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❖グレイな隣人❖
異種接近遭遇 Part.2『名前』
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貸し借りなし。あー、スッキリ。
我ながら嫌な考え方だけど、物をもらってそのまま何も返さないのは寝覚めが悪かったりするので、自己満足とはいえ気が楽になった。
……なのに。
閉めかけた扉にスッと差し込まれた、黄褐色のゴツい手指。
一瞬にして夏鈴の忠告が思いだされヒヤリとした、直後。
「コレ、たっくさんもらマシタ! なので、あげマース。ドゾ!」
……あー、なんか、また返ってきた。どうするよ、これ……。
❖
手にした可愛らしいラッピングの袋をテーブルの上に置く。
卓上カレンダーを見やれば、平日の二月十四日。世間一般ではバレンタインデーというものだ。
……あの異人さん、日本のバレンタインの意味を理解してるんだろーか?
とりあえず、慎重にギフトバッグのリボンをほどけば、特にメッセージカードのようなものはない。
袋の中のチョコレートも、一般に流通されてる某有名お菓子メーカーの飴玉大のチョコだ。
うん。たぶん、職場の人からもらった義理チョコだろう。
本人がそれを解った上でくれたものかは定かではないけど、本命でないなら問題ないか。
バスルームに向かいながらチョコの包みを開いて口に入れる。
キャラメル風味の濃厚なチョコの味わいが口の中に広がった。
フツーに、美味い。やっぱり、食べ物に罪はない。
バスタブにお湯をためてると、浴室の薄い壁向こうから蛇口をひねる音と、よく解らない鼻歌が聞こえてくる。
不思議なことに、向こう側の生活音を聞く度に、同じ人間なんだよなぁと当たり前の感想をもってしまう。
言語とか習慣とか文化が違っても。話したら、そんなに人間として違わないのかも。
ふと、そんなことを思った。
❖
遅番上がりでアパートに着けば、通路の手すりに寄りかかり紫煙を燻らせるお隣さんがいた。
……あれ、そういえば名前知らなかった。まぁ、呼ぶこともないし、どうでもいっか。
「アッ」
私の姿を見て、気まずそうに携帯用の灰皿に煙草を押しつける。
「今晩は」
別に吸うのやめなくても、私すぐに家に入るから遠慮しなくていいのにな。
「コンバンわ。……けむり、ゴメんナサイ」
「気にしないでください。ウチの母も生きてた時、外で吸ってたし」
退去時を考えてか、このアパートの住人らしき喫煙者が外で吸ってるのは、何度も見かけたことがある。
「お母サン、いないデスか。……サビシィ?」
「いえ、もう何年も経つし」
黒髪の向こうの茶色い眼が、見透かすようにこちらを見る。
───ストレートな穿鑿。日本人なら聞かないよ、それ。
とは思いつつも、あまりの直球な物言いは、逆に裏表のなさにも感じられ、不快な気持ちにはならなかった。
「……良かったら、どうぞ。あ、期限まで短いからお早めに」
仕事上、試飲目的でもらう栄養ドリンク。期限間近だけど、一本くらいならすぐ飲むだろう。
「ありガトウ、ゴザ」
言いかけて、瓶のラベルを見た隣人さんの表情が、笑顔のまま固まる。
直後、
「ジュジュっ! コレ、いまコラボやってマスね?」
と、茶色い瞳を輝かせた。……んん??
それは、まさか。呪いを扱う専門学校の生徒と先生が人でないモノと戦ったり闘ったりするヤツのこと言ってます?
「デス!」
親指立ててコクコクと大きく首を縦振りする、イケメン隣人。
それから、七つの宝玉を集めて神の龍を呼ぶヤツとか、何度もリメイクされるサッカーアニメとか、お父さん探してハンターになるヤツとか……。
まぁ、日本の少年漫画とアニメって偉大ね! という勢いで話が弾み、気づいたら小一時間玄関先で話し込んでしまった。
「……あ、出てくれて大丈夫ですよ。長話してごめんなさい。じゃ」
ふいに鳴った着信音に、困った顔で私とスマホを見比べられて、あわてて背を向け家に入ろうとした───が。
突然、
「僕、クライシチャクリ・ダーオルング、言いマス!」
その、長すぎる名前に、へ? と思いながら振り返った私に、倉石何某が言った。
「ユア、ネィム?」
暗闇のなか、まぶしいほどの人懐っこい笑顔で。
我ながら嫌な考え方だけど、物をもらってそのまま何も返さないのは寝覚めが悪かったりするので、自己満足とはいえ気が楽になった。
……なのに。
閉めかけた扉にスッと差し込まれた、黄褐色のゴツい手指。
一瞬にして夏鈴の忠告が思いだされヒヤリとした、直後。
「コレ、たっくさんもらマシタ! なので、あげマース。ドゾ!」
……あー、なんか、また返ってきた。どうするよ、これ……。
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手にした可愛らしいラッピングの袋をテーブルの上に置く。
卓上カレンダーを見やれば、平日の二月十四日。世間一般ではバレンタインデーというものだ。
……あの異人さん、日本のバレンタインの意味を理解してるんだろーか?
とりあえず、慎重にギフトバッグのリボンをほどけば、特にメッセージカードのようなものはない。
袋の中のチョコレートも、一般に流通されてる某有名お菓子メーカーの飴玉大のチョコだ。
うん。たぶん、職場の人からもらった義理チョコだろう。
本人がそれを解った上でくれたものかは定かではないけど、本命でないなら問題ないか。
バスルームに向かいながらチョコの包みを開いて口に入れる。
キャラメル風味の濃厚なチョコの味わいが口の中に広がった。
フツーに、美味い。やっぱり、食べ物に罪はない。
バスタブにお湯をためてると、浴室の薄い壁向こうから蛇口をひねる音と、よく解らない鼻歌が聞こえてくる。
不思議なことに、向こう側の生活音を聞く度に、同じ人間なんだよなぁと当たり前の感想をもってしまう。
言語とか習慣とか文化が違っても。話したら、そんなに人間として違わないのかも。
ふと、そんなことを思った。
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遅番上がりでアパートに着けば、通路の手すりに寄りかかり紫煙を燻らせるお隣さんがいた。
……あれ、そういえば名前知らなかった。まぁ、呼ぶこともないし、どうでもいっか。
「アッ」
私の姿を見て、気まずそうに携帯用の灰皿に煙草を押しつける。
「今晩は」
別に吸うのやめなくても、私すぐに家に入るから遠慮しなくていいのにな。
「コンバンわ。……けむり、ゴメんナサイ」
「気にしないでください。ウチの母も生きてた時、外で吸ってたし」
退去時を考えてか、このアパートの住人らしき喫煙者が外で吸ってるのは、何度も見かけたことがある。
「お母サン、いないデスか。……サビシィ?」
「いえ、もう何年も経つし」
黒髪の向こうの茶色い眼が、見透かすようにこちらを見る。
───ストレートな穿鑿。日本人なら聞かないよ、それ。
とは思いつつも、あまりの直球な物言いは、逆に裏表のなさにも感じられ、不快な気持ちにはならなかった。
「……良かったら、どうぞ。あ、期限まで短いからお早めに」
仕事上、試飲目的でもらう栄養ドリンク。期限間近だけど、一本くらいならすぐ飲むだろう。
「ありガトウ、ゴザ」
言いかけて、瓶のラベルを見た隣人さんの表情が、笑顔のまま固まる。
直後、
「ジュジュっ! コレ、いまコラボやってマスね?」
と、茶色い瞳を輝かせた。……んん??
それは、まさか。呪いを扱う専門学校の生徒と先生が人でないモノと戦ったり闘ったりするヤツのこと言ってます?
「デス!」
親指立ててコクコクと大きく首を縦振りする、イケメン隣人。
それから、七つの宝玉を集めて神の龍を呼ぶヤツとか、何度もリメイクされるサッカーアニメとか、お父さん探してハンターになるヤツとか……。
まぁ、日本の少年漫画とアニメって偉大ね! という勢いで話が弾み、気づいたら小一時間玄関先で話し込んでしまった。
「……あ、出てくれて大丈夫ですよ。長話してごめんなさい。じゃ」
ふいに鳴った着信音に、困った顔で私とスマホを見比べられて、あわてて背を向け家に入ろうとした───が。
突然、
「僕、クライシチャクリ・ダーオルング、言いマス!」
その、長すぎる名前に、へ? と思いながら振り返った私に、倉石何某が言った。
「ユア、ネィム?」
暗闇のなか、まぶしいほどの人懐っこい笑顔で。
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