現代に生きる吸血鬼が異世界に勇者として召喚されたました。

不揃いな旅立ち

運命の選択

    本当はもっと考えを詰めておきたかったのに、話を有耶無耶にされて、ランプの灯りを消されてしまった。

    ……すると、カーテンも無い窓があるのに、訪れたのは真の闇。
    いつも部屋の電灯を消しても、すぐに目が慣れ、慣れた目には充分な明かりが外から入ってきていたのに、ここはそんなことはなく、カーテンどころかシャッターを閉めきった部屋の様に真っ暗で。

    私は普段の癖でスマホを手にスイッチに触れた。
    すぐに明るい画面が灯る。……電池残量が気になるけど仕方ない。

    ふと見ると、あり得ない光景が目に入った。

    「何、してるの」

    “レッド”の片腕の肘から先が無くなってる。
    ……いや、よく見ると、モヤモヤと手の形をした黒いモヤみたいなのになってる？
    ――何か、スキルの効果とか？
    だとしても何で今このタイミング？

    「……答える気は無い。そんな義務もないしな。俺は取り敢えずここから逃げる選択をする事にした、そしてその手段を俺は持ってる。それを行使するだけだ」

    この男、一人で逃げる気だったらしい。

    全く男らしくない。
    が、今は非常事態。他人に構って共倒れを厭う気持ちは分からなくはない。

   「が、騒がれるのも迷惑だ。この城を出るまでは手を貸してやっても良い。が、あくまで俺が面倒を見るのは城壁の外に出るまでだ。その後の責任までは負わねぇぞ」

    今、この男に従って何も分からない世界に一人で飛び出すか、それとも未来の定かでないこの場に残って運命に流されるのか。

   「選べ。のんびり待つ余裕は無い、今すぐに答えろ」
   「なら、連れていって」
   「――舌、噛むなよ。あと声を出すな、気付かれるからな」
    「は？」

    不意に。
    ジェットコースターやエレベーターに乗った時に腹に感じる不快感が、浮遊感と髪を乱す風と共にやって来て。

    私は男に担がれ何もない空へとダイブさせられていた。