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第一部 第一章 花嫁選びの宴
プランツ男爵家の“お嬢様”
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ふわふわと、真っ白な綿を敷き詰めたような。
そこにキラキラした光の粒が常に降り注ぎ、真っ白な地面は所々クリーム色に染まる。
それがここ、光の国セイン・ライトランドの当たり前の風景だった。
ぽかぽかと常に暖かく、暑過ぎたり寒過ぎたりなんて事はまずありえない。
植物が育つのに必要な雨は降るけど、必要以上の雨は絶対に降らない。
たまに降る雨は、虹を伴いキラキラの光と共に地面に降り注ぎ、そこにある実りを豊かにする。
それもここでは当たり前。
だけど――
「お嬢様! 仮にも貴族のご令嬢が平民の様な格好で泥に塗れるなんて!」
黄金色に輝く小麦畑の一画に女性の、咎める声が飛んだ。
辺りの小麦より若干色の暗い髪を纏め、品のいいエプロンドレス姿のまだ若い女性が、彼女よりなお若い少女に向けて大声を出す。
それも好ましくないと彼女は思っているのだろう、不機嫌そうな表情をしているが、それなりに広さのある畑の中、少女に声を届かせようとするならお腹から声を出さねば声量が足らない。
故に仕方なく大声を出す彼女に、少女――プランツ男爵家の次女エルシエルは。
「研究のためよ! 民の為、より良い作物や作物の育て方を研究するのは我が男爵家の仕事の一つだもの、男爵家の娘である私がフィールドワークに勤しむのは当然の事よ?」
何気なく声を出し答えを返すが、その声量は彼女――エルシエルの専属侍女カレンのものをいとも容易く凌駕した。
侍女の方へと振り返り、立ち上がった彼女は平民と変わらぬ――いや、よく見ると仕立てや生地が若干上等なのだが――作業服に軍手姿のあちらこちらを土で汚していて、今の彼女を見て貴族のお嬢様と思う人は少ないだろう。
黄金色に輝く小麦の穂の様な色の髪を二つに分けて適当にみつ編みしただけの髪に麦わら帽子を乗せて笑う彼女は実に楽しそうだ。
この世界で唯一天空に存在するこのセイン・ライトランドの雲の土壌は悪くはないのだけど、如何せん地上に比べて総面積はとても少ない。
この国の自給率では国民全員食べさせてはいけないので、地上の他国から食料を輸入している。
が、100%は無理としても、少しでも自給率を上げたい。
その為に頑張る第一次産業と、その従事者を守り育てる。
それがこの国の男爵家の一つ、プランツ家に与えられた使命。
エルシエルもまた、プランツ家の一人として研究者として日々奮闘しているのだ。
「だいたい、貴族って言っても最下位の男爵、それも私は女でしかも次女。貴族令嬢らしくしてるより研究成果を一つでも多く上げる方が生産性があって良いと思わない?」
「仕事熱心なのは構いませんが! そのせいで婚期が遅れそうな事、棚上げして忘れて貰っては困ります!」
「……研究職で最低限自分の口は養える程度の収入はあるんだし、なんならあの屋敷出て独立しても良いんだけどな。次女だし」
「いいえ。お嬢様に、王宮から夜会への招待状が届いています。……逃げられませんよ?」
「うへぇ……」
必殺とばかりに取り出した家紋付きの封蝋がされた封筒を掲げたカレンにエルシエルはげんなりと嫌そうに呻いた。
そこにキラキラした光の粒が常に降り注ぎ、真っ白な地面は所々クリーム色に染まる。
それがここ、光の国セイン・ライトランドの当たり前の風景だった。
ぽかぽかと常に暖かく、暑過ぎたり寒過ぎたりなんて事はまずありえない。
植物が育つのに必要な雨は降るけど、必要以上の雨は絶対に降らない。
たまに降る雨は、虹を伴いキラキラの光と共に地面に降り注ぎ、そこにある実りを豊かにする。
それもここでは当たり前。
だけど――
「お嬢様! 仮にも貴族のご令嬢が平民の様な格好で泥に塗れるなんて!」
黄金色に輝く小麦畑の一画に女性の、咎める声が飛んだ。
辺りの小麦より若干色の暗い髪を纏め、品のいいエプロンドレス姿のまだ若い女性が、彼女よりなお若い少女に向けて大声を出す。
それも好ましくないと彼女は思っているのだろう、不機嫌そうな表情をしているが、それなりに広さのある畑の中、少女に声を届かせようとするならお腹から声を出さねば声量が足らない。
故に仕方なく大声を出す彼女に、少女――プランツ男爵家の次女エルシエルは。
「研究のためよ! 民の為、より良い作物や作物の育て方を研究するのは我が男爵家の仕事の一つだもの、男爵家の娘である私がフィールドワークに勤しむのは当然の事よ?」
何気なく声を出し答えを返すが、その声量は彼女――エルシエルの専属侍女カレンのものをいとも容易く凌駕した。
侍女の方へと振り返り、立ち上がった彼女は平民と変わらぬ――いや、よく見ると仕立てや生地が若干上等なのだが――作業服に軍手姿のあちらこちらを土で汚していて、今の彼女を見て貴族のお嬢様と思う人は少ないだろう。
黄金色に輝く小麦の穂の様な色の髪を二つに分けて適当にみつ編みしただけの髪に麦わら帽子を乗せて笑う彼女は実に楽しそうだ。
この世界で唯一天空に存在するこのセイン・ライトランドの雲の土壌は悪くはないのだけど、如何せん地上に比べて総面積はとても少ない。
この国の自給率では国民全員食べさせてはいけないので、地上の他国から食料を輸入している。
が、100%は無理としても、少しでも自給率を上げたい。
その為に頑張る第一次産業と、その従事者を守り育てる。
それがこの国の男爵家の一つ、プランツ家に与えられた使命。
エルシエルもまた、プランツ家の一人として研究者として日々奮闘しているのだ。
「だいたい、貴族って言っても最下位の男爵、それも私は女でしかも次女。貴族令嬢らしくしてるより研究成果を一つでも多く上げる方が生産性があって良いと思わない?」
「仕事熱心なのは構いませんが! そのせいで婚期が遅れそうな事、棚上げして忘れて貰っては困ります!」
「……研究職で最低限自分の口は養える程度の収入はあるんだし、なんならあの屋敷出て独立しても良いんだけどな。次女だし」
「いいえ。お嬢様に、王宮から夜会への招待状が届いています。……逃げられませんよ?」
「うへぇ……」
必殺とばかりに取り出した家紋付きの封蝋がされた封筒を掲げたカレンにエルシエルはげんなりと嫌そうに呻いた。
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