上 下
1 / 119
第一部 第一章 花嫁選びの宴

プランツ男爵家の“お嬢様”

しおりを挟む
 ふわふわと、真っ白な綿を敷き詰めたような。
 そこにキラキラした光の粒が常に降り注ぎ、真っ白な地面は所々クリーム色に染まる。

 それがここ、光の国セイン・ライトランドの当たり前の風景だった。

 ぽかぽかと常に暖かく、暑過ぎたり寒過ぎたりなんて事はまずありえない。
 植物が育つのに必要な雨は降るけど、必要以上の雨は絶対に降らない。
 たまに降る雨は、虹を伴いキラキラの光と共に地面に降り注ぎ、そこにある実りを豊かにする。

 それもここでは当たり前。

 だけど――

 「お嬢様! 仮にも貴族のご令嬢が平民の様な格好で泥に塗れるなんて!」

 黄金色に輝く小麦畑の一画に女性の、咎める声が飛んだ。

 辺りの小麦より若干色の暗い髪を纏め、品のいいエプロンドレス姿のまだ若い女性が、彼女よりなお若い少女に向けて大声を出す。
 それも好ましくないと彼女は思っているのだろう、不機嫌そうな表情をしているが、それなりに広さのある畑の中、少女に声を届かせようとするならお腹から声を出さねば声量が足らない。
 故に仕方なく大声を出す彼女に、少女――プランツ男爵家の次女エルシエルは。

 「研究のためよ! 民の為、より良い作物や作物の育て方を研究するのは我が男爵家の仕事の一つだもの、男爵家の娘である私がフィールドワークに勤しむのは当然の事よ?」

 何気なく声を出し答えを返すが、その声量は彼女――エルシエルの専属侍女カレンのものをいとも容易く凌駕した。

 侍女の方へと振り返り、立ち上がった彼女は平民と変わらぬ――いや、よく見ると仕立てや生地が若干上等なのだが――作業服に軍手姿のあちらこちらを土で汚していて、今の彼女を見て貴族のお嬢様と思う人は少ないだろう。

 黄金色に輝く小麦の穂の様な色の髪を二つに分けて適当にみつ編みしただけの髪に麦わら帽子を乗せて笑う彼女は実に楽しそうだ。

 この世界で唯一天空に存在するこのセイン・ライトランドの雲の土壌は悪くはないのだけど、如何せん地上に比べて総面積はとても少ない。

 この国の自給率では国民全員食べさせてはいけないので、地上の他国から食料を輸入している。

 が、100%は無理としても、少しでも自給率を上げたい。
 その為に頑張る第一次産業と、その従事者を守り育てる。

 それがこの国の男爵家の一つ、プランツ家に与えられた使命。

 エルシエルもまた、プランツ家の一人として研究者として日々奮闘しているのだ。

 「だいたい、貴族って言っても最下位の男爵、それも私は女でしかも次女。貴族令嬢らしくしてるより研究成果を一つでも多く上げる方が生産性があって良いと思わない?」

 「仕事熱心なのは構いませんが! そのせいで婚期が遅れそうな事、棚上げして忘れて貰っては困ります!」

 「……研究職で最低限自分の口は養える程度の収入はあるんだし、なんならあの屋敷出て独立しても良いんだけどな。次女だし」

 「いいえ。お嬢様に、王宮から夜会への招待状が届いています。……逃げられませんよ?」

 「うへぇ……」
 必殺とばかりに取り出した家紋付きの封蝋がされた封筒を掲げたカレンにエルシエルはげんなりと嫌そうに呻いた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

滅びゆく竜の物語

柴咲もも
ファンタジー
異種族との交流を一切禁じ、人の姿で暮らす竜――竜人族。闇色の鱗を持つ青年ゼノは、禁を破り里を降りた親友イシュナードの消息を追う旅に出る。街道で野盗の襲撃を受け、人間の親子に助けられたゼノだったが、その出会いは予想だにしなかった悲劇を生んだ。 ――急速に勢力を拡大し続ける人間と緩やかに滅びへと向かう異種族達の交流譚。 ※エブリスタに投稿済みの作品を一部改稿して投稿しています。 ※第一章、第二章完結済み ※唐突な挿絵にご注意ください

ゆったりおじさんの魔導具作り~召喚に巻き込んどいて王国を救え? 勇者に言えよ!~

ぬこまる
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれ異世界の食堂と道具屋で働くおじさん・ヤマザキは、武装したお姫様ハニィとともに、腐敗する王国の統治をすることとなる。 ゆったり魔導具作り! 悪者をざまぁ!! 可愛い女の子たちとのラブコメ♡ でおくる痛快感動ファンタジー爆誕!! ※表紙・挿絵の画像はAI生成ツールを使用して作成したものです。

ズボラ通販生活

ice
ファンタジー
西野桃(にしのもも)35歳の独身、オタクが神様のミスで異世界へ!貪欲に通販スキル、時間停止アイテムボックス容量無限、結界魔法…さらには、お金まで貰う。商人無双や!とか言いつつ、楽に、ゆるーく、商売をしていく。淋しい独身者、旦那という名の奴隷まで?!ズボラなオバサンが異世界に転移して好き勝手生活する!

異世界隠密冒険記

リュース
ファンタジー
ごく普通の人間だと自認している高校生の少年、御影黒斗。 人と違うところといえばほんの少し影が薄いことと、頭の回転が少し速いことくらい。 ある日、唐突に真っ白な空間に飛ばされる。そこにいた老人の管理者が言うには、この空間は世界の狭間であり、元の世界に戻るための路は、すでに閉じているとのこと。 黒斗は老人から色々説明を受けた後、現在開いている路から続いている世界へ旅立つことを決める。 その世界はステータスというものが存在しており、黒斗は自らのステータスを確認するのだが、そこには、とんでもない隠密系の才能が表示されており・・・。 冷静沈着で中性的な容姿を持つ主人公の、バトルあり、恋愛ありの、気ままな異世界隠密生活が、今、始まる。 現在、1日に2回は投稿します。それ以外の投稿は適当に。 改稿を始めました。 以前より読みやすくなっているはずです。 第一部完結しました。第二部完結しました。

レコンキスタ

琥斗
ファンタジー
美しき湖と山々に囲まれた【ティエーラ王国】。 世は戦乱の時。 かの小国の奮闘虚しく、湖に抱かれた王都は瞬く間に陥落。 【レグノヴァ帝国】の若き将軍アヴェルヌスの手に落ちてしまう。 碧湖守備隊(ノール・ヴァルト)兵士ティルスは ただ1人処刑を免れるも、戦争捕虜となった後 剣闘士としての生を強いられることになったが……!? ――此れは。 敗者の命に値がつけられ、道具として消費された時代の物語。 ◆注意◆ 基本的には古代ローマ&西洋風の世界観で、 主人公(ティルス)がヒロイン(アレリア)や仲間のために、 強大な帝国と戦っていくファンタジー戦記モノ&時々恋愛モノのお話ですが、 『剣闘士』『奴隷』『戦争』という題材を扱うにあたり、 ・流血表現 ・暴力/暴行を示唆する内容(性的な内容を含む) ・物語上の弱者が痛い目に合う描写 が含まれます。 苦手な方はあらかじめ観覧をお控えいただくか、 気分が優れない場合は、必要に応じて観覧を中断してください。 ≪小説×漫画について≫ 小説で書きたい場面は小説、 漫画にしたい場面は漫画で描いちゃう! という自由型創作をしています。 節タイトルに『◆』がついてるのが、挿漫画もしくは挿絵があるお話です。 ≪おまけ≫ この作品は、2009年に制作した読み切り漫画のリメイク続編となります。 元ネタ漫画(時系列・設定・名称が多少異なります) ↓ https://www.pixiv.net/artworks/77097159 ※リンク先は外部サイトとなります。

転生令嬢の食いしん坊万罪!

ねこたま本店
ファンタジー
   訳も分からないまま命を落とし、訳の分からない神様の手によって、別の世界の公爵令嬢・プリムローズとして転生した、美味しい物好きな元ヤンアラサー女は、自分に無関心なバカ父が後妻に迎えた、典型的なシンデレラ系継母と、我が儘で性格の悪い妹にイビられたり、事故物件王太子の中継ぎ婚約者にされたりつつも、しぶとく図太く生きていた。  そんなある日、プリムローズは王侯貴族の子女が6~10歳の間に受ける『スキル鑑定の儀』の際、邪悪とされる大罪系スキルの所有者であると判定されてしまう。  プリムローズはその日のうちに、同じ判定を受けた唯一の友人、美少女と見まごうばかりの気弱な第二王子・リトス共々捕えられた挙句、国境近くの山中に捨てられてしまうのだった。  しかし、中身が元ヤンアラサー女の図太い少女は諦めない。  プリムローズは時に気弱な友の手を引き、時に引いたその手を勢い余ってブン回しながらも、邪悪と断じられたスキルを駆使して生き残りを図っていく。  これは、図太くて口の悪い、ちょっと(?)食いしん坊な転生令嬢が、自分なりの幸せを自分の力で掴み取るまでの物語。  こちらの作品は、2023年12月28日から、カクヨム様でも掲載を開始しました。  今後、カクヨム様掲載用にほんのちょっとだけ内容を手直しし、1話ごとの文章量を増やす事でトータルの話数を減らした改訂版を、1日に2回のペースで投稿していく予定です。多量の加筆修正はしておりませんが、もしよろしければ、カクヨム版の方もご笑覧下さい。 ※作者が適当にでっち上げた、完全ご都合主義的世界です。細かいツッコミはご遠慮頂ければ幸いです。もし、目に余るような誤字脱字を発見された際には、コメント欄などで優しく教えてやって下さい。 ※検討の結果、「ざまぁ要素あり」タグを追加しました。

称号チートで異世界ハッピーライフ!~お願いしたスキルよりも女神様からもらった称号がチートすぎて無双状態です~

しらかめこう
ファンタジー
「これ、スキルよりも称号の方がチートじゃね?」 病により急死した主人公、突然現れた女神によって異世界へと転生することに?! 女神から様々なスキルを授かったが、それよりも想像以上の効果があったチート称号によって超ハイスピードで強くなっていく。 そして気づいた時にはすでに世界最強になっていた!? そんな主人公の新しい人生が平穏であるはずもなく、行く先々で様々な面倒ごとに巻き込まれてしまう...?! しかし、この世界で出会った友や愛するヒロインたちとの幸せで平穏な生活を手に入れるためにどんな無理難題がやってこようと最強の力で無双する!主人公たちが平穏なハッピーエンドに辿り着くまでの壮大な物語。 異世界転生の王道を行く最強無双劇!!! ときにのんびり!そしてシリアス。楽しい異世界ライフのスタートだ!! 小説家になろう、カクヨム等、各種投稿サイトにて連載中。毎週金・土・日の18時ごろに最新話を投稿予定!!

異世界転移「スキル無!」~授かったユニークスキルは「なし」ではなく触れたモノを「無」に帰す最強スキルだったようです~

夢・風魔
ファンタジー
林間学校の最中に召喚(誘拐?)された鈴村翔は「スキルが無い役立たずはいらない」と金髪縦ロール女に言われ、その場に取り残された。 しかしそのスキル鑑定は間違っていた。スキルが無いのではなく、転移特典で授かったのは『無』というスキルだったのだ。 とにかく生き残るために行動を起こした翔は、モンスターに襲われていた双子のエルフ姉妹を助ける。 エルフの里へと案内された翔は、林間学校で用意したキャンプ用品一式を使って彼らの食生活を改革することに。 スキル『無』で時々無双。双子の美少女エルフや木に宿る幼女精霊に囲まれ、翔の異世界生活冒険譚は始まった。 *小説家になろう・カクヨムでも投稿しております(完結済み

処理中です...