上 下
38 / 66
旅は道連れ世は情け

疑惑

しおりを挟む
    そこは、いつになく静かだった。
    これまで魔物の群れの中を無理矢理突っ込んで行くという無茶をしながらの緊迫感溢れる場面であったのに。
    動けない植物も歩く木トレントも和貴の炎で一掃され、あちらこちらでブスブスと黒焦げの魔物から煙が幾筋も上がり、その場に一時の平穏がもたらされた。
    「……トレントはのろまな魔物。また集まってくるまでしばし猶予ができましたね」
    「ああ。……なぁ、俺も中に入って良いか?    他のは部下に調査の後に解体せよと命じたんだが、ありゃただの鉄屑だと報告を上げてきやがった。どうも動力から何から全て死んでるらしくてな。……生きた状態がどういう物か見てみたい」
    「ええ、同感です。無論四人全員とは言いません。外で警護に当たる者は必要ですから」
    「……なら、嶺仙は中で決まりだね。頭の良さじゃこの中で一番だし。あとは……もう一人、コイントスで決めようじゃない」
    「良いだろう。俺は表に賭ける」
    「トスは嶺仙に頼むとして……僕は裏に賭けるよ」
    「――では同じく裏に賭けましょう。これで当たったら次は表に賭けるが。嶺仙、頼むぞ」
    「恨みっこナシですよ」
    ……結果は表。
    「ありゃ、一回で綺麗に決まっちゃったか」
    「んじゃ、頼むぞアオイ」
    ああ、何てとんでもない事がこうとんとん拍子に決まっていくの!
    胃が痛い。頭も痛い。
    でも、のんびり迷って悩む暇は無いのだ。
    ――隠された暗証番号は……9534。
    ウチのファミリー軽のナンバー下4桁。
    たまたま、と思いたいけど心当たりのある数字が四回共に共通するのなら。
    震えそうな手で番号を押し、扉を開けてパソコンの電源を入れる。
    「……何だこりゃ!?    突然光だしたぞ!」
    「あー、これ自体は無害だから落ち着いて」
    そして四度目となる今回の画面に示されたものは。
    「クロスワードパズル……」
     正方形の枠の中、等分されたこれまた正方形のマスの幾つかに番号が振られ、それに対応した数字の問題を解いてそのワードを当てはめ埋めていき。
    指定のマスに入った文字を組み合わせたそれが最終的な答えとなるパズルゲーム。
    そして。
     ①龍玉の原作漫画家の名前は?
     ……はい、来ましたー!    このゲームの出題者は地球人で間違いない!    てかかなりの確率で日本人だろ! 
    「――なあ、お前は一体何をやってるんだ?    俺にはさっぱり理解できんのだが、お前は全て分かった上でやってるよな?」
    そしてそれを背後で眺めていた和貴から当然の質問が飛んでくる。
    「……ねぇ、和貴はここに表示されてる文字を読めるのかしら?」
    「いや。何かの記号の様には見えるが文字……なのか、これ」
    「ちなみにだけど、コレの送り主達の使う言語や文字を見たり聞いたりしたことは……?」
    「資料として残っている物はあるが解析も分析もまだできてねぇ。……が、それとは違うもののように見える」
     「……そう。――ねぇ、前に私が私の世界でしてた仕事の話をしたのを覚えてる?」
    私は②の問いの、三鷹に美術館を持つ有名アニメスタジオの名前は?    に答えを入力しながら問い返した。
    「ん、ああ。宣伝業だと聞いたな」
    ……正確には広告業なんだけど――まあいい。
    「そう、そこで使ってた道具の話をしたのは?」
    「まあ、特殊なもんでここじゃそのスキルを生かせないと凄い剣幕で糾弾されたんだから忘れようがないな」
    「……そう。――その道具がこれ。いや正確にはとんでもなく旧式の、それもパチもん疑惑のある物だけど。で、今画面に表示されてるのは、私の世界では割とメジャーなパズルゲームよ。――コレまでと同じなら、このゲームに勝てばここは機能停止させられる」
    「……他もこうだったのか?」
    「クリアを要求されたゲームの種類は違ったけどね」
    「……。」
     ああ、黙りこまないでよ。……かといって何か疑う言葉を聞くのも怖いんだけど。
    ――ゲームは無事クリアし、システムは解除できたけど。
    爽快感皆無どころか、気分はあの時牢に放り込まれた時以上に最悪だった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

所詮は他人事と言われたので他人になります!婚約者も親友も見捨てることにした私は好きに生きます!

ユウ
恋愛
辺境伯爵令嬢のリーゼロッテは幼馴染と婚約者に悩まされてきた。 幼馴染で親友であるアグネスは侯爵令嬢であり王太子殿下の婚約者ということもあり幼少期から王命によりサポートを頼まれていた。 婚約者である伯爵家の令息は従妹であるアグネスを大事にするあまり、婚約者であるサリオンも優先するのはアグネスだった。 王太子妃になるアグネスを優先することを了承ていたし、大事な友人と婚約者を愛していたし、尊敬もしていた。 しかしその関係に亀裂が生じたのは一人の女子生徒によるものだった。 貴族でもない平民の少女が特待生としてに入り王太子殿下と懇意だったことでアグネスはきつく当たり、婚約者も同調したのだが、相手は平民の少女。 遠回しに二人を注意するも‥ 「所詮あなたは他人だもの!」 「部外者がしゃしゃりでるな!」 十年以上も尽くしてきた二人の心のない言葉に愛想を尽かしたのだ。 「所詮私は他人でしかないので本当の赤の他人になりましょう」 関係を断ったリーゼロッテは国を出て隣国で生きていくことを決めたのだが… 一方リーゼロッテが学園から姿を消したことで二人は王家からも責められ、孤立してしまうのだった。 なんとか学園に連れ戻そうと試みるのだが…

今さら、私に構わないでください

ましゅぺちーの
恋愛
愛する夫が恋をした。 彼を愛していたから、彼女を側妃に迎えるように進言した。 愛し合う二人の前では私は悪役。 幸せそうに微笑み合う二人を見て、私は彼への愛を捨てた。 しかし、夫からの愛を完全に諦めるようになると、彼の態度が少しずつ変化していって……? タイトル変更しました。

【完結】都合のいい妻ですから

キムラましゅろう
恋愛
私の夫は魔術師だ。 夫はものぐさで魔術と魔術機械人形(オートマタ)以外はどうでもいいと、できることなら自分の代わりに呼吸をして自分の代わりに二本の足を交互に動かして歩いてほしいとまで思っている。 そんな夫が唯一足繁く通うもう一つの家。 夫名義のその家には美しい庭があり、美しい女性が住んでいた。 そして平凡な庭の一応は本宅であるらしいこの家には、都合のいい妻である私が住んでいる。 本宅と別宅を行き来する夫を世話するだけの毎日を送る私、マユラの物語。 ⚠️\_(・ω・`)ココ重要! イライラ必至のストーリーですが、作者は元サヤ主義です。 この旦那との元サヤハピエンなんてないわ〜( ・᷄ὢ・᷅)となる可能性が大ですので、無理だと思われた方は速やかにご退場を願います。 でも、世界はヒロシ。 元サヤハピエンを願う読者様も存在する事をご承知おきください。 その上でどうか言葉を選んで感想をお書きくださいませ。 (*・ω・)*_ _))ペコリン 小説家になろうにも時差投稿します。 基本、アルファポリスが先行投稿です。

最愛の人は別の女性を愛しています

杉本凪咲
恋愛
王子の正妃に選ばれた私。 しかし王子は別の女性に惚れたようで……

今世ではあなたと結婚なんてお断りです!

水川サキ
恋愛
私は夫に殺された。 正確には、夫とその愛人である私の親友に。 夫である王太子殿下に剣で身体を貫かれ、死んだと思ったら1年前に戻っていた。 もう二度とあんな目に遭いたくない。 今度はあなたと結婚なんて、絶対にしませんから。 あなたの人生なんて知ったことではないけれど、 破滅するまで見守ってさしあげますわ!

よくある婚約破棄なので

おのまとぺ
恋愛
ディアモンテ公爵家の令嬢ララが婚約を破棄された。 その噂は風に乗ってすぐにルーベ王国中に広がった。なんといっても相手は美男子と名高いフィルガルド王子。若い二人の結婚の日を国民は今か今かと夢見ていたのだ。 言葉数の少ない公爵令嬢が友人からの慰めに対して放った一言は、社交界に小さな波紋を呼ぶ。「災難だったわね」と声を掛けたアネット嬢にララが返した言葉は短かった。 「よくある婚約破棄なので」 ・すれ違う二人をめぐる短い話 ・前編は各自の証言になります ・後編は◆→ララ、◇→フィルガルド ・全25話完結

ひねくれもののプレイボーイと、十月十日で結ばれるまで

野中にんぎょ
BL
※獣人×獣人のBLです。受けの妊娠・出産表現を含みます。※  獣とヒトのハイブリットである獣人が存在する世界。幼い頃から「自分と血のつながった家族を持つこと」を夢見ていたラル(25歳・雑種のネコの獣人)は獣人街一のプレイボーイであるミメイ(23歳・純血種のロシアンブルーの獣人)から「ミメイに迷惑をかけない」ことを条件に子種を分けてもらうことに成功する。  無事受胎し喜ぶラルだったが今度は妊娠にまつわるマイナートラブルに悩まされるように。つわりで蹲っていたところをミメイに助けられるラルだったが、ミメイは家族というものに嫌気が差していて――。  いじっぱりで少しひねくれた二匹と、ラルのお腹に宿る小さないのち。十月十日ののち、三匹が選ぶ未来とは? 確かにここにある、ありふれた、この世界にたった一つの愛。

茶番には付き合っていられません

わらびもち
恋愛
私の婚約者の隣には何故かいつも同じ女性がいる。 婚約者の交流茶会にも彼女を同席させ仲睦まじく過ごす。 これではまるで私の方が邪魔者だ。 苦言を呈しようものなら彼は目を吊り上げて罵倒する。 どうして婚約者同士の交流にわざわざ部外者を連れてくるのか。 彼が何をしたいのかさっぱり分からない。 もうこんな茶番に付き合っていられない。 そんなにその女性を傍に置きたいのなら好きにすればいいわ。

処理中です...