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この世界の生き方

宿屋にイン

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    ようやく街らしい街に着いた。
    日が暮れて、門が閉まる少し前に滑り込みセーフで入れた。

    冒険者登録をした町もあの辺りの農村に比べれば店も多く賑わっていたが……

   「けど、これはこの世界の大きな街の宿命なのかしら?」

    ここは見渡す限り店と住宅が建ち並び、道も石畳で舗装されている綺麗な街――なのだが。
    王都に比べれば慎ましやかではあるが、しかし……臭い。王都に比べれば多少マシだが、やはり糞尿臭い。

    あの町ではそれらを近隣の農村で使うため、農夫が定期的に回収に来ていた為かそこまで臭いは気にならなかったのだが。

   「……まぁ、いい。途中で仕留めた獲物を売って、情報収集だ」

    その為に来た街なのだから。

    冒険者ギルドで素材を卸し、ついでに調べ物ができそうな場所を世間話ついでに聞き出すと、どうやら貸本屋があるらしい。

    なら、二、三日宿をとってそこへ通うか。

    まずは部屋を押さえるべく宿を探す。
    花屋に飯屋、飲み屋に茶屋。診療所もある。自警団らしき詰め所に薬屋に。

    ああ、あった。宿、アレか。
    看板が出ている。
    「いらっしゃーい」
    「三日泊まりたいんだが、部屋は空いているか?」
    「うーん、空いてるけどあと一部屋だけだね。朝食だけなら一泊銀貨二枚、夕食も食べるなら三枚、素泊まりなら銀貨一枚と銅貨五枚だよ」

     さて。どうするかな?
    「……アンタどうせ昼間は寝てるじゃん。だったらその間私は外出てるし。良いよ、一緒の部屋で」
    つまり夜は俺に外へ出てろと。
    ……まぁ、昼に出歩けない以上はそうでもしないと俺の仕事が無くなるからな。

    「じゃ、三泊朝夕飯付きで」
    この世界に来て、初めてベッドでゆっくり眠れる。
    その誘惑には勝てそうになかった。
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