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私、ざまぁ系ヒロインに転生してしまったかも……!?

頭がおかしくなった訳ではありません!

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 「私、ヒロインかもしれなくて」

 「……えーと?」
 彼、ミヒャエルは口をつけようしていたティーカップを静かにソーサーに戻してフィリーネを見た。

 「それも、ざまぁされちゃう系のヒロインかもしれなくて」
 「……うん?」

 「つまり、だからね。私、破滅したくないんだけど、どうしたら良いと思う、ミヒャエル?」

 天気の良い休日の昼時とあって、聖都は大勢の人で賑わっている。
 正門通りから一本入った裏通り沿いの商店街の一画にあるカフェの周辺は特に買い物を楽しむ家族連れや、学園も近いことから友人同士で連れ立って歩く人の姿も見受けられる。

 ミヒャエルに連れられて入ったこのカフェも品の良い店ではあるけれど、変に格式張っていないカジュアルな店。
 白い無地のシンプルなカップの取っ手に指をかけたまま、ミヒャエルは返答に困ったように金の瞳を彷徨わせる。

 「ごめん、何言ってるかよく分からないんだけど」

 「……そうね、ごめんなさい。頭のおかしい女と思われるの承知で、でも私一人じゃどうしようもないから、義両親や義姉でなくあなたに相談してるのよ」

 そう。私に前世の記憶がある。

 私は前世では飲食チェーン店の雇われ店長だった。
 元々美味しい物を食べるのが好きで、進路もその方向に進みたくて、調理系の高校と栄養学系の大学を出た。

 ……そのままどっかのレストランにでも就職していればこうはならなかったかもしれない。

 しかし実際は安定した就職先をと親に懇願され、たまたま内定の出ていた大手飲食チェーンに就職してしまったのが運の尽き。
 安定どころか、その中でも雇われ店長なんて社員の中じゃ下っ端も良い所な役職でコキ使われて。
 元々からしてぽっちゃり系女子だったのが、ブラックな職場で不摂生を重ねて立派なデブスに進化し、さらに生活習慣病にまでなった。

 ……私の死因はたぶん薬の飲み間違い。血糖値コントロールの薬を多く飲みすぎて低血糖で死んだんだ。
 だって、やっと取れた僅かな休憩時間に薬を流し込んだその後の記憶が無いんだもの。

 まぁそんな中昼も夜もなく働かされていた私に、勿論ゲームなんてやれるだけの纏まった時間なんかある訳がない。
 乙女ゲームだって、知識としてそういうジャンルは知っていたけれど、プレイした事は無かった。

 そんな私の忙しい合間のスキマ時間の暇つぶしは、ネット小説。
 スマホ一台あればいつでもどこでも無料でちょこちょこ好みのジャンルを読める。

 そんな中にあったのが、元ネタが乙女ゲームの二次小説。

 元ネタの乙女ゲームはもう使い古された鉄板ストーリー。不幸な生まれのヒロインがお貴族様に拾われて貴族学校へ通い、イケメン攻略対象とハッピーエンドを目指す、ありきたりなゲーム。

 ……だったのだが。

 原作の攻略対象のキャラがどうにもプレイヤーには受け入れ難かったらしく。
 逆にヒロインのライバル役として出てくる攻略対象の婚約者達、いわゆる悪役令嬢に惚れ込むプレイヤーが多く出るという。

 そこで原作以上に話題になったのが、これまたネット小説界では珍しくもない、ヒロインが転生者で調子に乗りすぎ悪役令嬢に逆ざまぁされる系の小説だ。
 勿論ネット小説だから出回った小説の出来はピンキリだったらしいが、私が読んだのは評判が特に良く、二次小説でさえなければコミカライズくらいかかったかも? と言うくらい人気だった小説だ。

 ただ、お茶会で気づいた悪役令嬢3人組とその婚約者の名前だけなら元ネタ乙女ゲームの世界、と言う線もあったんだけどね。
 決定的なのは、私の髪色。

 元ネタ乙女ゲームでは、プレイヤーがヒロインに自己投影しやすいようにあえて顔が描かれず、髪も茶髪のハーフアップと別段特徴のないものだった……のに対し、悪役として描かれた二次小説ではお約束のように淡いピンク髪にされていた。

 ――そう、まさに私の様な。

 でも、私はお義姉様の婚約者にも、他のお二方の婚約者にも興味はなく、むしろ平穏な生活を送りたいだけ。
 逆ハー?
 興味ないどころかそんな面倒くさい展開なんて冗談じゃない。

 「と、言う訳なんだけど。……どうしたら良いと思う、ミヒャエル?」
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