげに立ち上がった。
「分かった」
それまで成り行きを黙って見ていた闘十郎が、ひざを叩いた。
「どれ、ではわしが笙を取るとするか。曲は?」
「おそれながら……『つまごい』かと存じます」
「ふむ。愁月らしいの。それで、おぬしは?」
「……鼓でしたら、少々」
犬貴と闘十郎が、ふたりだけにしか解らない会話をしている。
美穂が勢いよく片手を上げた。
「ハイはーい!『つまごい』なら、あたしも付き合うよ。箏で」
「あら。足は大丈夫なの?」
「だって、面白そうじゃん!」
───そうして、和彰の『舞い』のため、闘十郎が笙を吹き、犬貴が鼓を打ち、美穂が箏をつま弾くこととなった。
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