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旅立ち

日常

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    鋭い警告と共に、四人の男達が速やかに動き出す。
    特に号令を掛け合うこともなく、けれど誰もが自分がどう動くべきかを読み切り、他三人の動きに見事に合わせて動く。
    まず嶺仙が馬車を止めるなり、「縛れ!」と一声あげる。
    その脇を幸守と影家が馬で駆け抜け、幸守は大剣を振り、影家は流鏑馬みたく馬上から弓矢を射る。
    何故か凍りついたように動かない、熊みたいに大きい狼が、見る間に白い雪を血の赤に染めながら点々と倒れ伏していく。
    和貴は……馬車を降り、槍斧を手にその後を追って自分の足で駆け、残りを始末していく。
    その間、僅か数分。
    血の臭いは吹雪に散らされ、血もすぐさま新しい雪の白に覆われ無かったように消えていく。
    ――あれらの遺骸も、また。流石に全て埋もれるにはもうしばらくかかるだろうけど……それでも今日中には埋まってしまうだろう。
    「……何で」
    数十匹居たあれは……
    「こんなに簡単に倒せるんなら、私、要らないじゃない」
    「ああ?    ありゃただの獣だ。出くわさない限りは俺達の敵じゃねえ。あんなのはここじゃ日常だ。平民の自警団で間に合う。俺達の敵は汚れを受けて魔物と化した連中で、俺達の本来の責務だ。だから奴らは、勇者サマに頼みたい本命じゃねえ……が。だからこそ勇者サマが途中で奴らに喰われちゃ困るってんで護衛に付けられたのが俺ら四人なんだよ」
    「女神様の御力を借りるのでは魔物は倒せても、この土地本来の生き物は殺せないそうですから」
    ……へえ。この世界のものを傷つけるな!    ――って?
    ああ。これだけの戦闘能力を持つ輩相手に私の自力だけではどうにも出来ないからな。
    ――こんな事ばかり用意周到だな、駄女神め。
    「……ん、震えてんのか?    まだ寒いのか?」
    「さ、寒くはないわよ。……馴れてないのよ、ああいう……剣とか魔法とか。人死には勿論、動物だって。寿命や病死が当然で。車に轢かれたみたいな不慮の事故を見ることだって滅多になくて、そんなの見た日には肉なんかしばらく食べたくなくなるのに……あんな……」
    「は?    人死にはともかく、肉を食うくせに何言ってる?」
    「私の国ではね、そういう仕事は専門の人がやってくれるから、私達はそういう場面を見る事なんか無いのよ!」
    いやまあ、最近山ガールとかマタギが流行ってジビエ云々とは聞くけどさ。……私はまだそのジャンルは未経験だ。お一人様は好きだけど、ちょっとアウトドアが過ぎるかな……と。思っていたのに、だ。そんなの軽~く飛び越えた光景がリアルに目の前で展開された。
    お陰で、ここがゲームの世界なんかじゃなく、リアルな異世界だと嫌でも認識せざるを得なくなった。
    女神の御力とやら以外にチートは望めないのだと。
    生きたいなら、代償を払ってでもその力にすがるしかなくて。
    嫌なら死ぬしかない。
    ――どこまでも理不尽で、私に意地悪なこの世界で。
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