上 下
29 / 66
旅は道連れ世は情け

春茨の国

しおりを挟む
    「……本当に、突然景色が変わるのね」
    暖かく柔らかいベッドとお風呂に別れを告げ、私は四人の王子達と一路影家の祖国春茨しゅんしの国に向けて旅をしている。
    今回もまずは“装置”へ直行するルートを行く予定と言うが、道など分からない私にも分かるのは、国境を越えた事くらいだ。
    はらはらと舞っていた雪がしとしとと降り続く雨に変わり、あれだけ真っ白だった景色が若い緑と土の色に変わる。
    まだ少し肌寒いけど、これまでの凍てつく寒さと比べればかなり暖かい。
    ――のだけど。
    「……ここも駄目か」
    もう何度目だろう。山の斜面が崩れて道を塞ぐ。……避けて進もうにも土が水を含みすぎてぐしゃぐしゃの泥沼と化し、迂回しなければならないのは。
    馬車を駆る道もぐしゃぐしゃで、車輪が泥溜まりにハマる事態も既に両手の指で足りない回数経験した。
    そんな状態でも出るものは出る。
    獣も魔物も、一部のこの環境に適応した魔物以外は自身も足を取られながらも襲いかかって来る。
    皆その度に戦っている。
    ……文字通りの人外の体力を持つ彼らも、次第に疲弊してきているのが分かる。
    「あと、どのくらいで目的地に着けそうですか?」
    「……正直、分からない。この先一度も迂回せずに行けて3日。でも……まず無理だから」
    「途中、補給できそうな場所は?」
    「……難しいね」
    食料は携帯食ならまだ10日以上は保つし、水は雨がこれだけ降ってるんだから、煮沸すれば困らない。
    だから珍しく私には問題ないんだ、今回は。けれど、他の四人は……
    「和貴、嶺仙、影家。お前達はあとどのくらい耐えられる?」
    「……正直既に厳しい。ギリまで耐えるならあと2日――でもその反動はでかい。そん時に加減できる気がしねーわ」
    「僕はも少し余裕あるけど……和貴の意見には同意するよ」
    彼らにとって吸血は栄養を摂取する為の食事ではなく、その人外の力を行使する代償であり、その消耗次第で血を必要とする。
    力を使わない限りは吸血は必要なく、しかし毎日限界まで力を使えば毎日、下手をすれば日に複数回の吸血を必要とする場合もある。
    そしてここ数日彼らはこの状況を脱する為に力を使い続けていた。
    冬氷の国での吸血から既に数日経過し、補給の為の保存血液のストックが無くなってから三日。
    「……ウチの国ではずっと雨がちな天気が続いていてね。――嵐にまではならないけど、こういう山がちな土地の近くには危なくて家も畑も作れないから」
    だけど、目的の“ブツ”があるのは山の中。行かないわけにはいかない。そしてそこで出てくる魔物と戦ってくれる彼らが欠けて困るのは私という……。
    ――私の食料はまだあるのだ。
   「……ああ、もう。分かりましたよ。加減できる内に必要な分だけ私が血を提供しますよ。だけど、私の血も無限じゃないんで、その辺そちらで何とか調整して下さいよ」
    「――よろしいので?」
    「すまん、だが助かる」
    「うん、ありがとう。……ここの浄化が済んだらウチの王都に招待する。山はこんなだけど水には困らない――いや困らされるくらいあるからね。風呂と魚料理は豊富にある国なんだよ」
    「――では今日は一番消耗の激しい幸守と和貴。私はまだ余裕がありますので明日は影家さん、私はその後でお言葉に甘えましょう」
    ――そして。目的地に無事辿り着いたのはそれから6日後の事だった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

所詮は他人事と言われたので他人になります!婚約者も親友も見捨てることにした私は好きに生きます!

ユウ
恋愛
辺境伯爵令嬢のリーゼロッテは幼馴染と婚約者に悩まされてきた。 幼馴染で親友であるアグネスは侯爵令嬢であり王太子殿下の婚約者ということもあり幼少期から王命によりサポートを頼まれていた。 婚約者である伯爵家の令息は従妹であるアグネスを大事にするあまり、婚約者であるサリオンも優先するのはアグネスだった。 王太子妃になるアグネスを優先することを了承ていたし、大事な友人と婚約者を愛していたし、尊敬もしていた。 しかしその関係に亀裂が生じたのは一人の女子生徒によるものだった。 貴族でもない平民の少女が特待生としてに入り王太子殿下と懇意だったことでアグネスはきつく当たり、婚約者も同調したのだが、相手は平民の少女。 遠回しに二人を注意するも‥ 「所詮あなたは他人だもの!」 「部外者がしゃしゃりでるな!」 十年以上も尽くしてきた二人の心のない言葉に愛想を尽かしたのだ。 「所詮私は他人でしかないので本当の赤の他人になりましょう」 関係を断ったリーゼロッテは国を出て隣国で生きていくことを決めたのだが… 一方リーゼロッテが学園から姿を消したことで二人は王家からも責められ、孤立してしまうのだった。 なんとか学園に連れ戻そうと試みるのだが…

今さら、私に構わないでください

ましゅぺちーの
恋愛
愛する夫が恋をした。 彼を愛していたから、彼女を側妃に迎えるように進言した。 愛し合う二人の前では私は悪役。 幸せそうに微笑み合う二人を見て、私は彼への愛を捨てた。 しかし、夫からの愛を完全に諦めるようになると、彼の態度が少しずつ変化していって……? タイトル変更しました。

【完結】都合のいい妻ですから

キムラましゅろう
恋愛
私の夫は魔術師だ。 夫はものぐさで魔術と魔術機械人形(オートマタ)以外はどうでもいいと、できることなら自分の代わりに呼吸をして自分の代わりに二本の足を交互に動かして歩いてほしいとまで思っている。 そんな夫が唯一足繁く通うもう一つの家。 夫名義のその家には美しい庭があり、美しい女性が住んでいた。 そして平凡な庭の一応は本宅であるらしいこの家には、都合のいい妻である私が住んでいる。 本宅と別宅を行き来する夫を世話するだけの毎日を送る私、マユラの物語。 ⚠️\_(・ω・`)ココ重要! イライラ必至のストーリーですが、作者は元サヤ主義です。 この旦那との元サヤハピエンなんてないわ〜( ・᷄ὢ・᷅)となる可能性が大ですので、無理だと思われた方は速やかにご退場を願います。 でも、世界はヒロシ。 元サヤハピエンを願う読者様も存在する事をご承知おきください。 その上でどうか言葉を選んで感想をお書きくださいませ。 (*・ω・)*_ _))ペコリン 小説家になろうにも時差投稿します。 基本、アルファポリスが先行投稿です。

最愛の人は別の女性を愛しています

杉本凪咲
恋愛
王子の正妃に選ばれた私。 しかし王子は別の女性に惚れたようで……

今世ではあなたと結婚なんてお断りです!

水川サキ
恋愛
私は夫に殺された。 正確には、夫とその愛人である私の親友に。 夫である王太子殿下に剣で身体を貫かれ、死んだと思ったら1年前に戻っていた。 もう二度とあんな目に遭いたくない。 今度はあなたと結婚なんて、絶対にしませんから。 あなたの人生なんて知ったことではないけれど、 破滅するまで見守ってさしあげますわ!

よくある婚約破棄なので

おのまとぺ
恋愛
ディアモンテ公爵家の令嬢ララが婚約を破棄された。 その噂は風に乗ってすぐにルーベ王国中に広がった。なんといっても相手は美男子と名高いフィルガルド王子。若い二人の結婚の日を国民は今か今かと夢見ていたのだ。 言葉数の少ない公爵令嬢が友人からの慰めに対して放った一言は、社交界に小さな波紋を呼ぶ。「災難だったわね」と声を掛けたアネット嬢にララが返した言葉は短かった。 「よくある婚約破棄なので」 ・すれ違う二人をめぐる短い話 ・前編は各自の証言になります ・後編は◆→ララ、◇→フィルガルド ・全25話完結

ひねくれもののプレイボーイと、十月十日で結ばれるまで

野中にんぎょ
BL
※獣人×獣人のBLです。受けの妊娠・出産表現を含みます。※  獣とヒトのハイブリットである獣人が存在する世界。幼い頃から「自分と血のつながった家族を持つこと」を夢見ていたラル(25歳・雑種のネコの獣人)は獣人街一のプレイボーイであるミメイ(23歳・純血種のロシアンブルーの獣人)から「ミメイに迷惑をかけない」ことを条件に子種を分けてもらうことに成功する。  無事受胎し喜ぶラルだったが今度は妊娠にまつわるマイナートラブルに悩まされるように。つわりで蹲っていたところをミメイに助けられるラルだったが、ミメイは家族というものに嫌気が差していて――。  いじっぱりで少しひねくれた二匹と、ラルのお腹に宿る小さないのち。十月十日ののち、三匹が選ぶ未来とは? 確かにここにある、ありふれた、この世界にたった一つの愛。

茶番には付き合っていられません

わらびもち
恋愛
私の婚約者の隣には何故かいつも同じ女性がいる。 婚約者の交流茶会にも彼女を同席させ仲睦まじく過ごす。 これではまるで私の方が邪魔者だ。 苦言を呈しようものなら彼は目を吊り上げて罵倒する。 どうして婚約者同士の交流にわざわざ部外者を連れてくるのか。 彼が何をしたいのかさっぱり分からない。 もうこんな茶番に付き合っていられない。 そんなにその女性を傍に置きたいのなら好きにすればいいわ。

処理中です...