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終焉

神々の裁判

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    「……全くだな」
   吠えた和貴に爺様が同意を示す。
   「ワシは神だ。……そこの彼女が元居た世界の神だ」
   そして、言い放った。
   「彼女は特に目をかけていた娘だ。……哀れな身の上に生まれ育ちながら、それでも強く生きておった。これからようやく幸せが訪れようとしたところを異世界へさらわれてしもうた。……それでも、彼女は強く生きた。その結果がこれとは、無念にも程がある」
    パチパチと怒りのオーラが弾け飛び、その余波に当てられた者達が倒れ伏す。
    「そこな木っ端女神なぞ神界では下っぱも下っぱよ。それゆえの搾取であったと言うに、それを自らの民には明かさず、上位の世界の者に責任を押し付け自分は見て見ぬ振りとは、我らが神界も黙って見過ごす訳にはいかん」
    むんずと女神を掴む。
    「これより、神界に於いての裁判を行う。……女神に下される罰はそのままこの世界の罰よ。そのつもりで待つが良い!」
   「うひゃ、そんな……待って!    ああ!」
    そんな叫びを残して二人の姿がかき消えた。
   残された人々に不安を残して……。
   「和貴!」
   「無事ですか?」
   「申し訳ない……!    どうしても仲間を振りきれず……!」
   ようやくたどり着いた王子達が見たのは、煙をあげる空の処刑台と、魂を失ったように項垂れる和貴の姿だった。
   「これは……」
   絶句する王子達。
   「ええぃ、解散だ!    お前達は会議に出席しろ!」
   側近に声をかけ、慌ただしく去っていく第二王子を黙って見送りながら、遺体の消えた処刑台を眺める。
    「……とにかく和貴を寝かせましょう。傷の手当てもしないと」
    のろのろと、時間が過ぎていく。
   その様を上から見ていた和貴は、己の魂を引き抜いた張本人をじろりと睨んだ。
   「……お前には頼みたい事があったのでの」
    しかし彼は飄々と言ってのける。
   「そら、その魂を抱いて守っておれ」
   「――!    これは!」
   「冥府に持っていかれる前に何とか救い上げたあの娘の魂だ。何処かへ迷い込まぬよう見張っておれ」
    そして連れてこられたのは何とも仰々しい建物で。
    その傍聴席に座らされたは良いが、何とも場違い感が甚だしい。……これでも王子なんだが。
    しかしこの場が裁きの場であることは何となく察していた。
    ……被告人として、女神が立たされる。
    自分達の世界の神だ。つい先日までは有り難く奉っていたはずの存在なのに、今はあんなにもみすぼらしい。
    そして、裁判官らしき者が前の席に落ち着くと、審議が始まった。
    神々の裁判なんて殆ど訳が分からなかったが、それでも何とか理解しようと苦労した結果、搾取された件には同情はする、が、解決方法並びにそれに対する補助が余りにお粗末ゆえにペナルティを、という話に落ち着いたらしかった。
    項垂れる女神は哀れだったが、和貴には何の感慨も沸かなかった。
    それよりも、触れている感覚すら曖昧なこの魂の方が、今の彼には余程気になっていた。
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