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私、ざまぁ系ヒロインに転生してしまったかも……!?

お義姉様は治癒魔法の使い手です。

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 「うわぁ、さすが聖都の教会だわ……。色々と豪華で……、私の知ってる教会じゃない」

 王城を背景にした広場から階段を上った先にある、美しいステンドグラスが特徴的な三角屋根の建物。
 参拝に訪れる人々が階段で列を作っている。
 礼拝堂横のエーテル石の取り扱い窓口には、愛想笑いの神職が業務に当たっている。

 フィリーネの知っている教会といえば。
 建物の造りこそ周囲のあばら家より余程頑丈だったが装飾皆無な簡素な教会に、やる気のない神職が一人いるだけ。
 教会の主な業務である冠婚葬祭の儀式や鑑定の儀式すらなぁなぁで。
 エーテル石の売買すら誤魔化しやちょろまかしが横行する、そんな場所だったのに。

 「フィリーネ、呆けてないでついてらっしゃい。今日は参拝の為でなくご奉仕の為に来たのですから、きっちり働いてもらいますよ」
 どこもかしこも装飾でキラキラ輝く廊下を先に立って姿勢良く歩く義姉と、今日この場所へ来ているのは、貴族としての義務を果たす為。

 ガイアと言うこの世界唯一の神を祀り称えるウィルガイア教の、総本山である中央教会と比べればここですら質素と言えるかもしれないけれど。

 治癒魔法や炊き出し目当てに集まってくる人々は。
 フィリーネが知っている、本当に貧しく飢えた人々に比べれば、髪の艶もあり、肌も綺麗。肥えてこそいないが、骨皮筋男さんと呼びたくなるような人は誰ひとり居ない。

 まぁ、治癒魔法は光属性素養があって、少なくとも光の妖精の力を借りられなければ使えないから。
 それを使えるお義姉様はその数少ない治癒魔法を使える方で、その恩恵に預かりたい人が居るのは分かるんだけど。

 その為のお金と明日以降の食費を天秤にかけなければならない程貧した人や、日々の食事にも困るような人が、こんな中流階級の人が多く暮らす地区の教会に来るはずがない。

 しかし。
 「おぉ、ロジーネ様。本日もよろしくお願い致しますますぞ!」

 と、見事な太鼓腹を重そうに抱え、ダルダルの二重アゴをタプタプさせながら笑う、この教会の神職から見れば、この人達も哀れな貧民……なのだろう。
 いや、むしろ本当の貧民はゴミとすら思っているかもしれない。

 思うところはあっても、小娘一人ここで騒いだところで無意味だ。
 フィリーネは、粛々と義姉を手伝う。

 詰めかける人々を宥めて並ばせ、順番が来た人に症状を聞き出し、治療が済めば速やかにご退室願う。
 ……治癒魔法は、光の素質の無いフィリーネには出来ないから、包帯を巻いたりだとかの雑用を行う。
 幸い、そういう事には慣れていた。

 そして、ようやく列が途切れると。
 「いやはや、毎度ご苦労様でございますなぁ。貴女の様な美しい方に治癒魔法をかけて貰えるとは、幸運な者達でしたな。さぁさ、あちらに茶の支度が整っておりますれば、ごゆるりとお過ごしくだされ」

 と、神職が接待モードに切り替わる。
 
 「ありがとうございます。……ですが、それはまた次の機会に」

 そう、私達は貴族の義務を果たしに来ただけなのだから。
 しつこく引き止められる前にとそそくさと教会を出る。

 門扉に掘られた精霊女王ティタニア様を背に、広場へ降りる階段を降ると。

 「フィリーネ!」
 にこやかに手を振る、懐かしい友人の姿があった。

 「あ、」
 いつも薄暗い路地でばかり会っていたから、知らなかった。
 明るい日差しの下で見る彼の黒髪が、こんなにも艷やかだったなんて。あの八重歯の様にも見える牙を覗かせた笑顔が、あんなにも無邪気でキラキラして見えるなんて。

 「……今日の仕事は終わったんだし、少しくらいは目こぼししてあげるわ。広場の向こうに停めた馬車が私達を拾いに来るまでの間くらいはね」

 サッと私から離れて歩くお義姉様。

 「久しぶりだな、フィリーネ。手紙、読んでくれた?」
 「……ええ。そうね、貴方がこんな所に居るなんて驚いたわよ、ミヒャエル」

 だって。彼と出会ったのはここ、セイントランド聖国の首都である聖都から遠く離れた街の歓楽街、というかむしろ娼館の建ち並ぶ裏通りで。
 ただでさえ治安の悪い領のガラの悪い街の特に不穏な地域で。
 貧民街で暮らす孤児も珍しくなかったから。

 だから、いつも一人で居る彼を、フィリーネは孤児だと思っていたのに。
 彼のその装いはどう見ても孤児には見えなかった。
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