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乙女ゲームからエスケープ! 留学します!
旅立ちの日に
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その日。屋敷のロータリーに入って来たフライハイト王国の紋章入の馬車に似を運び込むのは侯爵家の従僕達だが。
私達の見送りに出てきたのはお義母様と義弟だけ。
お義父様である侯爵は、いつもの如くここ暫く屋敷に戻らぬ毎日で。
今日も例に漏れず不在である。
「忘れ物はないわね?」
「はい、母上。昨日のうちに確認は全て終えております。
ニクラス、私は当分の間屋敷を留守にしますが、次期侯爵家当主としての自覚を持ち勉学に励みなさい。
そして、母上をお助けするのですよ。
何か困った事があれば何時でも手紙を書きなさい。
それで解決すると保障は出来ませんが、可能な限りは尽力すると約束しましょう」
「はい……姉上……」
しょんぼりしつつも何故かロジーネお義姉様ではなく私にチラチラ視線を向けてくるニクラス。
「何ですか、ニクラス。フィーネに言いたいことがあるなら堂々とお言いなさい、男らしくありませんよ」
「う……、その、時々で良いので、お菓子、送ってくださいお願いします!」
「まぁ、ニクラス……。でも……分かりますわ! フィーネの作る料理は貴族の食卓に上げるには少々質素なのですけれど、美味しくてついまた食べたくなる味ですのよ!
それが暫くお預けになるのは確かに哀れですわ……。
フィリーネ、可能な限りで構わないから、日持ちのするお菓子をたまにニクラス宛に送ってくれないかしら?」
「ええ、構いませんよ? ただ、材料は当然あちらのものを使うので、少々味が異なる場合もあるかと思いますが、その点ご承知いただけるなら」
「承知する、承知するからお願いします!」
「ふふふ、ニクラスってばフィリーネに見事に餌付けされたわね」
「む、それはロジーネお姉様も人の事は言えないと思います!
僕は知っているんですよ、夜のお勉強の合間にフィリーネ義姉様のお手製クッキーと紅茶が欠かせないって!」
「こ、こら、ニクラス!」
「ははは……。あちらのキッチンの勝手が分かり次第、何かお作りしますね……」
どうやら悪役ヒロイン回避の策の一つ、餌付け作戦は思った以上の効果があったらしい。
姉弟同士のイチャイチャが落ち着くのを待って、私達は改めて馬車に乗り込む。
「気をつけて、行ってらっしゃい」
「はい、行って来ます。母上……」
「行ってらっしゃいませ、お姉様、フィリーネ義姉様」
「行って来ます、ニクラス」
そして侯爵家のロータリーを出発し侯爵家を出た馬車は、そう経たずに港へ到着する。
港にはすでにマルグリット様の馬車が到着していて、港の職員が忙しく荷物を積み込んでいる。
彼女の荷物もやはり馬車一台分はあるらしい。
私達の荷物もまたテキパキと船へ運び込む職員さんにお礼を言いつつ、マルグリット様とお喋りを楽しんでいると、ジークリンデ様の馬車が港へ到着した。
こちらは三台の大所帯。
まぁ、公爵令嬢だしお付きも二人居るから妥当……ではあるのかな……。
どうもまだその辺の常識には疎いようで。
「待たせたかしら?」
「いいえ、私達も先程来たところですわ。一番早かったのはマルグリット様ですわね」
「お嬢様はご令嬢にしては身支度が早いですからね」
「まあ、日頃軍の男所帯と共に在る事が多くなりがちだから、な」
そして最後に。
「うわ、もう皆居るし。僕が最後か……」
「ニシシ、女より支度の遅い男ってのも珍しいよネ~?」
「ははは。済まないね、お嬢さんがた。最後まで往生際の悪い古狸の片付けに少々手間取ってしまってね、遅刻しなくて良かったよ」
と。ミヒャエルとジョゼフィーネ様、それに見送りにまさかのフライハイト王国の大使様がやって来た。
港に停まるのは、受験の日に乗った船と同型の船だ。
「是非、我が国での毎日を存分に楽しみ、君たちの人生に有益な糧としてくれる事を期待しているよ」
「ありがとうございます、大使様」
「ええ、色々とご尽力頂いたこと、感謝しておりますわ」
そして、船は出港の汽笛を鳴らす。
こうして、私達は祖国セイントランド聖国の地をはなれ、隣国フライハイト王国へと、正式に旅立ったのだった。
私達の見送りに出てきたのはお義母様と義弟だけ。
お義父様である侯爵は、いつもの如くここ暫く屋敷に戻らぬ毎日で。
今日も例に漏れず不在である。
「忘れ物はないわね?」
「はい、母上。昨日のうちに確認は全て終えております。
ニクラス、私は当分の間屋敷を留守にしますが、次期侯爵家当主としての自覚を持ち勉学に励みなさい。
そして、母上をお助けするのですよ。
何か困った事があれば何時でも手紙を書きなさい。
それで解決すると保障は出来ませんが、可能な限りは尽力すると約束しましょう」
「はい……姉上……」
しょんぼりしつつも何故かロジーネお義姉様ではなく私にチラチラ視線を向けてくるニクラス。
「何ですか、ニクラス。フィーネに言いたいことがあるなら堂々とお言いなさい、男らしくありませんよ」
「う……、その、時々で良いので、お菓子、送ってくださいお願いします!」
「まぁ、ニクラス……。でも……分かりますわ! フィーネの作る料理は貴族の食卓に上げるには少々質素なのですけれど、美味しくてついまた食べたくなる味ですのよ!
それが暫くお預けになるのは確かに哀れですわ……。
フィリーネ、可能な限りで構わないから、日持ちのするお菓子をたまにニクラス宛に送ってくれないかしら?」
「ええ、構いませんよ? ただ、材料は当然あちらのものを使うので、少々味が異なる場合もあるかと思いますが、その点ご承知いただけるなら」
「承知する、承知するからお願いします!」
「ふふふ、ニクラスってばフィリーネに見事に餌付けされたわね」
「む、それはロジーネお姉様も人の事は言えないと思います!
僕は知っているんですよ、夜のお勉強の合間にフィリーネ義姉様のお手製クッキーと紅茶が欠かせないって!」
「こ、こら、ニクラス!」
「ははは……。あちらのキッチンの勝手が分かり次第、何かお作りしますね……」
どうやら悪役ヒロイン回避の策の一つ、餌付け作戦は思った以上の効果があったらしい。
姉弟同士のイチャイチャが落ち着くのを待って、私達は改めて馬車に乗り込む。
「気をつけて、行ってらっしゃい」
「はい、行って来ます。母上……」
「行ってらっしゃいませ、お姉様、フィリーネ義姉様」
「行って来ます、ニクラス」
そして侯爵家のロータリーを出発し侯爵家を出た馬車は、そう経たずに港へ到着する。
港にはすでにマルグリット様の馬車が到着していて、港の職員が忙しく荷物を積み込んでいる。
彼女の荷物もやはり馬車一台分はあるらしい。
私達の荷物もまたテキパキと船へ運び込む職員さんにお礼を言いつつ、マルグリット様とお喋りを楽しんでいると、ジークリンデ様の馬車が港へ到着した。
こちらは三台の大所帯。
まぁ、公爵令嬢だしお付きも二人居るから妥当……ではあるのかな……。
どうもまだその辺の常識には疎いようで。
「待たせたかしら?」
「いいえ、私達も先程来たところですわ。一番早かったのはマルグリット様ですわね」
「お嬢様はご令嬢にしては身支度が早いですからね」
「まあ、日頃軍の男所帯と共に在る事が多くなりがちだから、な」
そして最後に。
「うわ、もう皆居るし。僕が最後か……」
「ニシシ、女より支度の遅い男ってのも珍しいよネ~?」
「ははは。済まないね、お嬢さんがた。最後まで往生際の悪い古狸の片付けに少々手間取ってしまってね、遅刻しなくて良かったよ」
と。ミヒャエルとジョゼフィーネ様、それに見送りにまさかのフライハイト王国の大使様がやって来た。
港に停まるのは、受験の日に乗った船と同型の船だ。
「是非、我が国での毎日を存分に楽しみ、君たちの人生に有益な糧としてくれる事を期待しているよ」
「ありがとうございます、大使様」
「ええ、色々とご尽力頂いたこと、感謝しておりますわ」
そして、船は出港の汽笛を鳴らす。
こうして、私達は祖国セイントランド聖国の地をはなれ、隣国フライハイト王国へと、正式に旅立ったのだった。
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