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異世界へ

帰還

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    「――第二皇子殿下よりご指示を賜って参りました」
    眠れない夜を過ごすようになって三日目。王子達からの報告を受けた皇子からの伝令が届けられた。
    「異世界へ渡る支度を全てつつがなく済ませるのにまだ数日は必要との報告が教会より寄せられた為、貴殿ら五人は支度が整い次第即動けるよう皇城にて待機するようにとのご指示を頂いて御座います」
    ……私にとっては良い印象なんかあるはずもない皇都へ向かうことになってしまった晩は勿論眠れず、ストレスがどんどんのし掛かってくる。
    「……まあ事情をよく知らない、頭の固い古狸は煩いだろうが適当に聞き流しとけ。少なくともアオイは既に実積を上げた。……俺達が永いことどうにも出来なかった厄介事を片付けてくれたんだ。煩い事を言う以上の事をやらかそうという奴が居たら俺らが守るからもう少し楽にしろ」
    それを、いつもの配置で中のヒト係だった和貴が自信満々に請け負った。
    「……もし異世界へ転移するときに女神様に会う機会があったら私が暴言吐くかもしれなくても?」
    「――程度によるな。お前の怒りも理解はするが、やはり俺達が一番に優先するのは国と民だ。転移に差し障るとなれば止めるが、二、三文句言う程度なら聞かなかった事にしてやるよ」
    「……本格的な交渉は全部終わってからにしとくわ」
     暑くも寒くもなく。都会的で自然がほぼ無く人工的に整えられた街。各国回って改めて見ると良くも悪くも特徴の無い都だ。御者を務める嶺仙は、街へ入ると寄り道もせずに城へ直行し、馬車を門の中へと進ませた。
    玄関前の車止めには既に出迎えの使用人が控えており、すぐに扉を開けに来た。
    傍では馬を降りた影家達が馬を彼らに引き渡し、嶺仙は御者席を降りて手綱を預けている。
    「降りるぞ」
    先に和貴が降り、エスコートしてくれようと手を差し出した。
    「――和貴様、申し訳ありませんが、彼女は別室にご案内するよう第二皇子殿下より承って御座います」
    「……何?」
    営業スマイル的な、本音の見えにくい笑顔で迫る使用人に、和貴が向き直る。
    「男と女で部屋が違うのは分かるが、休むよりはまず先に皇子殿下へのご報告が先なのではないか?    まさかそれを怠って先に部屋に下がって休むなど、我らを怠慢な愚か者になれと第二皇子殿下が申していると?」
     「ええ、まさか~。いくら皇子殿下といえど全うな理由もなく僕らをそんな風に扱えば……すぐに他の誰かが第二皇子になるのに?」
    「ああ、恐らく何か齟齬が生じたのであろう?」
    三人が次々に苦言を呈している隙に、こそりと嶺仙が何かの術を行使してる。
    「いえ、王子殿下方は応接室でお待ちいただきたいと伺っております」
    「では勇者殿にはどのように伺っておいでか?」
    「その、報告は王子殿下から伺えば十分との事で……先にお部屋にご案内するようにと――」
    「……そうか、分かった。少々意地の悪い取り方をしてしまったようで済まなかったな」
    「いえ、こちらこそいたりませんで申し訳ございません」
    「じゃあアオイ、まあ適当に頑張れや」
    和貴は自分の胸元を探りながらニッと笑い、案内人に付いて城へと入って行った。
    「では、勇者殿はこちらへ――」
    と、私に与えられた部屋は……。
    
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