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第一部 第一章 花嫁選びの宴

与えられた武器と盾

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 ――こんこん。こんこん。

 ん……何の音だろう?

 ――コンコン!
 「あのー、エルシエル様?」

 ノックの音……と、男の人の声。声に聞き覚えは……えーと、誰の声だっけ? ……あれ、と言うか今私どこで何して……って、

 「わーーーー!!」

 「へっ!? あ、エルシエル様!? 何かございましたか!?」

 「あっ、いえ! ……その、私こそすみません、うっかり眠り込んでしまって……」

 エルシエルの叫び声に、答えを待たず馬車の扉を開けた男。
 馬車の御者か……いやこの服装は城の侍従だろう。

 開け放たれた扉の外の景色は城の入口だった。
 流石に正門ではないが、貴族が普通に出入りする一般口。

 着いたから降りろとノックしていたのだろうに、眠り込んで答えなかった上、奇声を挙げて驚かせたのはエルシエルなのだから、ここは謝り倒すしかない。

 「ああ、いえ。昨夜は夜会があったのです、無理もありません。本日はエルシエル様に用意されたお部屋にご案内し、城に滞在中の世話をする者との顔合わせが終われば、明日の朝まで予定はございません。今夜はごゆっくりお休み下さい。……それで、そろそろご案内させていただきたいのですが――」

 「はいっ、すみません! お願いします!」

 あんなに広いと思ったパーティー会場ですら狭く思える。
 王の城はその位広かった。
 建物がいくつも建ち並び、右へ折れ左へ折れとしている内に、自分がどの辺を歩いているのか分からなくなる。
 ここに一人で置いていかれたらもう門へは戻れない。迷子になるのは確定だ。

 決して案内の侍従を見失わない様、必死に後を付いて行く。

 やがて、ある建物に入り階段を上がり。
 とある扉の前で案内人はようやく立ち止まった。

 「こちらがエルシエル様に用意された客間になります」

 と、扉を開けてくれる。
 そこは応接室を兼ねた居間の様だった。

 侍従が引いてくれた椅子に腰掛けると、すぐに扉がノックされた。
 自分が勝手に答えてしまって良いものかと迷っていると、
 「入れ」
 と、侍従が促した。

 「失礼致します」
 入ってきたのは使用人のお仕着せを着た三人組。
 だけど、少し年嵩の一人と、残りの二人ではデザインが違う。
 そして騎士らしき男が一人。計四人。

 「本日より城に滞在なされる間、お嬢様のお世話を仰せつかりました、王宮侍女のユーリカと申します。後ろの二人はメイドのオリガとベティー」
 「私は本日より城内にてお嬢様の護衛を仰せつかりました、王宮騎士、ケインと申します」

 「――本日より花嫁候補として城に入られたお嬢様方は全部で八人。彼女達全てに同じ人数の使用人が宛がわれております。
 期間中、花嫁候補様達の適正を見極める為課題や試験が行われます。
 この者達は貴女次第で武器にも盾にもなるでしょう。
 どうぞ、上手くお使い下さい」

 そして。言う事を言い終えたらしい侍従は一人退室して行った。

 残るは私と、たった今紹介されたばかりの使用人だけ。

 ……さぁて、どうするかね?
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