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乙女ゲームからエスケープ! 留学します!

入寮式

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 その食卓は、あまり目にしたことのない珍しい料理が大皿にたっぷり盛られた状態で所狭しと並べられていた。

 主催側のアナウンスによると、世界各国の郷土料理との事。
 隣、或いは向かいに座る他国出身の者との会話のきっかけになると良い、そういう配慮と、慣れない場所でも一つくらいは食べ慣れたおかずでホっとできればいい、という思いやりからの献立らしかった。

 美味しそうな料理を前に、長々と「有り難いお話」を垂れて恨まれたい者も居らず。

 「寮長のベルントだ。
 寮の管理が仕事だが、あくまでそれは建物や設備面、外部との折衝の話。
 寮生同士のいざこざやなんかは全て自治会の領分だ。
 そこの所は間違えぬよう。
 ただし、便所詰まりや空調の故障等については遠慮なく、可及的速やかに申し出るように」

 「寮母のバルバラよ。
 私は寮生の生活の管理がお仕事ですけれど、それはあくまで健康面や郵便や荷物の受取り等の業務の話。
 寮長同様、量の規則による手続きの詳細等に不満がある場合は自治会を通して下さいね?
 でも、風邪を引いたとか、或いは悪質な訪問販売や不審な郵便物があった場合はすぐに私に相談しなさいね」

 「学生寮自治会の会長、ハイノだ。
 学生寮自治会は、つまりは学校における生徒会のようなもの。
 この国際高等学院はほぼ全寮制故に、生徒会とも連携を取ることが多くなるが、あくまで別組織。
 基本寮則の管理徹底や寮でのイベントの主催をしている」

 「学生寮自治会副会長――別名監督生総長でもあるマックスだ。
 後のオリエンテーション時に、各ハウスごとに一人、代表を選んでもらう。
 その中から列毎に一人監督生を出してもらう。
 そして俺はその監督生を纏める役を負っている、という訳だ。
 まあ、学級委員長の様なものだな。
 面倒な役ではあるが、後の役に立つ経験ができるかもな?」

 と、軽い挨拶だけすませた入寮式は早速宴会の部へと移っていく。

 「おー、美味ぇ、これ超美味い!」
 ほっぺたをパンパンに膨らませ、鶏肉と豆、ナッツの甘辛炒めを頬張るのは鼠獣人のライナー=リーツ。
 リオン帝国傘下のラットリア王国出身だと言う。

 「俺の国は砂漠ばっかりだからな。大したモンは作れねぇが、ラッキョと梨、あとは地下でモヤシときのこは採れ放題だったぜ?
 ま、俺の家は食品加工業が家業だったけど。
 ここへは新しい加工品のアイディアを勉強して来いってのと、新しい販路に、なりそうな人脈を築いて来いって言って送り出されてきたんだ」

 ……取り敢えずナッツをはむはむするライナー君が可愛くてたまらないのだけど。
 その隣で野菜スープを黙々と食べているのは、竜人族のテオ=ドレヴィス。
 スープはコンソメ味で味はしっかりしているけど、こってり系ではなくあっさりめの味付けだ。

 「……なんか、大ぶりの骨付き肉とか齧る方がイメージなんだけど。俺らの所じゃ兎獣人が喜びそうなメニューをさっきから随分美味そうに食ってるな?
 どれ……、うんまぁ美味いけどちょっと物足りないな……」

 「ふむ。……俺の故国も農業にはあまり適さない地で、しかし大型の獣は頻繁に現れるので、肉食がメインだったな。
 しかし肉と言うのはあまり保存が利かず、保存食にすると水無しには食えない塩辛い代物になる。
 この様な料理は……何と言うか染み渡るな……と」

 見た目は筋骨隆々で厳しい顔つきなのに、何だか悟りきった大人の男の余裕の垣間見える御仁だ。……お歳は私達と大差ないはずなのに。

 「故国の環境が環境だけに、冒険者で生計を立てる者が多く、俺もその道を進むことを望まれたからな。
 身体を動かすことは嫌いではないが、しかし冒険者と言うのは浮き沈みも激しい。その様な博打打ちの如き暮らしをしたくなくてな。
 他の可能性を探るために留学を望んだのだ」

 この学校に来る人だけあって、やっぱり皆それなりの目的があるんだなぁ……。
 私も頑張らないと、うかうかしてると置いていかれそうだなぁ。
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