刹那よ、永遠に

イチ

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「今聖華学院せいかがくいんに通ってるんだっけ?あそこは強豪だから部活も大変でしょ」

「まぁな。県内1の強豪校なだけあってレベルが高いよ」


駅から自宅までの帰り道、少し雨足が弱まった中傘をさしながら秋風は久しぶりに会った天羽との会話を楽しんでいた。


「隼人は青葉高校だったな。去年の新人戦で走ってる姿スタンドから見てたよ」


「去年のレースを見てたのか。あの時は不甲斐ない走りをしたけど、冬で自分自身を追い込んできた。次は絶対に納得のいく走りをして、レースを楽しむんだ」


秋風は冬のキツイ練習を思い出しながら、笑顔で語った。


その話を天羽は表情を変えずに聞いていた。


「楽しく、か。久々にその台詞を聞いたよ。相変わらずだな」


「あぁ、楽しくがモットーだからな」



「去年の新人戦の時も思ってたが、お前が中学時代と変わらないままで良かったよ」


天羽は先程から表情を変えず坦々と話す。


「冬弥どうしたんだ?急に」


秋風は天羽の様相に違和感を感じていた。


「言葉の通りだよ。隼人が変わらないでくれて良かった。だからこそ、俺はお前を全力で倒すことが出来る。…楽しいとか言ってるお前をな」



「…俺も良いライバルとして冬弥と走るのは楽しみだけど、本当にどうした」


「…俺は昔からお前のスタイルが気に入らなかった。楽しければ良い?楽しく走りたい?違うだろ。勝負なんだ。勝たなくちゃ意味がない。
…隼人、中学の時、色んな高校からスカウトきてたよな。だけど、それを全て断った。理由は楽しく走りたいから。そう言ってたよな。
お前は才能があるのに、それを伸ばそうとせずに一時の感情を優先した。違う、違うんだよ。勝負なんだから勝ちに拘るべきなんだよ…。特にトップ選手は…。だから、俺はお前のスタイルが気に入らない。才能があるのにそれを捨てるスタイルに。…そして俺は聖華学院に入学した。お前が入学を断った聖華学院に。
俺は勝利に拘ってひたすら練習してきた。勝つことでしか見い出せない価値があるからだ」


天羽は、まるでハンドルをひねった蛇口のように言葉を積み重ねていく。

秋風はそれを黙って聞いていた。


「俺は勝つことで、隼人が今までしてきた楽しいを優先するスタイルを否定する。
俺は今回の総体で100mに出場してお前より速くゴールする。絶対に負けない。勝つのは俺だ」


天羽はそう言い切り、歩いていった。


秋風はその後ろ姿を見て暫く歩けずにいた。


天羽の後ろ姿が段々と小さくなっていく。


弱くなった雨がまた強くなってきた。
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