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始まりの町・リンデンベルグ
13.出来心からの大惨事
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日は高く、町のはるか頭上に輝く。
まだ本格的な夏ではないが、太陽と共に上昇する気温は少しばかり暑い。それでも路地脇に日を遮る建物が事欠かない事と臨海ゆえに吹き込む風がある事で、普通に生活をしていれば心地よく過ごせるだろう。その絶妙な気候の中を走る2人の額にはうっすらと汗が滲み始めていた。
「平坦な場所でよかった。これ、坂ばっかりの町だったらへばってたかも」
「同感。あと真夏じゃなくて良かった」
「同感」
地図も見ずに入り組んだリンデンベルグの道を辿れているのかは正直分からないが、時折建物の隙間から見える時計塔が少しずつ大きくなっている事から間違いなく近付けているはずだ。
シリスはしっかりと目視できた時計塔の南壁を、走りながら見上げた。
「12時5分……パレードが終わるまでまだ20分以上ってとこかな」
時計塔の名に違わず、塔の南壁に大きく存在を主張する時計の文字盤。
長い針は1の数字をピタリと示し、呟いたシリスの目の前でもう1分と時を刻んだ。パレードは今まさに時計塔を離れる頃だろう。
時計塔を調べるとしても、思い付くのは魔導人形たちが出てくる扉くらいだ。東側の扉には吹き抜けの階段と展望台しか無かったはずだ。それは2人とも初日に確認している。
魔導人形たちが出て行った後の扉は、昨日見た限りでは開いたままで誰かが警備に立っているということもなかった。しかし、パレードが去ると同時に人が捌けたことから、中に入るのは宜しくないのだろう。すぐ立ち去ったので確証は持てないが。
人の善性に委ねたセキュリティ体制だが、それで成り立っているのだからつくづく平和な町なのだ。と、2人は同じ感想を抱いた。
「もう時計塔の近くって人が少ないよね」
「昨日の感じからすれば、そうだな。……それなりに居たらどうする?」
「ヴェルはディクみたいに隠蔽の魔術って使えないの?あれって水魔術の括りだったっしょ?」
「正確には水と光な。出来ない……ってか、アレ死ぬほど面倒なんだぞ。エーテル操作もあり得ねーほど細かくて、一定の区間のどこからでも全反射になる条件作るための計算とそれぞれの魔術の方向性を指示する───」
「ストップ。この話はもうナシで」
シリスは長くなりそうだったヴェルの説明をピシャリと切った。自分で聞いた訳だが、友人のように簡単に扱える術ではなかったらしい。水魔術に少し明るい弟であればあるいは……と思ったが、当てが外れた。
人が少ないかもしれないといえ、本来であれば人が入ることはないだろう場所に向かうのだからなるべく人目に付かないようには動きたかった。
それは咎められないためにも、可能性として町の誰かを巻き込まないためにも。
「なあ、思いついた事あるんだけど」
大通りが見えてきたあたりでヴェルは姉に向かってニヤリと笑う。突然向けられた笑みにシリスは怪訝な顔で小首を傾げた。
ヴェルは手の平に拳ほどの大きさの水球を生み出す。それくらいであればシリスも火球で同じ芸当ができるが、まだ彼の言いたいことはわからない。
「シリスさ、正直なところ興味ない?
…………水蒸気爆発ってやつ」
激しい音を立てて、町の上空で大量の蒸気が発生した。
煙かと見紛うほどに濃く広がるそれは爆音と共に広がり、大通りの空を一瞬で曇り模様にした。人々は突然のことに何が起こったか理解できず、ある者は怯えて地に伏せ、ある者は悲鳴を上げて逃げ出し、またある者は呆然と上空を見上げていた。
そんな中、混乱に乗じて2人は両開きになった扉から時計塔の中へ侵入する。
中は人が横に4人並んで歩けるくらいの広さの道が続いており、下りの傾斜がついていた。多くの人形を収納する空間が必要なのだ。時計塔内部は展望台へ続く螺旋階段で吹き抜けになっていたので、地下へ続くのも当たり前と言えるだろう。薄暗い明かりしかない道は暗く、少し奥へ行くだけで大通りからはもう2人の姿は見えなくなる。
「「やっっっっっば……」」
小走りで道を進んだ双子は、大通りの喧騒が聞こえるか聞こえないかの頃合いになってようやく足を止めた。双子らしく呟く言葉も同じでタイミングも同じ、青ざめた顔の色まで同じだ。
「あんなに爆発するんだ……」
「結構高く打ち上げといて良かったな……」
建物などに被害が出ないようにとそれなりに気を利かせたつもりだったが、拳大の水球と火球のぶつかり合いは 2人が求めてた以上の威力を発揮したらしい。幸い、爆風で建物が崩れるということもなく、人々を薙ぎ倒すということもなかった。人の注目さえ集まればと思っていたのだが、怯えさせてしまったのは純粋に申し訳なく思う。
「球もちょっと小さくしといて正解だったな。最初は頭くらいの大きさのやつぶつけてって考えてたけど、それやってたら確実にどっか倒壊してたわ」
「被害出なくてよかった……町中で使うもんじゃなかった」
「正直、あれだけでも反省文数枚書かされるレベルだよな」
ヴェルが言った反省文という言葉に、シリスは乾いた笑いを返した。今後は人気の多い場所では使うまい、そう心に決める。
2人は再び足を踏み出し、薄明かりの中を注意深く進む。魔導人形たちが通るからだろうか、道は整備されており躓きそうな出っ張りもない。ただ、道は緩く右回りにカーブが続いておりこちらも地上と同じく螺旋状になっているようだ。道の先がどうなっているのかは、2人からは確認することができなかった。
「でもさ」
「でも?」
「正直、ちょっと興奮したよね」
「わかる」
住民たちに怪我を負わせてないとはいえ、爆発を起こしたことなんて知られたら大目玉だろう。だからさっきの手段を使ったことは自分達だけの秘密だ、お互い同じ想いを胸に頷き合うと、どちらともなく笑みが漏れた。
グレゴリーのことについては未だ心配だが、互いがいることで不安も幾分か軽い。1人だったら、もしくは相手が片割れでなかったら、どうしようも出来ずに未だ迷って宿から動けなかったかもしれない。そう思えばこの組み合わせを采配してくれたヴァーストに感謝の念は尽きない。
「まあ、面倒なの2人纏めてグレゴリーさんに押し付けたとも言えるかも」
数十歩行けば連続していた右カーブは唐突に真っ直ぐになり、奥の大きな扉の前で行き止まりになっている。
扉には取手や鍵穴などは一見すると見当たらない。大人2人分の高さのそれは無骨な鉄扉で、飾り気もない黒錆びた色は威圧感すら与える。
試しにヴェルが前に出て扉を押してみるが、開く気配はない。だが、重たそうに見えた鉄扉は案外動くもので、重量の問題というよりは何かが引っ掛かっているようであった。
「これってどういう鍵かな?」
「隙間からちょっと見える限り、内側に閂っぽいのが見えるけど」
「じゃあ観音開きってことか……それならシリス得意だろ?開けるの」
ヴェルがゴンゴンと裏拳で鉄扉を叩いてみせる。その意味するところをすぐに理解できるのは、思考回路の近さゆえか。シリスはヴェルの言わんとすることに「あぁ」と声を上げた。
「でも怒られそうじゃない?」
「今更だろ?ここ以外に進む場所ないし、後で責任取ってもらってグレゴリーさんに弁償させれば良いじゃん」
「それもそうか」
グレゴリーが不憫とはどちらも口にしない。
こればかりは単独行動をした結果の責任である。
シリスは左手を身体の前に掲げ、スッと目を閉じる。
伸ばされた指先。
短く切り揃えた爪の先に赤い光が仄かに灯る。光は指先に踊るように纏わりつき、グローブに覆われた掌へ向かって緩やかに流れる。揺らめくその光は陽炎の様にも焔の様にも見えた。やがて流れた光が全て掌へと集まった頃、光は赤い閃光となり一筋の光跡を描いた。
目が眩みそうな光はほんの一瞬で、直後赤い光は確かな実体を持って存在していた。燃えているように赫を帯びた刀身は、鉄というよりももはやルビーに近い輝きを放って煌めく。
2人の肌が、チリチリと熱を受けた。
身の丈ほどもあるその巨大な剣を、シリスは重さを感じさせない所作で振りかぶり───
空気を焼き切る音と金属の悲鳴が同時に上がる。
一呼吸遅れて、敷き詰められたレンガが砕ける鈍い音。
「──────ふぅ」
振り下ろされ切った巨剣は、その大きさに伴った穴を床に穿っていた。シリスが息を吐くと同時に扉の向こうで重たい金属が床に落ちる音がして、僅かにこちら側にも振動が伝わる。
満足げにその様子を確認すると、シリスはその手に掴んだままだった剣の柄から手を離した。
主人の手を離れたそれは、出てきた光景を逆再生するかのように緩やかに光となって散り、シリスの手に纏わりついて消える。
後に残ったのは斜めに深い切れ込みが付いた鉄扉と、縦に長い穴の空いた地面、扉に近づいて切れ込みの隙間を確認する双子だけだった。
「綺麗に切ったと思うんだけど……これ、100点じゃない?」
「扉の損傷も大きいからマイナス40点、あと床も抉ったからマイナス40点」
「厳しすぎない?」
「あと、熱すぎて扉にまだ触れないからマイナス10点な。ヴァーストさんならそれくらい厳しい」
「もういいや。早く冷やしてよ……もう……」
先程までの真面目な空気はどこへやら、
弟の辛口な批評にシリスが項垂れる間に、ヴェルが水球を扉にぶつけ、じゅう、と急速に熱が奪われる音がした。
「行くぞ」
何事もなかったかのように促され、しかしシリスは小さくかぶりを振って気を取り直す。
「おっけー」
急速に冷やされたことで歪み、無惨にも新たにひび割れを作った鉄扉が軋みながら開かれていく。
「ねえ、よく考えればさ。後ちょっと待ったらパレードが戻ってきて、自動で開いたかもしれなかったり?」
「あ」
「「……やっべー……」」
まだ本格的な夏ではないが、太陽と共に上昇する気温は少しばかり暑い。それでも路地脇に日を遮る建物が事欠かない事と臨海ゆえに吹き込む風がある事で、普通に生活をしていれば心地よく過ごせるだろう。その絶妙な気候の中を走る2人の額にはうっすらと汗が滲み始めていた。
「平坦な場所でよかった。これ、坂ばっかりの町だったらへばってたかも」
「同感。あと真夏じゃなくて良かった」
「同感」
地図も見ずに入り組んだリンデンベルグの道を辿れているのかは正直分からないが、時折建物の隙間から見える時計塔が少しずつ大きくなっている事から間違いなく近付けているはずだ。
シリスはしっかりと目視できた時計塔の南壁を、走りながら見上げた。
「12時5分……パレードが終わるまでまだ20分以上ってとこかな」
時計塔の名に違わず、塔の南壁に大きく存在を主張する時計の文字盤。
長い針は1の数字をピタリと示し、呟いたシリスの目の前でもう1分と時を刻んだ。パレードは今まさに時計塔を離れる頃だろう。
時計塔を調べるとしても、思い付くのは魔導人形たちが出てくる扉くらいだ。東側の扉には吹き抜けの階段と展望台しか無かったはずだ。それは2人とも初日に確認している。
魔導人形たちが出て行った後の扉は、昨日見た限りでは開いたままで誰かが警備に立っているということもなかった。しかし、パレードが去ると同時に人が捌けたことから、中に入るのは宜しくないのだろう。すぐ立ち去ったので確証は持てないが。
人の善性に委ねたセキュリティ体制だが、それで成り立っているのだからつくづく平和な町なのだ。と、2人は同じ感想を抱いた。
「もう時計塔の近くって人が少ないよね」
「昨日の感じからすれば、そうだな。……それなりに居たらどうする?」
「ヴェルはディクみたいに隠蔽の魔術って使えないの?あれって水魔術の括りだったっしょ?」
「正確には水と光な。出来ない……ってか、アレ死ぬほど面倒なんだぞ。エーテル操作もあり得ねーほど細かくて、一定の区間のどこからでも全反射になる条件作るための計算とそれぞれの魔術の方向性を指示する───」
「ストップ。この話はもうナシで」
シリスは長くなりそうだったヴェルの説明をピシャリと切った。自分で聞いた訳だが、友人のように簡単に扱える術ではなかったらしい。水魔術に少し明るい弟であればあるいは……と思ったが、当てが外れた。
人が少ないかもしれないといえ、本来であれば人が入ることはないだろう場所に向かうのだからなるべく人目に付かないようには動きたかった。
それは咎められないためにも、可能性として町の誰かを巻き込まないためにも。
「なあ、思いついた事あるんだけど」
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ヴェルは手の平に拳ほどの大きさの水球を生み出す。それくらいであればシリスも火球で同じ芸当ができるが、まだ彼の言いたいことはわからない。
「シリスさ、正直なところ興味ない?
…………水蒸気爆発ってやつ」
激しい音を立てて、町の上空で大量の蒸気が発生した。
煙かと見紛うほどに濃く広がるそれは爆音と共に広がり、大通りの空を一瞬で曇り模様にした。人々は突然のことに何が起こったか理解できず、ある者は怯えて地に伏せ、ある者は悲鳴を上げて逃げ出し、またある者は呆然と上空を見上げていた。
そんな中、混乱に乗じて2人は両開きになった扉から時計塔の中へ侵入する。
中は人が横に4人並んで歩けるくらいの広さの道が続いており、下りの傾斜がついていた。多くの人形を収納する空間が必要なのだ。時計塔内部は展望台へ続く螺旋階段で吹き抜けになっていたので、地下へ続くのも当たり前と言えるだろう。薄暗い明かりしかない道は暗く、少し奥へ行くだけで大通りからはもう2人の姿は見えなくなる。
「「やっっっっっば……」」
小走りで道を進んだ双子は、大通りの喧騒が聞こえるか聞こえないかの頃合いになってようやく足を止めた。双子らしく呟く言葉も同じでタイミングも同じ、青ざめた顔の色まで同じだ。
「あんなに爆発するんだ……」
「結構高く打ち上げといて良かったな……」
建物などに被害が出ないようにとそれなりに気を利かせたつもりだったが、拳大の水球と火球のぶつかり合いは 2人が求めてた以上の威力を発揮したらしい。幸い、爆風で建物が崩れるということもなく、人々を薙ぎ倒すということもなかった。人の注目さえ集まればと思っていたのだが、怯えさせてしまったのは純粋に申し訳なく思う。
「球もちょっと小さくしといて正解だったな。最初は頭くらいの大きさのやつぶつけてって考えてたけど、それやってたら確実にどっか倒壊してたわ」
「被害出なくてよかった……町中で使うもんじゃなかった」
「正直、あれだけでも反省文数枚書かされるレベルだよな」
ヴェルが言った反省文という言葉に、シリスは乾いた笑いを返した。今後は人気の多い場所では使うまい、そう心に決める。
2人は再び足を踏み出し、薄明かりの中を注意深く進む。魔導人形たちが通るからだろうか、道は整備されており躓きそうな出っ張りもない。ただ、道は緩く右回りにカーブが続いておりこちらも地上と同じく螺旋状になっているようだ。道の先がどうなっているのかは、2人からは確認することができなかった。
「でもさ」
「でも?」
「正直、ちょっと興奮したよね」
「わかる」
住民たちに怪我を負わせてないとはいえ、爆発を起こしたことなんて知られたら大目玉だろう。だからさっきの手段を使ったことは自分達だけの秘密だ、お互い同じ想いを胸に頷き合うと、どちらともなく笑みが漏れた。
グレゴリーのことについては未だ心配だが、互いがいることで不安も幾分か軽い。1人だったら、もしくは相手が片割れでなかったら、どうしようも出来ずに未だ迷って宿から動けなかったかもしれない。そう思えばこの組み合わせを采配してくれたヴァーストに感謝の念は尽きない。
「まあ、面倒なの2人纏めてグレゴリーさんに押し付けたとも言えるかも」
数十歩行けば連続していた右カーブは唐突に真っ直ぐになり、奥の大きな扉の前で行き止まりになっている。
扉には取手や鍵穴などは一見すると見当たらない。大人2人分の高さのそれは無骨な鉄扉で、飾り気もない黒錆びた色は威圧感すら与える。
試しにヴェルが前に出て扉を押してみるが、開く気配はない。だが、重たそうに見えた鉄扉は案外動くもので、重量の問題というよりは何かが引っ掛かっているようであった。
「これってどういう鍵かな?」
「隙間からちょっと見える限り、内側に閂っぽいのが見えるけど」
「じゃあ観音開きってことか……それならシリス得意だろ?開けるの」
ヴェルがゴンゴンと裏拳で鉄扉を叩いてみせる。その意味するところをすぐに理解できるのは、思考回路の近さゆえか。シリスはヴェルの言わんとすることに「あぁ」と声を上げた。
「でも怒られそうじゃない?」
「今更だろ?ここ以外に進む場所ないし、後で責任取ってもらってグレゴリーさんに弁償させれば良いじゃん」
「それもそうか」
グレゴリーが不憫とはどちらも口にしない。
こればかりは単独行動をした結果の責任である。
シリスは左手を身体の前に掲げ、スッと目を閉じる。
伸ばされた指先。
短く切り揃えた爪の先に赤い光が仄かに灯る。光は指先に踊るように纏わりつき、グローブに覆われた掌へ向かって緩やかに流れる。揺らめくその光は陽炎の様にも焔の様にも見えた。やがて流れた光が全て掌へと集まった頃、光は赤い閃光となり一筋の光跡を描いた。
目が眩みそうな光はほんの一瞬で、直後赤い光は確かな実体を持って存在していた。燃えているように赫を帯びた刀身は、鉄というよりももはやルビーに近い輝きを放って煌めく。
2人の肌が、チリチリと熱を受けた。
身の丈ほどもあるその巨大な剣を、シリスは重さを感じさせない所作で振りかぶり───
空気を焼き切る音と金属の悲鳴が同時に上がる。
一呼吸遅れて、敷き詰められたレンガが砕ける鈍い音。
「──────ふぅ」
振り下ろされ切った巨剣は、その大きさに伴った穴を床に穿っていた。シリスが息を吐くと同時に扉の向こうで重たい金属が床に落ちる音がして、僅かにこちら側にも振動が伝わる。
満足げにその様子を確認すると、シリスはその手に掴んだままだった剣の柄から手を離した。
主人の手を離れたそれは、出てきた光景を逆再生するかのように緩やかに光となって散り、シリスの手に纏わりついて消える。
後に残ったのは斜めに深い切れ込みが付いた鉄扉と、縦に長い穴の空いた地面、扉に近づいて切れ込みの隙間を確認する双子だけだった。
「綺麗に切ったと思うんだけど……これ、100点じゃない?」
「扉の損傷も大きいからマイナス40点、あと床も抉ったからマイナス40点」
「厳しすぎない?」
「あと、熱すぎて扉にまだ触れないからマイナス10点な。ヴァーストさんならそれくらい厳しい」
「もういいや。早く冷やしてよ……もう……」
先程までの真面目な空気はどこへやら、
弟の辛口な批評にシリスが項垂れる間に、ヴェルが水球を扉にぶつけ、じゅう、と急速に熱が奪われる音がした。
「行くぞ」
何事もなかったかのように促され、しかしシリスは小さくかぶりを振って気を取り直す。
「おっけー」
急速に冷やされたことで歪み、無惨にも新たにひび割れを作った鉄扉が軋みながら開かれていく。
「ねえ、よく考えればさ。後ちょっと待ったらパレードが戻ってきて、自動で開いたかもしれなかったり?」
「あ」
「「……やっべー……」」
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