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異世界へ

王都へ

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    件の車は街の門の所で待機していた。
    ……この車、馬車というか――馬は馬でも鉄(多分)の馬だった。
    つまり、所謂バイク。二輪ではなく三輪で、屋根付きのバイクが木製の荷車を引く。……こういうの、東南アジアの町を走ってなかったっけ?
    それが四台か連なり、一台につき一人護衛について欲しいらしい。
    「なら、一番前に幸守、俺は殿を務める。お前達は――」
    「どっちでも構わないけど……まあ僕が二台目に乗るよ」
    「ヒカル、お前は――」
    「和貴と四台目に乗りなよ。四台目は他より荷物が少なくて軽いらしいから」
    「はっ、お、お前ら……!」
    「はいはい、ほらもう行くってよ。さっさと乗った乗った~」
    ……何だろう、やっぱり和貴の様子がおかしい。けど、他の三人の反応からするに彼らはその原因を知ってそうだ。それで私を和貴と一緒にするってことは……。
    「ねぇ、私あんたに何かした?」
   ……心当たり……は……。先日見世物にしたのをまだ根に持ってるのか?
    そう思って尋ねると、和貴は――
   「いや、何も……」
     らしくなく目を泳がせる。
     何やら酷く困った顔をしている。……いつも自信満々な彼にしては珍しすぎる表情だ。
    「……あー、何だ。奴らが言うには俺はお前に懸想してるらしい」
    その彼の口からとんでもない言葉が飛び出す。
    あまりに予想外で不意打ちな台詞に私はあんぐり口をあけた。
    「な、何だその顔は!    俺だって散々あり得ねぇと思って反論したんだ!    けど奴ら聞く耳持ちやしねぇで、こんな……」
    それに慌てて必死に言葉を重ねる和貴は……顔がやけに赤くて。
    私はもう開いた口が塞がらない。
   「あー、げふん。とにかく。奴らの勘違いなんだ。しばらくは面倒だがそのうち飽きるだろ」
    ……そんな会話をする間も車は進む。
    バイクには運転手が一人乗っていて、当たり前だけど手綱を握る必要はない。
    周囲の景色は……普通に草原がどこまでも広がっている。
    日本ではなかなかこんな広い平原は見られないけど、和貴達の世界では嫌というほど見てきた景色と大差はない。
   「……さっき街に居たときは異世界だって、目に入る光景に納得させられてた。――なのに、一歩街の外へ出ただけで、ここが本当に異世界なのかと思わされる。……この目の前の妙な乗り物さえ無ければな」
    「……そうね」
    「俺は覚悟をもって、自分で志願してこの世界へ来た。……それでも違和感や、孤立無援な中で重要任務をこなさなきゃならん重圧を感じている。……投げ出すつもりはないが、これは……キツいもんだな」
    「……」
    「これが覚悟どころか否応なしに押し付けられた事ならそりゃ八つ当たりくらいしたくなるよな……」
    和貴は一転して落ち込んだ。
   「こうなってようやくお前の憤りを少し理解できた気がする」
    だから、と。
   「……公人としての俺は、使命と立場の都合上謝るわけにゃいかねーし、お前を今解放してやるわけにもいかねぇ。――が、無事に戻ったらお前を元の世界に戻してやれるよう全力を尽くそう」
    和貴はこれまで見た事がない程真剣な顔で言う。
   「その間は、俺が責任もって面倒を見ると誓おう」
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