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始まりの町・リンデンベルグ
12.疑念と、次の目的地
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「お邪魔しまーす」
声を出して歩を進める姉の背を見ながら、ヴェルも後を追って中に入り込んだ。
家の中は小綺麗で掃除が行き届いていた。
玄関に入ると、そこには応接用と思われるキルティング生地のソファと木のローテーブルが真ん中に設置されていた。奥の方に階段ともう一つ部屋があり、食器棚が見えることからそこはリビングなのだろう。
「エミリオさーん、入りますよー」
姉に続いてヴェルは気の抜けた声を投げかけるが、相変わらず返事はない。聞こえるのはたまに吹く風が窓を揺らす微かな音だけだ。
入る時にこそ後ろめたさは残っていたが、いざ入ってしまえばそれも薄れてしまう。
ヴェルは躊躇いなく奥の部屋へ向かい、そこに誰もいないことを確認した。
先程の見えた食器棚と木製の机、椅子。カウンターキッチンの奥には棚があり、調理用品が綺麗に整列されていた。食器も机も椅子も、一目で品がいい事がわかるように細やかな細工や模様が施されているが、それらは全てが綺麗に片付けられている。
つまり、食器などはつい最近に使われた形跡などは見られなかった。洗ってすぐ片付ける性格であればわからないが、臥せっているような人物が果たしてそこまで丁寧にするかは、ずぼらなヴェルにとって疑問である。
「ヴェルー、なんかあった?」
「なにもー」
片付けが綺麗すぎる疑問はまた後で考えればいい。シリスに収穫がないことを答えると、ヴェルはリビングを出て階段前で上を見上げるシリスの元へ向かった。
「全部綺麗に片付けられてたって事くらい。そっちは?」
「こっちは相変わらず音もしないなって感じ。上からもなんも音しないし」
シリスの言葉につられてヴェルも階段を見上げた。
上り切った先は白い壁だ。その先は廊下だろうが部屋だろうが、左右に分かれているのだろう。
「エミリオさーん」
───最後の確認と、階段上に向かって投げかけたヴェルの声にもとうとう返事はなかった。
ここまで来ると、言葉を交わさなくても2人の間には同じ感想が湧き起こる。即ち、やはり怪しいという一点だ。
昨日搬送された後に戻って来たと、グレゴリーも言っていた。それだけ体調が悪い人間が家を留守にするのはやはりおかしい。
エミリオはどこに行った?
彼を訪ねたグレゴリーは?
疑問は次々に湧いてくるが、それを解消するためには一つしか方法はない。
「上も調べてみるか」
とりあえず調べ続けるしかないのだ。少なくとも、グレゴリーの行方のアテが現状ここしかないのだから。
2人は階段を上りその先を確認する。思った通り、階段を上り切った先は廊下が左右に分かれており、その先にはそれぞれ扉があった。左の扉は開け放たれており、一方右の扉は固く閉ざされていた。開け放たれた部屋の向こうからは相変わらず人の気配もしなければ物音もなく、誰かが寝ていそうな雰囲気は全くといっていいほど伝わってこない。
ヴェルは向かって右側の部屋に向かい、無遠慮に扉を開けてひょいと中を覗き込む。
「あ、ここ寝室っぽい」
部屋の中には1階と同じく品のいい棚や調度品が設えられており、カーテンのかかった窓の脇にはシワ一つないベッドが置かれていた。遮光性があまりないカーテンの隙間から漏れる明るい光で部屋の中に暗さを感じることはない。しかし、人が住んでいるはずなのに生活感を感じられないその様相に、少しばかり気味の悪さすら覚えてヴェルは顔を歪めた。
例えるならば───
そうだ、引っ越し前の新居が感じとしては近い。ヴェルは見習いになったのを機に一人暮らしを始めた友人の事を思い出す。
彼の引っ越しを手伝った際に訪れた部屋はまさにこんな感じだった。荷運びを終えるまでは親元だからと、まだ使わずに整えられたベッド、机に椅子。開けられた様子もない戸棚、引き出し。その時の光景と似ている気がした。
友人の引っ越しの時と違い、荷解きされていない箱の山がないだけだ。なのにこんなにも受ける印象が違う。
「……ちゃんとここに住んでんのか?」
生活感を感じられない部屋は、まるで人間の生活を外側だけ模したような───
「ヴェル!!」
緊迫した姉の呼び声に、ヴェルは弾かれたように身を翻した。部屋から飛び出せば短い廊下の先に向かい側の部屋が見える。
「どうした!?」
迷わずそこに足を踏み入れれば、シリスはヴェルに背を向けるようにして部屋の奥に位置する机の前に立っていた。
部屋の中には乱雑にいくつもの紙が散らばり、あるものは踏まれたのか握り潰されたのか端々がグシャリと歪んでいる。避けていくのも億劫で、どうせ既にヨレているのだとヴェルは散らばる紙を避けもせずに机に近付いた。
その机はリビングにあるようなものと違い重厚感があり、近付くと非常に硬そうな木材でできているのがわかる。
磨かれた机の上にも紙は散らばっているが、床のように乱雑ではなく元々は積み上げられていたのではという事を窺わせた。転がるペンや付箋を見るに、これは執務机といったところか。
「ヴェル、これ」
シリスから、手にしていた何枚かの紙を束にして渡される。ヴェルが受けとれば、それには守護者への救援を嘆願する文字がさまざまな筆跡で書かれていた。短い文言ながらも署名までされたその紙は数枚に渡り、最後の紙にはこう記されてあった。
「"以上が住民からの要望の一部となります。つきましては、町長には一刻も早い守護者様方への救援を要請頂くよう申し上げます"……」
「その下」
「"なお、以下は我々自警団が鏡像を目撃、処理した箇所を印しております。いま一度、時計塔の精査についても許可をいただきたく思います"」
読んでいるうちにヴェルの顔が険しくなっていく。そして文字の下に添付されたミニマップとそこに赤いインクで書き込まれたチェックマークを理解すると、思わず顔を上げてシリスを見た。
「これって……」
「少なくとも、エミリオさんは知ってたって事だよね?
……時計塔を中心に鏡像が出てる事」
赤い印は"時計塔"と書かれた場所を中心に密集し、そこから離れるほどに密度を薄くしていく。ヘリオが襲われた場所は丁度印が濃い箇所だった。
「よくもまあ、これだけ現れてんのに隠せてたな?3ヶ月前からの蓄積だとしても、けっこう多いと思うけど」
「だからこその嘆願書じゃない?そろそろ隠すのにも限界が来てたんでしょ」
ヘリオの父がこの分布図を知っていたかは分からないが、たぶん知らなかったのだろう。そうでなければ、目撃情報が固まる場所に息子を近付かせたりしないはずだ。彼は客から聞くこともあったというが、あまり大っぴらに情報を話せない状況だったと言っていた。目撃箇所が多い場所なんてものは、共有されていなかったのかもしれない。
「グレゴリーさんがこれを見たかはわかんないけど、問題は───」
その時、大きな鐘の音が窓の外から響き渡る。
昨日聞いたばかりのその音は間近で聞いた時のような突き上げる迫力はない。それでも聞こえる鐘の音は軽やかでどこまでも大きく、屋内にいるヴェルとシリスにもしっかりと届いた。
2人が思わず窓へと目をやり、十数秒と経たないうちに鐘は余韻を残して音を止める。
後に残るのは家に入った時と同じく違和感さえ感じる静けさ。
ぽつり、と漏れ出たシリスの呟きは静まり返った部屋の中で不自然なほどによく聞こえた。
「……問題は、こんな明らかなものを置いてエミリオさん本人もグレゴリーさんも居ないこと」
訪れたはずなのに、姿のないグレゴリー。
臥せっているという話のはずなのに、同じく姿のないエミリオ。
グレゴリーが魔術を使った形跡は無いが、他の部屋に比べて散らかった部屋。この場で何かトラブルが起こった可能性は高い。
不在のエミリオが関与をしているのか現時点では確信できないが、ここまで怪しい点が一致していると疑うなという方が不自然だろう。
「こんな事なら、グレゴリーさんに発信用のエーテルリンク渡しとくべきだったかも」
「無理だろ。どういう前提があるにしろ、見習いの俺らが持つことになってたに決まってる」
「でもあの人の筋肉がハリボテなの、ヴェルも知ってるっしょ?健康の為に鍛えてるとか言って、実戦で使ってるとこ見たことないじゃん」
だからもし、不意打ちなどをされていたのなら碌に抵抗できずにいただろう。シリスはそれを心配していた。
無事なのだろうか、怪我をしているのか。
───最悪の事態に陥っていないだろうか。
考えてしまった最悪に、シリスの顔が徐々に強張る。
ヴェルもそれを気にかける気持ちは同じだが、2人して心配しているだけでは、何も出来ないことは十分にわかっている。
「んなの知ってるけど、過ぎた出来事を反省してるタイミングじゃないってのは分かるだろ」
「……うん」
「ここには2人はいなかった。エミリオさんは時計守っつってたし───次に探すアテは時計塔くらいだ。鏡像が出てたのを隠してた中心かもしれないし、何か隠すならもってこいだし」
「でも臥せってるなんて言われてる人が、そこまでグレゴリーさんを連れて行ける?クマだよ、あのヒト」
「その臥せってるってのも、本当に体調悪いのかわかんないだろ?エミリオさんが身体強化とかの魔術を使える可能性だってある。」
肩を竦めてヴェルは言う。
未だ釈然とせず、繋がらないピースばかりが手元に揃っている。思考をめぐらせれば、ピースは正しい居場所を探して彷徨うが、どこにも今ひとつうまく嵌まらなかった。
「グレゴリーさんが帰って来なかったのは夜中だし、パレードの時以外で時計塔に人は集まらない。それに、あれだけの人形を収容してんだ」
「……ヒト1人隠すくらい造作もなさそうって事ね」
「いま得た情報で可能性が少しでもあるトコに行くしか、俺たちに選択肢はないだろ?」
1人では判断が不安なことも、悩むことも多いのが外の世界での任務だ。
だからこそ、特に初めての任務ではお互いをカバーするためのペアを組む。ただでさえ今回自分達は他の誰でもない身内を当てがわれた。何よりも信頼できる、片割れを。
歩みが止まろうはずもない。
「そうだね」
パンッ、と軽く両頬を叩いてシリスは強く頷いた。
「行こ、時計塔まで」
声を出して歩を進める姉の背を見ながら、ヴェルも後を追って中に入り込んだ。
家の中は小綺麗で掃除が行き届いていた。
玄関に入ると、そこには応接用と思われるキルティング生地のソファと木のローテーブルが真ん中に設置されていた。奥の方に階段ともう一つ部屋があり、食器棚が見えることからそこはリビングなのだろう。
「エミリオさーん、入りますよー」
姉に続いてヴェルは気の抜けた声を投げかけるが、相変わらず返事はない。聞こえるのはたまに吹く風が窓を揺らす微かな音だけだ。
入る時にこそ後ろめたさは残っていたが、いざ入ってしまえばそれも薄れてしまう。
ヴェルは躊躇いなく奥の部屋へ向かい、そこに誰もいないことを確認した。
先程の見えた食器棚と木製の机、椅子。カウンターキッチンの奥には棚があり、調理用品が綺麗に整列されていた。食器も机も椅子も、一目で品がいい事がわかるように細やかな細工や模様が施されているが、それらは全てが綺麗に片付けられている。
つまり、食器などはつい最近に使われた形跡などは見られなかった。洗ってすぐ片付ける性格であればわからないが、臥せっているような人物が果たしてそこまで丁寧にするかは、ずぼらなヴェルにとって疑問である。
「ヴェルー、なんかあった?」
「なにもー」
片付けが綺麗すぎる疑問はまた後で考えればいい。シリスに収穫がないことを答えると、ヴェルはリビングを出て階段前で上を見上げるシリスの元へ向かった。
「全部綺麗に片付けられてたって事くらい。そっちは?」
「こっちは相変わらず音もしないなって感じ。上からもなんも音しないし」
シリスの言葉につられてヴェルも階段を見上げた。
上り切った先は白い壁だ。その先は廊下だろうが部屋だろうが、左右に分かれているのだろう。
「エミリオさーん」
───最後の確認と、階段上に向かって投げかけたヴェルの声にもとうとう返事はなかった。
ここまで来ると、言葉を交わさなくても2人の間には同じ感想が湧き起こる。即ち、やはり怪しいという一点だ。
昨日搬送された後に戻って来たと、グレゴリーも言っていた。それだけ体調が悪い人間が家を留守にするのはやはりおかしい。
エミリオはどこに行った?
彼を訪ねたグレゴリーは?
疑問は次々に湧いてくるが、それを解消するためには一つしか方法はない。
「上も調べてみるか」
とりあえず調べ続けるしかないのだ。少なくとも、グレゴリーの行方のアテが現状ここしかないのだから。
2人は階段を上りその先を確認する。思った通り、階段を上り切った先は廊下が左右に分かれており、その先にはそれぞれ扉があった。左の扉は開け放たれており、一方右の扉は固く閉ざされていた。開け放たれた部屋の向こうからは相変わらず人の気配もしなければ物音もなく、誰かが寝ていそうな雰囲気は全くといっていいほど伝わってこない。
ヴェルは向かって右側の部屋に向かい、無遠慮に扉を開けてひょいと中を覗き込む。
「あ、ここ寝室っぽい」
部屋の中には1階と同じく品のいい棚や調度品が設えられており、カーテンのかかった窓の脇にはシワ一つないベッドが置かれていた。遮光性があまりないカーテンの隙間から漏れる明るい光で部屋の中に暗さを感じることはない。しかし、人が住んでいるはずなのに生活感を感じられないその様相に、少しばかり気味の悪さすら覚えてヴェルは顔を歪めた。
例えるならば───
そうだ、引っ越し前の新居が感じとしては近い。ヴェルは見習いになったのを機に一人暮らしを始めた友人の事を思い出す。
彼の引っ越しを手伝った際に訪れた部屋はまさにこんな感じだった。荷運びを終えるまでは親元だからと、まだ使わずに整えられたベッド、机に椅子。開けられた様子もない戸棚、引き出し。その時の光景と似ている気がした。
友人の引っ越しの時と違い、荷解きされていない箱の山がないだけだ。なのにこんなにも受ける印象が違う。
「……ちゃんとここに住んでんのか?」
生活感を感じられない部屋は、まるで人間の生活を外側だけ模したような───
「ヴェル!!」
緊迫した姉の呼び声に、ヴェルは弾かれたように身を翻した。部屋から飛び出せば短い廊下の先に向かい側の部屋が見える。
「どうした!?」
迷わずそこに足を踏み入れれば、シリスはヴェルに背を向けるようにして部屋の奥に位置する机の前に立っていた。
部屋の中には乱雑にいくつもの紙が散らばり、あるものは踏まれたのか握り潰されたのか端々がグシャリと歪んでいる。避けていくのも億劫で、どうせ既にヨレているのだとヴェルは散らばる紙を避けもせずに机に近付いた。
その机はリビングにあるようなものと違い重厚感があり、近付くと非常に硬そうな木材でできているのがわかる。
磨かれた机の上にも紙は散らばっているが、床のように乱雑ではなく元々は積み上げられていたのではという事を窺わせた。転がるペンや付箋を見るに、これは執務机といったところか。
「ヴェル、これ」
シリスから、手にしていた何枚かの紙を束にして渡される。ヴェルが受けとれば、それには守護者への救援を嘆願する文字がさまざまな筆跡で書かれていた。短い文言ながらも署名までされたその紙は数枚に渡り、最後の紙にはこう記されてあった。
「"以上が住民からの要望の一部となります。つきましては、町長には一刻も早い守護者様方への救援を要請頂くよう申し上げます"……」
「その下」
「"なお、以下は我々自警団が鏡像を目撃、処理した箇所を印しております。いま一度、時計塔の精査についても許可をいただきたく思います"」
読んでいるうちにヴェルの顔が険しくなっていく。そして文字の下に添付されたミニマップとそこに赤いインクで書き込まれたチェックマークを理解すると、思わず顔を上げてシリスを見た。
「これって……」
「少なくとも、エミリオさんは知ってたって事だよね?
……時計塔を中心に鏡像が出てる事」
赤い印は"時計塔"と書かれた場所を中心に密集し、そこから離れるほどに密度を薄くしていく。ヘリオが襲われた場所は丁度印が濃い箇所だった。
「よくもまあ、これだけ現れてんのに隠せてたな?3ヶ月前からの蓄積だとしても、けっこう多いと思うけど」
「だからこその嘆願書じゃない?そろそろ隠すのにも限界が来てたんでしょ」
ヘリオの父がこの分布図を知っていたかは分からないが、たぶん知らなかったのだろう。そうでなければ、目撃情報が固まる場所に息子を近付かせたりしないはずだ。彼は客から聞くこともあったというが、あまり大っぴらに情報を話せない状況だったと言っていた。目撃箇所が多い場所なんてものは、共有されていなかったのかもしれない。
「グレゴリーさんがこれを見たかはわかんないけど、問題は───」
その時、大きな鐘の音が窓の外から響き渡る。
昨日聞いたばかりのその音は間近で聞いた時のような突き上げる迫力はない。それでも聞こえる鐘の音は軽やかでどこまでも大きく、屋内にいるヴェルとシリスにもしっかりと届いた。
2人が思わず窓へと目をやり、十数秒と経たないうちに鐘は余韻を残して音を止める。
後に残るのは家に入った時と同じく違和感さえ感じる静けさ。
ぽつり、と漏れ出たシリスの呟きは静まり返った部屋の中で不自然なほどによく聞こえた。
「……問題は、こんな明らかなものを置いてエミリオさん本人もグレゴリーさんも居ないこと」
訪れたはずなのに、姿のないグレゴリー。
臥せっているという話のはずなのに、同じく姿のないエミリオ。
グレゴリーが魔術を使った形跡は無いが、他の部屋に比べて散らかった部屋。この場で何かトラブルが起こった可能性は高い。
不在のエミリオが関与をしているのか現時点では確信できないが、ここまで怪しい点が一致していると疑うなという方が不自然だろう。
「こんな事なら、グレゴリーさんに発信用のエーテルリンク渡しとくべきだったかも」
「無理だろ。どういう前提があるにしろ、見習いの俺らが持つことになってたに決まってる」
「でもあの人の筋肉がハリボテなの、ヴェルも知ってるっしょ?健康の為に鍛えてるとか言って、実戦で使ってるとこ見たことないじゃん」
だからもし、不意打ちなどをされていたのなら碌に抵抗できずにいただろう。シリスはそれを心配していた。
無事なのだろうか、怪我をしているのか。
───最悪の事態に陥っていないだろうか。
考えてしまった最悪に、シリスの顔が徐々に強張る。
ヴェルもそれを気にかける気持ちは同じだが、2人して心配しているだけでは、何も出来ないことは十分にわかっている。
「んなの知ってるけど、過ぎた出来事を反省してるタイミングじゃないってのは分かるだろ」
「……うん」
「ここには2人はいなかった。エミリオさんは時計守っつってたし───次に探すアテは時計塔くらいだ。鏡像が出てたのを隠してた中心かもしれないし、何か隠すならもってこいだし」
「でも臥せってるなんて言われてる人が、そこまでグレゴリーさんを連れて行ける?クマだよ、あのヒト」
「その臥せってるってのも、本当に体調悪いのかわかんないだろ?エミリオさんが身体強化とかの魔術を使える可能性だってある。」
肩を竦めてヴェルは言う。
未だ釈然とせず、繋がらないピースばかりが手元に揃っている。思考をめぐらせれば、ピースは正しい居場所を探して彷徨うが、どこにも今ひとつうまく嵌まらなかった。
「グレゴリーさんが帰って来なかったのは夜中だし、パレードの時以外で時計塔に人は集まらない。それに、あれだけの人形を収容してんだ」
「……ヒト1人隠すくらい造作もなさそうって事ね」
「いま得た情報で可能性が少しでもあるトコに行くしか、俺たちに選択肢はないだろ?」
1人では判断が不安なことも、悩むことも多いのが外の世界での任務だ。
だからこそ、特に初めての任務ではお互いをカバーするためのペアを組む。ただでさえ今回自分達は他の誰でもない身内を当てがわれた。何よりも信頼できる、片割れを。
歩みが止まろうはずもない。
「そうだね」
パンッ、と軽く両頬を叩いてシリスは強く頷いた。
「行こ、時計塔まで」
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